帝都Ⅷ-1
リナは断られると思っていなかったのか、だいぶ青い顔をしている。
「安心してくれ、君たちに何かを返してほしくて助けたわけじゃない。俺はリナの実力を評価して雇いたい。」
「・・・わかりました。タロウさんの提案を受けます。」
何故かちょっとだけ不満そうなリナだけど、何とかなりそうだ。
「また戦場へ行かれるのですよね?」
「ああ、そのつもりだ。戦争を停めるために赴くつもりだけど、もしかしたらエントシの人間と戦うことになるかもしれない。」
「覚悟はしております。それに私はもうあの街の人間ではありません。少なくともタロウさんがお気にやむことはありません。油断なく、存分に戦いください。」
特に返事を返すわけでもなく、ただ視線だけで返事をした。何か言おうと思ったけど、なんといえばいいか分からなかったから・・・
「リナ、タロウ何を話しているんだ。」
会話がちょうど途切れたタイミングでかなり酔ったノエルが突撃してきた。
「お前、またこんなに酔って、ほどほどにしておけ。」
酔ったノエルを介抱し、ひと騒ぎした後各自の部屋で休むことになった。
夜、自室で一人考える。
いよいよ次は本格的に参戦することになる。
おそらく戦闘の結果死ぬ人も出てくるだろう。
過去の戦闘の結果、死んでしまった人はいた。いつまでたってもなれない。慣れるべきではないかもしれない。
ここら辺が戦闘に向いていないといわれる理由かな・・・
数日後、また帝国が勝利を収めた戦闘地域にいた。
今回のメンツは俺にアレク、ノエルにコイルと前回と同じメンツだ。
「タロウ、目的はどうしますか?」
「前回王宮調査で、人体魔石の製造場所は、ほぼ王宮近くや王宮で行われていることが分かった。しかもノイマンしか作れないようだ。」
「グレッグから聞いた話では、彼は王国の中でも変わり者のようです。優秀ではありますが、部下や近しい者はいないようですね。」
好都合だ。
方法論を知っている人が少なければ、技術の拡散も防ぎやすい。
「狙いはノイマンの確保と、彼の研究施設、研究結果の破壊だ。俺とアレクで潜入し、主要施設の破壊とノイマンの確保を行う。」
「私はどうすんだよ。」
ノエルが食って掛かる。
「激しい戦闘になることも考えられる。ノエルには王宮近くで待機してもらっていざとなったら退避を手伝ってほしい。」
「了解!」
「明日から王宮を目指して行動しよう!」
みんなの了承を得て、明日以降から行動を開始することにした。
しかし、事態は急変する。
テントの外から騒がしい音が聞こえる。
眠い目をこすりながら出ると、すでにコイルやアレクが外に出ていた
「何があった?」
「どうやら王国が大規模侵攻を開始したようです。」
「ここにか!?」
「いいえ、ここより東側の戦場ですね。ちょうど戦争が開始された採掘地のようです。」
「なんだってまだ戦おうとするんだ。もういいだろ。」
「最後の力で、魔石の採掘地だけでも、完全に取りに来たのかもしれねぇ。今は一部しか抑えてねぇからな・・・」
コイルは兵士や冒険者たちが持っている情報を集めて統合してくれた。
どうやら王国は用いるほとんどの戦力を採掘場の奪取に費やすようだ。
国家の上役も大勢参加しているらしい。あのノイマンも・・・
いよいよ最終決戦だ。
「みんな予定を変更する。厄介なのはノイマンだ。彼がいる限り、どこでも人体魔石を開発される可能性がある。彼をとらえ、人体魔石の生成をできなくする。そうすれば、強力な兵器の開発が止まり、王国は戦争継続が困難になる。」
「私も賛成です。正直王国内を探しまわるよりも、戦場に出てきてくれていた方が、探しやすくて好都合です。」
「私も参戦しやすいからな、いいぜ!」
「混戦状態での情報収集は任せろ。」
「よし!いこう!」
急激な目的地の変更となったが、急いで準備して別の戦場へ転進した。
魔導四輪を激走させ、王国が攻めてきたという戦場へ向かう。
戦場間がそんなに離れていなかったおかげで、一日とかからず次の戦場へとたどり着いた。
戦場は明らかに混沌を極めていた。
完全に片づけられていない血や油。そのままにされている武具や掘り起こされたままの地面。
肉の焼ける嫌なにおいが周囲に立ち込めていた。
あまりに凄惨な状況に誰もが顔をしかめる。どうしてこんな状況になってしまうんだ・・・
帝国軍が駐留している場所は事前に情報を得ていたため、迷うことなくたどり着く。
兵士は全員が疲れ切っていた。
「ひとまず、ここの戦場の管理者たちに会いに行こう。戦闘の目標を共有しておきたい。」
全員の了承を得て、一番大きなテントへ向かう。
いつも通り、女帝の勅命を掲げて入っていく。
中にはいくつか顔見知りがいた。
女帝の近衛兵をしていた一番強そうな人に、帝国で俺が吹き飛ばしてしまった貴族。他、数名の人々である。
どうやら王国の総力戦に備えて、帝国もかなりの戦力をそろえてきているようだ。
すぐに話は周り、数名の反対はあったものの、自由行動が認められた。




