魔王の国Ⅰ-1
タロウたちが大きい島へ旅立ってから約3年の月日が経とうとしていた。
今まで未開拓であった島はいつしか魔王島と呼ばれるようになり、複数の村と一つの大きな都市が出来上がった。
都市の中央には魔王城と呼ばれる立派な城がある。
城主はこんな目立つ城はいらないと言ったそうだが、権力の象徴のためにも必須だということで、立派な城となった。
さて、城主はというと、必死に子守中であった。
彼には二人の妻がいる。
妻たちとの関係は非常に良好であり、互いにうまくやっているそうだ。
結果、移住してから生活が落ち着くと同時に燃え上がるようにことが進み、競うように子供ができた。
子供の面倒は、妻たちを中心に周囲が協力している。今はちょうど二人の子供の面倒を執務室で見ていた。
タロウにとっては初めての子供である。もちろん子育ての経験はないから、すべてが初めての経験だ。
仕事ができるかと思って執務室まで二人を運んだが、当然思うようにはいかず、全く仕事には手を付けられなかった。
二人とも男の子で1歳を超えた子供たちはひとしきり遊び、泣き、何とか泣き止ませたと思ったら泣き疲れたのか寝てしまった。
ようやく自席について、一息つく。
こんなにも疲れてしまったが、不思議なもので自分の子供となると愛おしさが湧き出る。これが親の気持ちか・・・本当に不思議なものである。
軽く仕事を始めたころ、扉をノックする音が聞こえる。
入ってきたのはリナだ。
リナのおなかは服の上からわかるほど、おなかが大きくなってきた。二人目である。
「リクとエイルはどうですか?」
赤ちゃんたちの名前だ。リナが産んだ子供がリク、ノエルが産んだ子供がエイル。二人は協力して二人の子供を育てている。
「今、寝たところだね。」
リナはベビーベットを覗き、様子を見る。
しばらく見た後、落ち着いたように椅子に座り込む。
「どうだった?」
「準備は順調だよ。予定に間に合うと思う。」
「そうか、しかし、帝国も急だな。突然、訪問の予定を入れてくるなんて。」
「おかげで街はお祭り騒ぎです。でもそれが非日常感があって楽しいですけど・・・」
リナはまだ若い。
拘束感のある生活は、少し物足りないかな?
リナは開拓途中の村に率先して、状況確認を頻繁に行ったりしている。
リナは政治面で非常に強力な手助けをしてくれている。だからこそ息抜きは重要だ。それに各地へ出かけ、詳細な状況を知ることは重要なことだ。
談笑を続けていると、もう一人の妻が帰ってくる。
「ただいま、今日もいつも通りだったぞ。ぅ」
「まだ体調が安定してないんだから、無理すんなって。」
「ぅ、わかった。」
ノエルも最近、二人目の子供ができたことが発覚した。まだ見た目には変化がないが、体調面ではかなり辛そうだ。
この通り、身内でまた騒がしくなっているときに、帝国から一か月後にお前の国に訪問するから準備しろよと、通達があった。
全く運のないことだ。
といっても帝国が来たがる理由もわかる。
俺の国は、積極的に工業と、海運に力を入れた。
この島は四方を海に囲まれている。必然的に海運に力を入れざるを得なかった。
幸運にもフジワラ商会や、島に来てくれた人材の中に造船能力を持つ人や操船に強い人等、海に強い人材が多かったため、苦労は少なく海運の力を上げることができた。
最初は帝国のみと交易をおこなっていたが、今はニッホンを除くすべての国と交易をおこなっており、人と物が行きかった。
もう一つ力を入れたことが、魔石の工業利用だ。
元々、俺が得意としていた分野だ。
自分の国ならば遠慮なく、魔石工業を発達させた。ただ、一足飛びに物が出来上がるわけではない。
確かな足並みで工業化を進めていた。
そんな魔王の国。
名前のいかつさはともかく、仕事があり、どんどん発展していく国。
若者を中心に人が集まり、若さ故の喧嘩も多いが経済状況が良かった。
各国は良い経済に乗っかりたいのと同時に、より強力な交易関係になりたいのだ。
そんな各国の狙いは見えているとはいえ、できることは少ない。
いい側面もあれば悪い側面もある。
圧倒的に人が足りない。さらに食料も足りない。今年もかつかつだ。
事業の急拡大に人口の増加が追いつかない。そんな人口増加に食糧生産はもっと追いつかなかった。
今後の交易では食糧輸入が目玉になるか・・・
毎日増える問題に頭を悩ませながら、日々を過ごしていた。
すぐに1か月がたち、港には大変豪華な船が数隻入港した。
「さぁ、二人とも早く着替えましょうね。」
メイドのアンネは子供たちに言葉をかけつつ、着替えさせていく。
妻たちもそれぞれ着替えていく。リナはドレスに慣れているが、ノエルは慣れていないのか落ち着かない様子だ。
「リナ、この姿大丈夫か変じゃないか?」
「大丈夫ですよ。似合ってますよ。」
何とかなりそうか?
女帝の迎えには、ウィリアムに行ってもらっている。
彼もこの3年で大きく成長した。ちょうど成長期だったようで、本当に大きくなった。
「お久しぶりです。ヴェロニカ様。3年ぶりでございますね。」
「ええ、ウィリアムもお変わりない・・・成長いたしましたね。」
「覚えていただき、大変うれしく思います。」
この3年で女帝は大人の女性らしく立派に成長した。女帝としての経験も十分に蓄え、怖いもの知らずとなっていた。
ただ一つのことを覗いて・・・
女帝の目はしっかりとウィリアムをとらえる。彼の背後にいる人物たちを見定めるために・・・




