王都Ⅱ-2
「いいか。どんなに煽られても怒ったりせず、演技するんだぞ。それから連絡の時間も忘れるな!」
ノエルに言い聞かせるように話す。
「わかってるって大丈夫だよ。」
心配になるがノエルは元気に飛び出していった。
さて、俺たちも行動しなくてはならない。
アレクは何かあった時ようの突撃要因だ。
俺はというとノエルの魔素を感知していた。
どこまでできるかわからないけれど、ノエルに異常が出ないように、見続けるのだ。
予想に反し、ノエルはすぐに帰ってきた。
「なんか日時を指定するから、そこに来いって感じで、何もなかったぞ。」
「他に何かあったか?」
「ん~技能テストをしたぞ。剣が得意だからな。剣技を見せた。それぐらいだ。」
「彼女の技能は非常に高いです。変に魔石と融合させるより、そのままにした方がいいと判断されたのかもしれません。」
意外と冷静だな。
誰にでも魔石を埋め込んでいるわけじゃないのか。
「ああ、後、訓練場とか、一部の施設を仕えるみたいだぞ。」
「なるほど・・・」
俺はノエルを見る。
「いいぞ!施設を使うふりして、調査すればいいんだな!」
「まだ何も言ってないだろ。」
「お前のことは言わなくてもわかる。で・・・どうする?」
「すまない。危険が多いけど、よろしく頼む。」
「ああ、任せておけ!」
すぐにノエルは訓練場等を調査し始める。
ノエルだけに任せておけない。夜になり追加の行動をとる。
光の魔石を使い、自分の明るさを暗くしていく。
魔石の力で明るくなるならば、光を吸収し、暗くなる事も可能だと思っていた。
予想通り、部屋の明るさに対して異常なほど暗くなっていった。
夜、城の外壁によくよく見ると暗くなっている部分がある。
タロウだ。
周囲の光を吸収し、影を狙って動く。
ぼうっと警備している兵士たちの目の前を通り過ぎたとしても気づかれることはない。
それぐらい闇に溶け込んでいた。
こんなにもうまくいくなんてな・・・
ノエルのおかげで、城周辺地域の情報がある。無駄なく狙って現地調査をしていく。
夜にもなると城内部も消灯しており、動き回れそうだ。
というか・・・やっていることは完全に盗人そのものだな。
念入りに城の内部を探る。とはいっても探索時間に限りはあるし、どうやっても近づけない場所はいくつかある。
例えば、王室を含む居住区だ。
王室はいつでも警備されており、視界も確保されている。そんな状況では近づけない。居住区は人が多すぎる。さすがに多くの人の目を欺くことはできない。
そもそも今回の目的は人を襲うことではない。
むしろその逆だ。
多くの人が生き残り、なおかつこの戦いは無謀だと気づいてもらわなければならないのだ。
ノエルと協力し、数日かけて兵器の貯蔵庫や研究場所を念入りに探す。
兵器の貯蔵場所はすぐに見つかったが、通常の刀剣や防具しか見当たらず魔石の一つも見つけられなかった。
残るは地下の幽閉施設だけである。侵入するには難易度の高い場所だ。
「さて、どうしたものか・・・」
「話は単純ですね。一日ください。準備しますから。」
そういって朝方、アレクは隠れ家を出ていった。
夜になって隠れ家にいた全員があんぐりと口を開け、驚いていた。
アレクが鮮やかな金髪からくすんだ黒髪に変化していたのだ。
「なに・・・やってんだ?お前」
「なにって、髪を染めたのですよ。見たらわかるでしょ?」
「そりゃわかるけど、なんで染めたんだよ。」
「単純ですよ。変装です。印象が変わるでしょ。これでひと暴れしてきます。」
「まさか、つかまって地下へ侵入しようというのか!」
「なりませんぞ。坊ちゃま。王国地下にある幽閉施設は悪い噂が絶えません。人体実験を繰り返しているといわれています。収容された人は二度と生きて帰ってこれないのですぞ。」
グレッグは血相を変えて、アレクの目の前に立つ。
「落ち着いてください。誰が一人行くといいましたか。」
そういいながら、アレクは俺を見る。
「俺はお前を死なす気はない。任せてもいいんだな。」
「ええ、よろしく頼みますよ。」
ノエルは、全員分の魔石をもって、逃げ出しやすいように待機してもらった。
ちなみにグレッグもついてくる。
日が落ち始めたころ・・・
アレクは今はだれも住んでいない家を派手に壊した。
すぐに憲兵が飛んできてアレクはあっけなく捕まった。ここまでは作戦通りだ。
俺は自分に集まる光を吸収し、影としてついていく。
予定通り、場内入り込み地下へ繋がる階段を歩いて行く。しかし、取り調べも何もなしにいきなり連行だなんて、怪しい。
中はかなり暗い。地下2階構造で犯罪者は下の階へ連れて行くみたいだ。
地下1階も気になるがまずはアレクの安全が先だ。憲兵に連れられアレクの後ろを歩いて行く。
階段を下りて近くの檻が開けられた。
さて、ここらへんか・・・
アレクを抑えている憲兵二人の後ろから電撃を浴びせようとする。
「まて、そこの二人・・・」
突然声をかけられて暗闇に隠れる。
幸い、俺が見つかったわけではなさそう?
声をかけた人物は、部屋の奥から現れた。どこかに通路でもあったのか?
部屋が暗すぎて、人物像がはっきりしない。
「兵たちよ、そのものを私の研究室に移送してくれ。すぐに研究を行いたい。いや、もうこの場でいい。ここに放置してくれ・・・」
「しかし、あまりにも危険では」
「よい!それとも何かね?お前たちが私の研究を手伝うかね?」
「いえ、失礼いたしました。」
憲兵は逃げるようにこの場から去っていった。
そして、対照的にゆっくりとその人物は近づいてきた。
「久しぶりだね。禁忌の森以来かな?アレク、そしてタロウ殿」
バビロニア・ノイマンだった。




