戦場の採掘地-2
何も答えられない。
例の採掘地は戦闘地域のど真ん中にあり、一番広い入口の目の前でも激しい戦闘が連日行われている。
先に仕掛けたのは王国だ。
先行者利益で王国側から採掘地に向かって通路を掘れたのだろう。
この採掘地はアリの巣のようにいくつかの入口を持っている。
しかし、そのほとんどが戦場になっている。
王国は一部の入口を確保していたようだ。
そこを拡張して、内部へ侵入している。
もちろん王国側に掘られているだろう穴は厳重に警備されている。
無理に採掘地内部に入ろうとすれば、激しい戦闘は避けられない。
かといっていつまでも手をこまねていられない。被害が広がってからでは遅いのだ。
仮に防御を全開にして突っ込んだとして、その後はどうする?
内部の詳細な構造を知らない。
派手に侵入する分、追ってくる兵士もいるだろう。
ノイマンと戦闘になるかもしれない。他の兵士を相手しながら、ノイマンの相手をするなんて不可能だ。
大規模な攻撃はもってのほかだ。余計な人死には避けたい。
どうする?
「木を隠すなら森の中という言葉があります。人の注目をそらしたいなら、人の注目を集めればいいのではありませんか?」
アレクの提案は非常にわかりやすかった。
「理屈はわかるけど、どんなことをやって人の注目を集めればいいんだ?」
みんなの視線が俺に集まる。
「注目を集めるのは得意分野だろ。」
「ええ、あなたほど目立つ技を使う人は見たことがありません。」
「試しにでっかくなってみるとかどうだ。」
好きなようにいわれる。
ひとしきり抗議したところで、本格的に人の注目を集める方法を考えてみる。
人が思わず見てしまうようなもの、なおかつこの戦場で俺にできそうな事
すぐに虹や花火が思い浮かぶ。虹はこの世界にもあるし、炎が飛び交うこの戦場では色のついた火は珍しいものではない。
見慣れたものではだめだ。みなれないもの・・・
そうか、自分自身だ。
この戦場の人々は、飛行する俺に驚いていた。
ならば俺自身の姿がもっとへんてこに映れば・・・注意を引き付けられるかもしれない。
光と水蒸気をうまく使えば・・・
早速皆に協力を依頼し、準備に取り掛かる。
簡単に準備したもので予備実験を行う。実験は成功。
後はこれをとにかく大きくするだけだ。
ノエルとコイルに手伝ってもらい大型化の準備をしていく。
その日は朝から湿っぽかった。
珍しく霧も出ていた。
両国の兵士たちは朝から憂鬱だった。
こんなにも、じめじめして不快な日に、戦わなければならないなんて、夜の警備をしていた人々から聞いたところによると、明け方から霧が出てきたらしい。
しかし、太陽の温かみを感じる。
朝日に熱せられれば、すぐに消えるだろう。
同じことを採掘場の監視をしていた王国兵も感じていた。
しかし霧は晴れることなく不規則に流れ始める。
その場にいた全員がいつもとは違う雰囲気を感じ周囲を観察するが、特に変なものはない。
霧はどんどん勢いよく流れ始め、一枚の壁のようになる。
だれもが不思議そうに見つめているとなんと不規則に変形し始めた。
人だ。
ここ最近見ていた空を飛ぶ変な人間だ。
あまりの衝撃に王国兵の誰もが注視する。あまりに集中し過ぎて、帝国兵も驚いていることに気が付かない。
目の前に映る巨人は、現代で唯一確認された魔法使いだと聞いている。その力はたった一人で国家にも相当するという。
それほどまでに、強大で未知の存在。そんな存在は人では考えられない大きさになっている。
王国兵はいつの間にか、凄まじい恐怖を魔法使いに覚えていた。
心のどこかで理解してしまった。巨人化するくらいわけないと思った。これぐらいのこと簡単にやってのけると。どうあがいても勝てないと、そう思ってしまった。
やがて巨大な魔法使いは片腕を高く上げ、振り下ろすと腕に合わせて雷が落ちる。
着弾点には爆発が起き木々が燃える。
たった一発の派手なマジックだが、その場にいた人間を震え上がらせるには十分だった。
やがて巨人は形をゆがめ、濃い霧へと戻り周囲へ立ち込める。
わけのわからない霧が迫ってくる。その場にいた人間は奇声を上げながら散り散りになった。
王国兵が逃げに徹し、手薄になった採掘地の入り口。さらに濃い霧で一瞬だけ視界を奪った隙に内部へと入り込んだ二つの影があった。
警備を行っていた王国兵は自分のみを守ることに必死で気づくことはできなかった。
すぐに濃い霧は晴れ、視界が回復し、後に残ったのはいつも通りの晴天だ。
さすがはよく訓練された王国兵。
すぐに持ち場に戻り、警備と次の戦いの準備を始める。
しかし、王国兵の顔は絶望に満ち溢れていた。
「上手くいったな!」
「ええ、やりすぎなくらいですが・・・しかしどんな原理なんですか?」
「単純だよ。霧を一時的に発生させて、煙幕と壁の代わりにしたんだ。後は、蜃気楼って知ってるか?」
「夏によく見るものですね。何故か遠くの物が大きく見えるものです。」
「そうだ。それと似たような事をしたんだ。具体的には俺から反射してでていく光を集めて、さらに曲げて大きくしたんだ。まぁ、しっかりと見ると、雑な部分がいっぱいだけどね。」
「とても簡単な事をしているようには感じませんが・・・」
俺が作った虚像と派手に見える雷撃、霧の目隠しを利用して採掘地の入り口を警備していた王国兵の目を欺き、アレクと一緒に採掘地へ飛び込んだ。
ノエルとコイルは虚像を作り出すためにいろいろと動きまわってもらっていた。今頃、帝国領で緊急時に備えているだろう。
採掘地の中は僅かな光があるだけで、人の手が少しだけ加えられているだけだ。
開発の途中で戦争が始まったことがよくわかる。
しかし、作りかけの構造物以外、虫もおらず特に何事もなく奥へ進んでくる。
「まて!」
アレクの叫びによって急激ブレーキーを掛ける。
突如俺の目の前に大きな斧が振り下ろされた。