新生活
騒がしい音がする。
目を開くと、二人の子供がこちらを覗いていた。
ここはどこかの屋内のようだ。
体が重く、うまく動かせなかった。
何とか手を動かし、小さい声を上げる。
すると子供たちは、びっくりしてどこかへ走って行ってしまった。
起きているのがつらく気づいたころにはまた寝ていた。
自然と目が覚めると初老のおじさんがやってきた。
白髪が混じり始めているが、ガタイがよく軍人のようだ。
そのおじさんは俺が寝ている横に座る。
何か話しかけてくる。
「お前さん・・・迷い人・・・」
ところどころ聞き取れなかったが日本語のような言葉をしゃべっていて、まるで方言を聞いている気分だ。
会話をしようとしたが、相手も言葉を聞きとれないようだ。
いくつか言葉や単語を音に出してみる。栄養不足からか回らない頭を使い、眉間にしわを寄せながらいくらか話す。
やはり近い言語だとわかってくれたみたい、何とか聞き取ろうとしてくれる。
近くに所持品が置いてあることに気づき、一緒に飛ばされた文房具を使って簡単な絵をかいて何とか伝える。
この絵を見たおじさんは同じく簡単な絵を使って説明してくれた。
どうやら彼らは旅をして物品を取引する商団なのだそうだ。
森の通り道で俺が倒れているところを見つけ、治療をしてくれた。
後からわかったことだが、あの森で自分と同じように迷っている人は多く、道中で倒れている人がいたら生きている場合は救出するのが暗黙の了解らしい。
そうしないと肉を食べる獰猛な獣が道をうろつくようになるからとのことだ。
また俺のような放浪者を「迷い人」と言う。
こっちの世界に飛ばされた人は多くはないが、伝承には残っており、俺の説明がよくある伝承に似ているらしい。
俺は2~3日の間、治療を受けた。そんなにひどくなく、順調に回復していった。
その間いろいろなことを考え、元の世界の事を思った。
起きて動き回れるようになった。
俺を覗いていた子供たちは、シバタ・エリーとマイクこの商団の子供たちで一番下らしい。
妙に和名の苗字が多いのは不思議に思ったし、下の名前は和名のようになっていないのか不思議であったが、理由は分からなかった。
エリーはくせ毛のブロンドで目が青い
マイクは黒目で短い黒髪の子だ。
「タロウ君、具合はどうだ?」
この人はスズキ・ジャック
目が覚めた時、色々教えてくれたおじさんで、この商団の団長だ。
「はい。 とてもよくなっています。食事もありがとうございます。」
言語が近かったおかげで、簡単な会話ならすぐに習得することができたし文字も理解できた。
「それはよかった。迷い人は亡くなる人も多いからな。回復してよかった。・・・さてお前さんはこの後どうする気でいる?」
これは治療されている間ずっと考えていたことだ。今のまま一人で行動をしても、また行き倒れるだけだ。元の世界に帰る方法もわからない。それだったら・・・・
「どうか、この商団で働かせてもらえないでしょうか。どんな仕事でも頑張ります。」
「うむ。 そう言ってもらえると嬉しい。ちょうど若い男手が他の村に嫁いでしまってな、人手が足りてなかったのだ。そういうことでこれからよろしく頼む。」
次の日から外も動き回れるようになったので、挨拶回りをした。
その日から、荷物運びに商品販売、仕入れなど今までの人生でやったことの無いことをこなし、その傍ら、この世界でのルールや文化そして言葉を学んだ。
仕事はものすごく大変だったけど、文句を言っている暇もないので馬車馬のように働いた。
~6か月後~
「タロウ、荷物しまったら今日は終わりでいいぞ。夕食まで自由時間な」
この人はシバタ・ユーリ、エリーとマイクの父親だ。
俺はなぜか子供たちになつかれ、よく遊んでいたら、この人が直属の上司みたいになった。
マイクと似て黒髪で短髪だ27歳らしい。少し言葉足らずなところがあるが、とてもやさしい方だ。
ササっと積み荷を縄で縛り、大きな音を立てながら、勢いよく台車に積み込んでいく。
商団のみんなは身元不明な俺の事を詳しく聞かないで快く受け入れてくれた。都合がいいとは思ったが便乗して記憶が曖昧になっていることにした。
仕事を終えて、自分用のもらった小さいテントに飛び込むように入る。
カバンから、ある鉱物を取り出す。最近見つけて今ものすごく惹かれているものだ。
名前は魔鉱石、略して魔石と呼ばれている。この世界における燃料、エネルギーに値するものだ。
最大のポイント!
仕組みは分からないけど、石に触れてイメージを送るように集中すると光ったり、熱を持ったりする。
まるでアニメやゲームでよく見る魔法みたいだ。
魔石は純度による分類がある。
高純度の物は非常に高価だが、能力も高い。低純度は安価で大量に算出するが、魔石としての寿命が短く、出力も弱い。
異世界に飛ばされて死ぬかと思ったが、こんな摩訶不思議な物があったなんて初めて知ったときは驚きと興奮で眠れなかった。
ここ最近はこの石の性質調べで一日が終わってしまう。もともと自然現象そのものが好きな俺には、こういうのも面白い。
「タロウおにいちゃん。また石とにらめっこしているの?本読んでー」
いつの間にかテントに入ってきたエリーが服を引っ張ってくる。
エリーは文字を読むことはできないが、本が好きなようだ。
しばらく読んでやると飽きて遊びに行ってしまうので適当に読んでやっている。ちなみに本は印刷技術が発展していないみたいで、非常に高価だ。
絵本みたいな幼児むけの本は、もちろん無い。
今から読む本も持ち物ではなく商品の本を汚さないように読んでいる。文字はひらがなに似た作りをしていて51音あった。
今読んでいる本はどこかの地方で語られる言い伝えを文章にしたものだ。
竜は街を破壊して回るが数人の英雄的な男女が挑み竜を収めるという物語のようだ。
「ねぇねぇ この女の人は最後に光っているのなんでー?」
「本には聖なる巫女が正義の光を発生させ、悪なる竜をうち滅ぼした。後には大きく窪んだ台地が残りいつしか湖になった。って書いてあるな」
「その人はどうなったの?」
「どうなったんだろうね? 続きには周辺の村が復興し、さらに大きく発展したことが記されているみたいだね。」
エリーは満足していないみたいだ。
「やっぱり最後は勇者みたいな人と結婚して幸せに暮らしたと思うぞ。」
物語にはなかったが満足してもらうために無理やり付け足してしまった。予定通り満足してもらえたようだ。
やっぱり女の子にはシンデレラストーリーは受けがいいらしい。
「やぁ 子守りは大変だな。タロウ青年」
聞き飽きた声が聞こえた。