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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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エントシⅢ-2

父の遺灰が入った箱だ。


「ええ、確かに受け取りました。屋敷の面々も血のつながった親族です。無碍にはしないでしょう。」

ギルド長は小箱を受け取る。


「家の方はどうなっているのでしょうか?」

「良くはない。が悲観することもないといった感じですかね。最初はどうなるかと思いましたが、経験値が溜まって来たのか、ここ最近はいい判断をするようになってきました。そのうち心配いらなくなるでしょう。」

「そうですか・・・良かった。」


何を思って良かったといっているのか。その心中は計り知れない。


「ウィリアム、お前の家を見ていくか?」

「・・・やめておきましょう。見てしまうと、姉さんのもとへ行けなくなりそうです。」

「そうか、分かった。要件も伝えたし、そろそろ行こう。」


俺達はギルドをたち、すぐに魔導四輪のもとへ戻ってきた。

「おう、坊主もうおわかれはいいのか?」

「やめてください。僕はそんなに子供じゃありません。」


コイルとウィリアムはいつの間にか仲良くなっていたようだ。

雑談を聞きながら、魔導四輪を浮かせていく。


十分に速度がのった魔導四輪は簡単に山を越え、すぐに帝国領に入る。

あっという間に屋敷へとたどり着いた。


魔導四輪が降り立つ騒音により、屋敷からぞろぞろと人が出てくる。

「姉さん」「ウィリアム」


自然と目線が揃う二人。

ウィリアムの周りには人だかりができていた。

感動的な場面を遠目に見ながら、アレクに話しかける。

「すぐに戦場に戻ろうと思う。」


アレクもうなづく。

「王都の様子を見るとかなりじり貧だ。いつ投げやりな行動をとってもおかしくない。」

「同意見ですね。私たちがあまりにも簡単に侵入できたのも人手不足からくるものでしょう。もう後がないのです。すぐにでも捨て身の攻めをしてきてもおかしくありません。」


よし、準備を始めよう。

「タロウ、大丈夫ですか?」

「大丈夫とは・・・」

「次は確実に人を殺すことになるでしょう。戦場で兵士として戦った結果です。罪にはなりませんが、あなたは大丈夫ですか。」

「慣れた・・・とは言えない。でもここで止めないと、もっと多くの人が被害に会う。なら、ここで止めるしかない。」

「覚悟を決めたというわけですね。いいでしょう。私もあの男に問い詰めないといけないのでお供いたしますよ。」

「お前と似たような斧を持っていた男か。あの男は何者だ?」

「ジェームズ・ボナパルト。王国で軍師を務めているそうです。そしてかつて私の家の政敵でした。」

「お前の方こそ大丈夫か?」

「ええ、問題ありません。あなたと違って私は戦いに向いていますから。」

「そうかよ。」


軽口をたたきながら、荷物を片づけ補充の必要がある物品を分けていく。

せわしなく動いていると、すぐに日が落ちてくる。


屋敷の中へ戻ると、騎士たちがせわしなく動き回っていた。

何でも帰ってきたウィリアムの部屋を作ったり、祝いをしたいらしい。


そんな様子を見て、おろおろとしているウィリアムがいる。久しぶりに見た気がするな・・・

小規模ながら祝賀会が開催され、ウィリアムを中心に久しぶりの再会を喜んだ。


「タロウさん。少しよろしいですか?」

リナに話しかけられる。


「ああ、構わないよ。」

「約束通り、ウィリアムの救出をしてくださり、ありがとうございます。このご恩はどんな形でも報いたいと思います。」

「そんなに、かしこまらないでくれ、俺としても助けたかったし、うまくいってよかった。」

頭を下げていたリナが起き上がり、笑顔を見せる。


「それにすべてうまくいったわけじゃない。」

「父のことは聞きました。ウィリアムが最後の場に立ち会えただけ、いいと思います。父も報われたと思います。」

「そうだな。そう思うよ。」

「話は変わって、これからの私たちです。」

リナは真面目な顔に切り替わる。


「私たちは、これから帝国で生きていくことになると思います。しかし、私たちには稼ぐ手段がございません。」

「お金や敷地は余っている。手に職が就くまで、この屋敷を使ってもらって構わないぞ。」


なんだか少し不満そうな顔をするリナ。

「タロウさんの申し出、大変うれしく思います。可能な限り早く、技能を身につけようと思いますが、できれば今後もずっとお付き合いをしていきたいと思っています。」

「ああ、構わないぞ。」

「いっている意味わかっていますか?」


どうしようこの手の推測は苦手だ。

「タロウさん。この戦いが終わったら爵位を受けますよね。」

それか・・・

「聞いていたか。」

「はい、悪いとは思いましたが、私たちも立場が立場ですので、聞き耳を立てずにはいられませんでした。」

「構わないさ。隠していたことじゃないし。しかし俺はこの通り平民の出だ。思っているような貴族にはならないと思うぞ。」

「タロウさん。爵位を受けられた際には、私たちを召し仕えてはくれないでしょうか?」

「メイドとか、執事とかそういう使用人ということか?」

「はい、正直なところを申しますと、私は貴族教育しか受けていないのです。いまさら技を覚えようとも難しいでしょう。まして魔石を使えぬ身でもありますし・・・そこでタロウさんのお手伝いをしたいのです。」


正直助かる。このまま女帝の依頼を達成すれば、約束通り爵位をもらえるだろう。そうすれば依然から考えていた通り、領地をもち、領民を抱えることとなる。


リナたちを領民にすれば彼女たちの帝国での立場は保証される。しかし、それは立場があるだけで生きていく糧はない。

俺だって領地運営なんてできない。リナの申し出は願ったりかなったりだ。

だけど・・・

「リナ、その思いに報いることはできない。」


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