戦場の採掘地-6
時は少しさかのぼって、タロウがノイマンと再会したころ。
狭い坑道には不釣り合いな大斧を振り回す二人の人間がいる。
「少しは腕を上げたじゃないかアレク。」
「あなたはなまりましたね。攻撃が軽いです。」
ボナパルトはアレクの攻撃を受け止めるというよりはいなすしかできないように見えた。
激しい打ち合いは続く。
「なぁアレク、王国に戻らないか?」
「・・・今更何を言い出すかと思えば頭まで訛りましたか?」
ボナパルトは頭は良かった印象だったが・・・
「冗談を言っているつもりは無いぞ。」
「冗談にしか聞こえませんね。今の王国に戻ろうとは思えません。今の王国はあなたが目指した王国ですか?」
二人の打ち合いが止まる。
「当たり前だ。私は常に王国のためを思って行動している。この戦争もその選択の先にある。」
「人体魔石を使い、大量の犠牲を払ってまで、何を得たというのですか?」
「得ているさ。元々この戦いは勝つ必要はなかった。この採掘地を手中に納めていればよかった。」
「よくわかりませんね。勝たなければ戦争が続くではありませんか。」
「お前はバカだったからな・・・採掘地が生み出す利益が戦争で失うものを上回っていれば王国は続いていく。」
王国が抱える問題は寒冷なことが要因となっている。
火の魔石が大量に採掘された、この採掘地は都合がよかった。
「その結果が・・・その結果があの犠牲者だというのか!」
アレクは怒った。
その気持ちは痛いほど理解できた。しかし、同時にお前に何がわかると・・・ふつふつと湧き上がるものを感じる。
「戦争を過激化させたのは帝国が原因だ。」
「何を言っているのです?」
「あの女帝は優秀だが、いまだ優柔不断だ。
不用意に戦地に近づいた帝国の馬鹿がいる。少しの火種で爆発するような火薬庫の中で魔素にすら気を配って生活していたというのに、煙草をふかしながら歩いてきた。当然、次々と火はつくだろう。本来は武力衝突も起きるはずがなかった。」
アレクには目の前の男が本当の事を言っているかどうか、定かではなかったが、彼はこんなところで嘘をつくような男ではない。
敵ながらに信頼はあった。
「小競り合いという事にすればよかったのに、沽券だの威信だのと捨て置くべきものにとらわれて・・・しまいには戦闘用に改造した魔導四輪ときた。私には帝国が戦いたくて戦ったように見えたがね。」
「私は王国側が先に仕掛けたと聞きました。」
「戦闘で勝利するためには先に攻撃したほうが有利だった。ならば攻撃するのは当然だろう。所詮、戦争なんてそんなものさ。勝てば官軍、負ければ賊軍。いつの世も変わらない法則だ。」
両者は互いにバトルアックスを構える。
一瞬にして近づき、武器を打ち付けあう。
完全に力が拮抗しているのか、打ち付けあうたびに少しづつ刃が削れていく。
「あなたは王国のためだと私の家族を追いつめた。次は王国ためだといい、国家を揺るがすのですか!」
「違う!確実に王国は豊かになっている。技術は確実に進み、自国の産業が発展し、いづれは全ての人々に富が届き始めるだろう。」
「どこにあなたの言う富があるというのですか!」
アレクの方が長く戦場にいたため、感覚がするボナパルトの力が強くなっていることを如実に感じていた。
「見方の問題だ。アレク・・・世代交代も進みつつある。・・・俺は次の王国のために、いかなる犠牲も厭わない。」
アレクにはボナパルトの一番重たい攻撃が来るとわかった。
迫りくるボナパルトの刃に合わせて自分の斧を少しだけひねる。
ひねった斧に合わせてステップを踏む。
ボナパルトの攻撃は打ち合った刃が滑り、空を切る。それだけではない。力のこもった一撃は簡単にはやめることができない。
振り下ろした姿勢になっているボナパルトにアレクの一撃が放たれた。
二人の男は交差する。
一方は肩で息している者の無傷の男。
もう一方も肩で息しているが、肩から胴にかけて斜めに傷ができている。
両者の実力は拮抗している。
この状態では勝敗が決したようなものだった。
だがボナパルトは諦めない。
国の為にもこんなところで死ぬわけにいかないのだ。
もう一度踏み込もうと思った時、採掘地全体が揺れ始める。
そういえば、タロウが進んでいった先から爆発音が響いていましたね。
正直言ってタロウの心配はありません。彼は力はこの世界を超越している。・・・しかし、暴れすぎていませんかね。
今にも崩れそうです。
アレクとボナパルトの目の間に巨大な岩が落ちる。
・・・立ち止まっている暇はなさそうです。
私は走り始めます。ボナパルトも同時に走り始めます。
目の前に大小さまざまな岩が落ちていきます。
体をひねり、武器で払い、可能な限り直進していきます。
出口は見えませんが、崩落は止まりました。
後ろを振り返るとボナパルトがうつぶせで倒れていました。
胸は揺れているので、生きているようです。




