帝国Ⅸ-8
「リナ、ノエル。俺にとって二人とも大切だ。どちらか、なんて選べない。俺が優柔不断なせいでつらい思いをさせてしまってごめん。もし二人が避ければ俺の国についてきてくれないか?」
なんてひどい告白だろう。
こんなこと言うやつに俺ならついていきたくない。でも他に言い方を知らない。
「もう、こういう時は大胆なんですね。でもせっかくなら2人きりの時も聞きたいです。」
とリナは嬉しそうに文句をいう。
「そうだぞ。今度は、はっきりと言えよ。しょうがないからついて行ってやる。」
と大変嬉しそうなノエルであった。
二人の寛大さのおかげで、一瞬のうちに妻2人と国を手に入れてしまった。
宴が催される。新しい門出と自分達の主を祝福する宴だ。
宴を見ながら、ここ数日の出来事を思い返す。
リナが移動するというのならば弟のウィリアム、それから騎士団もついてくる。
ノエルが来るのだから、商団メンバーもついてくる。
特に商団メンバーは交易も兼ねている。
アレクを代表に、ギルドからも数人参加する。
他、新天地の開拓に参加したい面々がついてくる。困難も大きいが先行者利益は誰もが手にしたいものだ。
以外なことに賛同者は多い。
人数に合わせて、大型帆船が何隻も用意された。
数日後には船の上だ。
宴を楽しみつつも、頭の中は次の計画でいっぱいだ。
すると騎士団の団長に話しかけられる。
「おい、タロウちょっといいか?」
「ああ、問題ない。」
「お嬢様がお前と結婚すれば、私たちの警護対象にお前も入ることになる。しかし・・・」
「ああ、そういうことか。問題ないよ。リナを中心に守ってくれ。俺のことは気が向いた時でいい。」
「私たちはまだお前のことを知らないし、信用できていない。時間が経ったとき、改めて忠臣を誓おう。」
「それで頼む。・・・あ、そうだ一人サポートしてほしいヤツがいるんだ。」
「?」
「ノエルのこともサポートしてやってくれないか?仕えなくていいから、それとなく力になってやってほしい。同年代で同性の知り合いって少ないからさ。」
「承知した。彼女とは気も合うし、できる限りのことはしよう。」
宴の楽しい時間は過ぎ、夜は更ける。
自分で購入した屋敷だけど、もうすぐ手放す。
何故か女帝と俺の共同管理となるが、ここでの生活を送ることはなくなる。
寂しいような、あっという間だったような。
感慨にふけっていると、扉をノックする音が聞こえる。
扉を開けるとノエルとリナが二人並んでいた。
「どうしたんだ。二人そろって?」
「ノエル、お願いします」
「おう、任せろ!」
ノエルに足をかけられ、いとも簡単に体勢を崩される。
「行くぞリナ。」
リナとノエルは二人で俺をベットに押し倒す。
「なにすんだ!」
二人は俺を押さえつけるようにのしかかる。何度も見た光景だ。なんでこう人の上に乗りたがるのか?
何が起こるか、なんとなく察する。
「リナと風呂で話したんだ。これからは三人で暮らしていくことになる。」
「だから、最初のうちに全部晒してしまった方が、後が恥ずかしくないんと思うんです。」
リナが続ける。
俺知らぬの間に二人は呼び捨てになっていた。
「「だから」」
とても気持ちのいい朝だった。さすがに俺も体を鍛えようかな。
毎晩、これは体がもたない。
以前も嗅いだ記憶のある海のにおいを感じる。
立派な船がこれでもかと並んでいる。
各々の船に荷物を積み込んでいた。
初めて行く島・・・というわけではない。
実はすでに空を飛んで先行調査を行っていた。
魔獣が多いと聞いていたから、上陸して戦いが続いたら大変だと思い、調査していたのだ。
幸いにも聞いていたほど、魔獣は多くなく、少しの戦闘で上陸予定地点は確保できた。
調査の結果、人は住んでおらず完全な野生動物だけの無人島である。
こんなにも大きい島なのに、先住民族が一人もいないなんて不思議なことだけど、いないなら自由に土地を使えるので、好都合だ。
船はもうすぐ出発する。
人々がどんどんと乗り込んでいた。
俺も乗り込もうとすると両腕を抱きかかえるようにリナとノエルがくっついてくる。
「ほら、早く行こうタロウ。」
「そうですよ。早く隅々までみたいです。」
二人とも船に乗るのは初めてのようで、船旅が楽しみなようだ。
船に向かう途中アレクとリルカが話しているのを見かける。
「何やっているんだ?あの二人。」
「何って・・・分かりやすいと思いますよ。」とリナは教えてくれる。
「リルカなら大丈夫だ。アレクは・・・タロウほど鈍感じゃないから多分大丈夫だろう。多分。」
アレクはいたってまじめで、リルカは何かを察してニコニコとしている。
アレクがリルカに手を伸ばし、リルカはその手を取った。
「・・・!そういうことか!」
「いまさら気づいたのか?」
「遅いですよタロウさん。」
二人から呆れたような目線が届く。
視線を感じながら、船の中へ急いだ。
何隻もの船が動き出す。
出向を祝うように光がさす。
「久しいのう、コイル。稀代の魔法使いとの旅はどうじゃった?」
「全く命が何個あっても足りねぇぜ。なんてたって自分から面倒ごとに首突っ込んでいくんだぜ。」
「ほっほっほ、そういう男であったな。さて本題に入ろうか。」
「相変わらず、アンタは唐突だな、グラハム。いいぜアイツについて世界を回った感想だけどな・・・今すぐに復活はしないだろう。でも決して遠くはない。」
「そうか。変わらず、警戒継続じゃな。・・・それにしてもタロウは、勇者伝説を追っているのが、まだ一人だと思っとるのか。」
「それは、その通りだな。話についていけるだけの知識がある時点である程度疑ってほしいところだけどな。」
「コイル、あいつとの付き合いは今後も継続せよ。いずれたどり着くぞ。その時、この世界の行く末を託せるのは魔王だけじゃ。」
「へいへい、期待しないでくれよ。」




