帝都Ⅱ-1
コツコツとなれた振動が体を揺らす。たまに大きく揺れるのはご愛敬だ。
今は帝都行きの馬車に揺られていた。
いつもなら荷物を抱えてぼーっとしているが、予想外なことに今度はさっき助けた少年に絡まれていた。
少年はサカモト・ダニエルというらしい。
「先ほどのあれはいったいなんですか?資料には載っていない新種のようですが!」
「声がでかいよ。魔術に関しては秘密だ。」
少年は聞きたそうにうずうずしているが、基本的にダメといったことは聞いてこない。いい子ではあるのだろう。
うずうずしているなぁ、なんだか少し悪い気がする。
「お前どうして帝都に来たんだ?」
「それは村で唯一の魔石使いだからです。村の中で一番使える魔石が多くて、同時につかうこともできます。だからこの力を使って研究者になるために来ました。ひいては村が豊かになるような研究をしたいです。」
聞いてみると懐かしくもあり、親近感を覚えた。すごく若い。年齢を聞くと15歳で村長の息子らしい。複数の魔石を同時に使う事もできるという。
俺もできるが、やはり出力は落ちる。右手と左手で別々のことをやるような難しさだ。
ちなみにこの世界は平均寿命が60歳くらいで20歳になるとほとんどの人が所帯を持つ。
「研究をしたいというが、どこかあてはあるのか?」
「父が帝都で働いていた時、知り合いになった研究者を紹介していただきました。下宿があるので、そこに住み込んで学びます。」
「そこでどんなことを研究するんだ?」
「・・・・・・」
「無計画か、ということは村にとって何の魔石研究が良いとかわからないとかじゃないか?」
むっ! 自分で言ってて意地悪に感じてしまった。ここまでいうつもりはなかったのだが・・・
「・・・そうです。しっ、仕方ないじゃないですか。村の外には出たことがなかったんです。魔術や魔石に関する本も村にたまたま届いたものしか読めなかったんですから。何も知らないのは重々承知しています。ここから学んでいきます。」
「そうかい、まぁがんばりな」
質問攻めにあった腹いせのようになってしまった。
こうやって若者は少しずつやる気をそがれてしまうのだ。自分も食らってきたものを後輩にやってはいけない。反省だ
「はい、だから先ほど使っていた魔石や魔術についてお聞きしたいことがあります。」
前言撤回、逆に彼のやる気スイッチを入れてしまったらしい。
そのあと帝都に着くまで質問攻めにあった。
一日かけて帝都に着くころには、へとへとに疲れてしまっていた。
何とか逃げ出し、冒険者用の宿泊施設に着いてベッドに倒れこんだ。気づいたら次の日になっていた。
数日後、研究の進捗が知りたくなり、エマの研究所を訪れた。
「やあ エマさん。研究はどうだい?」
「タロウさんお久しぶりです。見てください!ものすごく出力が上がるようになりました。あとはどうにか小型化できれば本格的に馬車に乗せられるようになります。」
俺は結局、大学にいた頃の知識をそれとなく提案してみたり、議論を通して伝えてみたりしていた。
エマさんはそれを飲み込むように吸収し、次々と結果を出しているようだ。一応業界にも新しい考え方として広まってきているらしい。
「それはよかった。今日は以前言っていた、魔石の斡旋に来たよ。依頼通り、高純度の火の魔石1個と低純度の火の魔石多数です。」
「ありがとうございます、帝国の研究動向ですね。」
エマさんが少し微笑むと、
「それでは奥のテーブルお越しください。ちょうど休憩しようと考えていたんです。そこで紅茶でも飲みながらお話しましょう。」
「今、帝都で行われている研究は主に3つの大きな分類があります。
一つ目は魔石とは何なのかということを研究しています。
二つ目は軍事利用の開発です。
三つ目は生活利用です。
このうち一番活発に研究されているのは、、、」
「軍事研究ですね。」
「はい、、」
エマさんは少し目線を落として答える。
「帝国は北の王国や周辺諸国とは、今は停戦協定を結んでいて、ここ数十年は戦争を起こしていません。しかし戦争が終わったわけではないのです。だから他国との競争に負けないように軍事利用しようというのは理解ができます。」
「理解はできるが納得はできないという感じですね。軍事研究が他の分野の研究を進めるようなとこともあるのでは?」
「はい・・・確かに多くの研究結果が軍事研究のおかげで発展したのも事実です。」
エマさんは話を区切るために紅茶を一口飲む。
「次に活発に研究されているのが生活利用です。そのあとに魔石の基礎研究と続きます。
でも軍事利用にかけられている資金と他二つには大きく開きがあって、ほかの二つはあまり変わりがありません。」
「一番使われている魔石の種類は?」
「火の魔石が多いですね。弓矢と組み合わせたり、大砲に利用したりとさまざまですね。」
予想通りだな・・・
「なるほど、ありがとう。今日はこのぐらいで大丈夫です。約束通り、火の魔石です。」
「ありがとうございます。タロウさんのおかげで研究が進んだから、魔石がいっぱい必要だったんです。通常のルートでは価格が高騰しているし、大変なんですよ。」
「亜獣の増加だっけ?最近問題になってるですよね。」
「そうです。理由は不明なんですが、今までいないような場所に魔獣や亜獣が発生するようになって輸送が滞るようになってしまっている問題です。」
思い当たるふしがたくさんあるし、実際に被害にもあった。
「まっ俺達にはどうにもできない問題なんですけどね。」
「そうですね。早く収まってほしいですね。」
俺はしばらく雑談をして、エマの研究所を後にした。
日々の稼ぎのため、残った魔石をギルドで売ろうと思い、ギルドに来るとなぜかフジワラ商会会長のマリーさんがいた。
「やあ、少年。君がこんなところで油を売っていると聞いてね」
「誰が油を売るところだって?」
聞きなじみがない声が聞こえてきた。
「グラハム、あなたがここにいるなんて珍しいこともあるものね。」
「お主こそ、ここに来るとはな。明日は嵐か?」
二人はどんな関係なんだろう。ちなみにグラハムさんはこのギルドのギルドマスターで南方の出身らしい。筋骨隆々で浅く焼けている。
「まあいい、グラハム個室を借りていいか商談をしたい。」
「いいぞ、ただし俺も同席させろ。お前が気に掛けるそいつが気になる。」
俺とグラハムさんの目線が交差する。
「はぁ~構わない。タロウ行くぞ。」
マリーさんがすれ違いざまに耳打ちしてくれた。
「タロウ。私が君を知っていたようにギルドも独自の組織体制を持っている。
君の事は少なからず、ばれていると思っていい。」
俺はそれを聞いて魔石ランプを握りしめた。