王宮の戦場-1
鎧はへこみ、土汚れが目立つ。
私の付けた傷のせいで、うまく動けなかったのでしょう。
結果としていくつかの落石に当たり、ダメージを受けたようです。
ボナパルトが顔だけを動かして、私を睨みつけます。
どうしましょうか・・・
何故か・・・何故かこのタイミングでとあることを聞きたくなりました。
「あなたは私の家に攻め込んだ時、あの情報をつかんでいましたか?」
睨みつけていたボナパルトの顔が少しだけ真顔になります。
「何のことだか知らないな。俺は裏切りに対して処罰を下したまでだ。」
「そうですか。」
顔を上げると、崩落した採掘地が目に入ります。
タロウのことだから、何とかしているでしょうけど、さすがに加勢に行った方がいいでしょうか。
さすがに目の前の崩落現場を掘っていくわけにはいけませんね・・・
悩んでいると背後に気配を感じます。
逆光が差し、宙へ浮かぶ男が目に写ります。
「何をしているのですか?タロウ。」
「加勢に来た。けど、いらないみたいだな。・・・」
さすがにボナパルトは驚いた表情をします。
「ばかな、ノイマンがやられただと・・・ノイマンはどうした。」
「彼は死んだ。最後は左腕の魔石の暴走によって炎に包まれたよ。」
「・・・」
もはや言葉はなかった。
「彼がボナパルトだね?」
俺の問いかけにアレクはうなづく。
アレクの肩に手をかけ、回復の魔石の力を使う。
アレクは一瞬のうちに強い光に包まれ大きな傷は塞がった。
そしてボナパルトの方へ歩いていく。
「何を・・・する気だ?」
俺は何も言わずに、回復の魔石を使う。
ボナパルトについていた傷はどんどんと塞がっていく。
「死に際のノイマンにお前を助けるように言われた。アンタはこの戦い方に反対だと聞いた。それに何よりも王国を思う者だとも。」
「ノイマンが似ていると言っていた意味がなんとなく分かるな・・・」
「どこが。」
それ以上の会話はなく、回復が終わるまでじっとしていた。
「よし!いつ崩落が再開するかわからない。ここを出るぞ。」
「分かりました。ボナパルトはどうしますか。」
「回復させたのに、崩落で死なれたら、元も子もないだろ。一緒に連れていく。何よりせっかく回復させたんだ。一仕事してもらおうと思ってな。」
「タロウがそれで良いであれば構いません。」
3人は外に出る。
アレクが2つのバトルアックスを持ち、俺が電気的に麻痺させながら、ボナパルトに肩を貸す。
出口で待っていたのは、大量の王国兵であった。みんな泥やすすに汚れ、長く戦っていたことがうかがえる。
「あれが王国の乗っ取りをするやつか。許せない!」
「あれ、軍曹じゃないか?」
「魔法使いで王になろうとしているやつだろ。」
「魔法使いの王・・・なら魔王だ。」
魔王!? とリアクションをとる暇もない。
すでに剣を構えられている。
人体魔石を発動している者もいる。
一刻も早くこの場を離れなければならない。
敵対する相手がいなければ魔石を発動する必要もない。
「二人とも飛ぶぞ。」
?、「分かりました」
ボナパルトは何が何だか分からないという表情をする。
「みんな、軍曹様を助けるぞ!」
「オオーーー」
地鳴りともとれる掛け声を、しり目に三人は高速で上昇する。
一気に王都に向かって加速を開始した。
力の使い方を覚えてきたのか、いつもより早く移動しているのに、全く疲れない。
どんどんと速度を上げていく。
午前中に戦場をたち、日が落ち始めたころ王宮にたどり着いた。
タロウが王宮までたどり着いたころ、王宮全体を二回揺らすような大きな音が鳴り響いた。
以前来た時に、王室や会議室の場所は把握している。
大きい部屋なら誰かはいるだろう。会議室でもめざすか?
迷うことなく、王宮に侵入し、会議室まで直行する。
会議室には都合がいいことに、多くの人間がいた。
宙に浮いたまま周囲を見回す。
目の前には周りと違い豪華な人間がいる。
おそらくあの人が王だろう。
かなり弱っている様に見える。
皮は骨に張り付き、髪も白い。
窪んだ眼からは鋭い視線がうかがえた。正直言って全く覇気というものを感じなかった。
王と思わしき人物の周りには若い、これまた豪華な服装の人々がいる。
幼いな・・・怖がらせてしまっている。申し訳ない。
子供もいた。顔が引きつっている。
どうやら相当な集会のタイミングで侵入してしまったらしい。
ドアをけ破って侵入してきた俺を誰もが見つめていた。
ぐるっと見回し、全員の顔を確認する。
その中に一人見覚えのある顔があった。ルイス・アドキンス。クララの父だ。
彼もまた驚いていたが、俺を確認するや否や、すぐに平静を取り戻す。
遅れて、入口から兵士がなだれ込んでくる。
「何者だ!名をなのれ!」
兵士の一人が声を荒げる。俺は兵士を電撃によって麻痺させ、一時的に行動不能にする。
そして、その場にボナパルトを落とした。
俺が落とした人物を見て、誰もが息をのむ。
「まさか、軍曹がやられたのか!?」
「生きてはいるようだぞ。」
「戦線は・・・戦線はどうなった。」
「ノイマンがいるはずじゃ!」
ふと聞こえた声に反応する。
「その男は死んだ。」
俺の声に今度は誰も反応できなくなる。
俺はゆっくりとその場に降りた。
アレクはボナパルトが使用していた武具も卸す。
ルイスは冷静に質問を投げかける。
「何が目的だ。」
「停戦せよ。」




