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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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帝国Ⅸ-1

燃える資料を見る


「これで終わりですよね。」

珍しくアレクが弱弱しい声を出す。


「おそらくな。女帝の依頼も完全に達成した。」


その後の会話はなく、一気にノエルやコイルが駐留していた場所まで戻った。

帰るなり、ノエルに殴られる。

「お前、何の連絡もなくどこ行ってたんだよ!。」

「すまない、でもすぐにやらないといけないことができてね。もう終わったから大丈夫だと思う。」


コイルにも小言を言われる。

「お前の言うことだ。本当に問題ないんだろうけど、コイツを抑えるこっちの身にもなってくれよ。」

そういってノエルのことを指さす。ノエルはまた暴れだす。


「二人とも済まない。帰ろう。」


駐留地で一泊だけ休憩し、次の日の朝早くに帝国に帰った。

短い期間の出来事だったはずなのに、なんだかとてつもなく長く、そして疲れた。


いつもの見慣れた屋敷が見えてくる。

空中を飛んでいた魔導四輪はゆっくりと降りてくる。

例にもれず大きめの音が鳴り響くので、中から人が出てくる。


一通り挨拶が終わると、俺はウィリアムとリナを呼んだ。

「君たちの父の左腕を取り返した。」


そういって確保した左腕を見せた。

二人とも息をのむ。


ウィリアムはじっとその腕を見つめ、リナは腕を手に取った。

何かを懐かしむように魔石に囲まれた腕をなでる。


「タロウ様、こちらの腕を頂いてもよろしいでしょうか?私たちで弔いたく思います。」

「分かった。後は任せる。」


「タロウさん、父を魔石にした人物はどうなりましたか?」

「俺との戦闘の結果、戦死した。」

「そうですか・・・ありがとうございます。」


ウィリアムはこぶしを握りしめる。



「戦争の結果を教えてください。」

夜になりリナが聞いてくる。


「王宮に乗り込んで、王国の上層部と話してきた。」

「王宮に乗り込んだ!?」


とてつもなく驚かれる。

字ずらだけ見ればとてつもないことをしているから当然といえば当然か・・・


「ああ、王宮の上層部の話によれば、終戦の方向へ舵を切るらしい。何以後ともなければ戦争は終わるだろう。」


俺の言葉を聞いて、安堵の溜息が周囲から聞こえてくる。

その後も何人かと会話をした。


どれも結果はどうなったとか、これからどうしていくとか、そういったことばかりだ。

そんな会話が、戦争が終わったことを実感させてくれた。


数日後、帝国と王国が休戦したという情報が出回っていた。

世の中は浮足立ち、喜ぶ者、悲しむ者、反応は人それぞれだ。


俺は俺で忙しく用事をこなしていた。

まず帝国の報告を行うため、事のいきさつを手紙にして帝国上層部へ渡した。

魔導四輪をエマさんのところに帰したり。

おろそかになっていたリナたちの生活基盤を整えたりと動き回っていた。


その中でも、一番時間をかけていること。

ノイマンが残した書物の解析である。

非道な実験の数々が記録されていたが、俺が知りえなかった人や動物と魔石の関係性を詳細に解き明かし、分かりやすいように記録が残されていたのだ。


悔しい話だが、研究者としては、本当に優秀であることが如実にわかった。

この研究結果は俺の研究にも生かすことができる。


ノイマンは完全に生物の魔石化にたどり着いていたようだ。

しかし魔石に流す魔素の量や方向をコントロールすることに苦労していた事がうかがえる。


これは液体魔石を利用すれば解決できそうだ。

アイデアを思いつくたびに、ノイマンの言葉がフラッシュバックする。

’この研究を完成させる’・・・か


ノイマンの言葉に従う気は全くないけど、改良を施そうとしている自分がいる。

いや、俺は単に技術的な興味にしたがって技術開発をしているだけだ。

自分に言い聞かせ技術開発を続ける。


終戦から一か月の月日がたったころ。帝国と王国の和平交渉が始まっており、大盛り上がりしているようだ。


俺は相変わらず研究を続けていた。

ノイマンの研究結果に対して解析は完全に終了した。

素晴らしい研究成果であったが、あまりにも非人道的な実験や研究の数々だ。

俺は使えそうな研究結果だけを書き写し、獲得した書物を地下の研究室に封印し、自分の研究を続けていた。


資料を机の上に置き、空想にふける。


幸か不幸かノイマンの研究結果によって、行き詰っていた研究が進み、自分の研究が大きく前進したのだ。

そう、失ってしまった体の修復である。


回復の魔石は失ってしまった部位を復活させることはできない。

しかし魔石と人の親和性は非常に高い。

魔石の力を使って、回復を促す事はできないか?ずっと研究していた。

人体実験ができないから、進んでいなかったが、その点を突破したのだ。


理論的にはかなり完成に近づいたといえる。

しかし、まだまだ課題がある。

例えば回復の兆しは見えたものの、どこまで回復するか分からないこと。


何より魔石への反応性が高い人に手伝ってもらわなければならない。

体の組織を利用するのだ。

つまり一人の人間を他人のために材料としてしまう点がある。


せめて自分の体の一部を使って自分を治すぐらいまで技術を昇華させないと・・・

「タロウさん。お客様です。」


リナに呼ばれて地下室を出る。


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