魔石採掘場
商団を離れてから数か月、元の世界に帰る方法は全く何もわからないまま、そこそこ稼いで暮らしている。
俺は帝国から少し離れた村の、低純度魔石採掘場の近くにいた。
この採掘場の中と周辺は比較的安全が確保されている。
採掘場の周りに亜獣が出る事がある。
亜獣という生物は魔獣になりかけた個体だ。
この手の生物から採掘場を警備、ひいては倒した亜獣から低純度魔石を採取する。
それがここ最近の稼ぎ口だった。
商団から離れた後、早速ギルドで冒険者登録をしたが、ランクは1だった。
ランクは最低ランクの1から最高ランクの5まである。
ランクが低いと簡単で安い依頼が多く、ランクが高いほど難しく高額な依頼が多い。
魔術があるから、いきなり高いランクかと思ったが、戦闘経験の実績が無いから最も低いランクからスタートらしい。
拍子抜けだが、弱い俺にとっては簡単な依頼は都合がいい。
それに早速開発した物を実践できるので、ちょうどいいと思っていた。俺は、というより魔術使いは不意打ちに弱い。そして技の出が遅い。
特異な現象を扱える分、そのための準備で隙が多いのだ。
だけど、知っていれば対策ができるというものだ。
そこで雷の魔術と魔石ランプを使って相手を探知できるシステムを考え付いた。
光の魔石を使うことで雷の魔法を使うことができた。ということは光の魔石は電気を扱うことができるのだ。
電気は電磁波を作ることができる。
光も電磁波の一種だ。
光の魔石は電磁波の影響を受けているという、仮説を俺は立てた。
波が伝達するイメージを光の魔石に流す。
案の定、目には見えないけどしっかりと電磁波が出たことが分かった。やはり光魔石は電磁波の影響を受けていると思う。
有効射程はざっと100メートル
近くで、野生のシカが数匹、雑草を食べていた。シカの方向に受信用の魔石ランプを向け、魔素を流しながら電磁波を受け取るイメージを持つ。次第にランプの光りが変化しだした。
これは雷の魔術を利用した電波レーダーだ。
送信用の光の魔石で電磁波を出し、受信用の魔石ランプでその電磁波を受け取る。対象物があるとそのものに当たって電磁波が跳ね返る。
これを実現するにあたって跳ね返る電磁波を選べるようにならないと、なんでも電磁波を受け取ってしまい魔石ランプは常に光っぱなしだ。
だから生物がよく跳ね返す電磁波を割り出すことが大変だった。
ここ最近はこの調査に明け暮れたが、そのかいあって今ではかなり見分けられるようになった。
それに電撃を飛ばすより疲労度が小さく何回も使うことができる。
午前中の警備を終えて、採掘場の近くにできた。小さい村に来た。
村というよりはテント群だが、そこで簡易の鍛冶屋を訪ねる。
「親父さん。頼んでいたものできてる?」
「おう! できてるぞ。 しっかし、こんなものなんに使うんだ? そんなに暗いところが怖いのか?」
「どう使うかは、企業秘密!」
「企業ってなんだ?」
沈黙の数秒間
「ま、まあ 秘密ってことだよ。」
無理やり押し切って、お金を払い鍛冶屋を後にした。
作ってもらったものは360度に小さい魔石ランプをつけた背丈より少し小さい程度の杖だ。
これでかなり広い範囲を一度に観測することができる。
見た目は完全に魔法の杖だ。・・・むふふ、我ながらいい出来だ。
午後からも警備にあたる。
数回、レーダーを使っていると大きい反応があった。この反応は亜獣だ。
反応があった方向に慎重に近づくと近くの木に、意味もなく突進を繰り返しているシカがいた。
こっそりとクロスボウのような物をセットする。
これもここ最近作っていた物だ。
大学にいた頃、研究室の先輩がミリタリーオタクだった。
聞いてもいないのにいろいろな武器の仕組みや構造を教えてくれたのだ。ほとんど覚えていないけど、クロスボウは構造が簡単で覚えていた。
この世界にある材料で物を作らねばいけなかったため、威力はそこそこだが、俺には十分である。
矢は鉄製だ。更に濡れた麻がつながっている。
濡れた麻は電気を通すのだ。
暴れているシカをよく狙って矢を射た。見事にシカに当たり矢が刺さる。
シカは矢が刺さっていることに反応せず、こちらに目を向ける。ダラダラと口からよだれを垂らし、突進しようとしてきた。
やはり亜獣だな。
低出力で雷の魔術を使う。
すると電気がシカの内部に伝わり、体を痺れさせた。
これこそがレーダーと同じぐらい時間をかけて作っていた物だ。
コンパクトな攻撃方法の獲得である。
雷の魔術は威力が高く効果範囲も広いが一度で大きく疲れてしまう。そのせいで連続的な発動が難しかった。
作ってきた物の完成度に満足する。
何とか形になってきた。
シカの処理をすると魔石をゲットできた。かなり魔石がたまってきた。そろそろ帝都に戻って換金してもらおうか。
帝都への定期馬車に乗ろうとしていたら、分かりやすいゴロツキたちに絡まれている。身なりのいい少年がいた。
「おい坊主、お前、魔道具使いだろ。冒険者になるつもりか? 俺たちのパーティに入れてやるよ。だから持ち物全部出しな」
なんとわかりやすい。そして少年の方も
「いえ僕は帝都で研究者に、、、ここには間違ってきただけで、、、」
これまた狙われやすそうな言動である。
なんとなく気分はいいし、体力が余っていたので、ちょっかいをかけてみることにした。ガラの悪い男たちにゆっくりと後ろから近づき、低純度の光の魔石を取り出す。
「ダメだよ。兄さん方。弱いものいじめは」
そう言いながら光の魔石をゴロツキたちの体に押し付け、雷の魔術を発動した。低出力なら速攻で発動できるようになった。これも練習の成果である。
「がっ」「おっ」
ゴロツキたちはそんな声を上げながら倒れこんだ。
この世界は大きい街から離れるほど治安が悪い。
俺もこんなゴロツキに何故かよく絡まれるが、話し合ってまともに解決したことなどないのだ。そいつらから穏便に抜け出すため、練習したスタンガンの真似事だ。
以前いきなり殴られた左頬に意識がいった。
あいつ今度会ったら許さん。
「え、今の魔術。しかも見たことがない。」
「あ~、まっとりあえず、こいつらそこの岩陰に運ぶの手伝ってよ。寝てるだけだから」
「わ、わかりました。」
こちらを見る少年の目が光輝いていた。




