王都Ⅱ-1
「いいぞ!志願兵として潜入すればいいんだな!」
「本当に?何があるかわからないんだぞ。」
「問題ない!私にだって、この戦争には思うところがあるんだ。」
俺の心配をよそに、ノエルは自信満々に答える。ノエルは空を見つめるように強い視線を持つ。
「具体的な方法はこれから決めるとして、どうしますか?やれないことはなさそうですよ。」
全ての視線がこちらを向く。
「俺は・・・この計画を実行してもいいと思う。このままでは何も変わらない。最小限の損害で戦争が止まれば、これから被害を受ける人々が少なくなると思う。」
みんなの返答を待つようにあたりを見回す。
「私としてはこれ以上の参戦は止めたいところですが、今はあなたの剣。覚悟を決めて戦うというのであれば、どこまでもお供いたしましょう。」
「誰もが知らない情報があるというならば、時にはリスクも承知の上で行動するのが情報やってもんよ。」
「もちろん一緒に行くわ!」
意見がまとまった。
いよいよ本丸へと侵入することなる。
数日後、俺たちは王宮が遠目に見えるくらい近くまで来ていた。
魔導四輪で近くの村まで移動し、村近くの林の中に土と草木で覆い隠す。
魔法を使って、土に穴をあけているので、一目では見つからない。
村から王宮までは馬を使って近づく。移動速度は格段に遅くなるがこっちの方が自然だ。
馬に荷台を引かせ、ゆっくりと進む。
荷台ではウィリアムがノエルに看病されていた。
彼は、体を起こし、自らごはんを食べたりするまで回復していたが、まだ十分ではない。
そこで俺を中心に身の回りの世話を行っていた。
気が付いた当初はかなり落ち込んでいたが、今はだいぶ元気が戻っているように感じる。
ウィリアムにも作戦のことを説明したところ、自分も行くと言い出したが、さすがに回復しきっていなかったので、荷台でコイルと一緒に待ってもらうことにした。
さて、侵入当日。
辺りは完全に暗くなり、遠目に城の光がうっすらと映るのみとなった。
アレクの話では街自体も明るかったようだけど、どうやら、戦争の影響を受け、かなり質素な暮らしを送っているようだ。
「よし二人とも風の魔石は持ったな?」
二人から無言の頷きが返ってくる。
「目標地点に向けて、放物線を描くように飛んでいく。暗いから細かいコントロールができない。誰かに見られないように物音ひとつあげないようにしてくれ。」
アレクの情報に基づき、あらかじめ突入ポイントは決めていた。後はそこに飛んでいくだけだ。
二人に装備させた風の魔石に意識を向けていく。風が規則正しい流れに変わり三人の体をゆっくりと持ち上げ始める。
きれいな放物線を描き、やがて王都に向かって落下を開始する。
外壁を超え、ボロボロな家が立ち並ぶ敷地を目指す。
そしてゆっくりと屋根に穴の開いた家へ降り立った。家は完全に壊れており、長年放置されていることが、すぐに分かった。
廃屋を抜け、ボロボロの家が立ち並ぶ誰もいない道を三人で進む。
まるで隔離されているような土地だ。
やがて一軒の家の前でアレクは止まった。
周囲と同じようなボロボロの家で、冬の厳しい王都ではかなり苦しいのではないだろうか。そんな想像を働かせるぼろさだ。
アレクが軽く扉をノックする。
決して大きな音ではなかったはずなのに、周りが静か過ぎて、妙に響き渡った。
少しの時間ののち、高齢のおじいさんが扉の隙間から顔をのぞかせた。
「私だ。少しよろしいか。」
アレクはおじいさんを確認するなり、深くかぶっていたフードを持ち上げ、顔を見せる。
おじいさんは目を見開き、無言で扉を開け、俺たち三人を部屋の中へと招き入れた。
全員が部屋に入ったことを確認し、空気の幕を張る。
以前、ニッホンでキサイが音の魔石でやっていた遮音膜の真似事だ。
空気の幕を二重に張り、膜の間の空気を抜く。
これで真空状態を作り出す。
音は物の振動で伝わっていく。しかし、真空にして、伝わる物がなくなってしまえばとたんに音は聞こえなくなる。
話してもいい雰囲気を感じ取り、目の前のおじいさんは口を開く。
「お久しぶりですね。お坊ちゃま。まさか、戻られるとは、こんなにも強力なお仲間を連れられて・・・」
何かに感涙するおじいさん。
「アレク、紹介してくれ。」
「この方は昔、家に仕えてくれていた執事です。グレッグといいます。私が子供頃から面倒を見てもらっていました。」
なるほど、だからこんなにも嬉しそうにいたのか・・・
「して、此度はいかようなご用件でしょうか。」
「王国で少し用事がある。ここをしばらくの拠点にしたい。グレッグはいつものように生活してください。」
「はぁ、普通に生活する分には構いませんが、用件とはいかような?場合によってはお手伝いできるかもしれない。」
「あなたは知らない方がいいでしょう。下手に関わればただでは済まない。」
「アレクお坊ちゃま・・・わたしめがなぜ、今も王国に住んでいるかご存じですか?」
アレクはグレッグの問いかけに少し悩む。
「いえ、申し訳ありませんが・・・」
「それは今も頼ってくれる方いるからです。」
アレクの顔は陰になって見えないが、きっと目を見開いているに違いない。
「今もあなたが生きてくれて、私を必要としてくれているから、私は執事としての使命を果たせるのです。」
「もしも・・・もしも私の成そうとしていることが、王国に仇名すことだとしても貴方はそう言い切れますか?」
「もちろんですとも、私が仕えているのはアレクお坊ちゃまあなたです。王国ではありません。」
「そうですか・・・タロウ、グレッグに作戦を伝えても問題ないかと思います。」
アレクの了承を受けて、グレッグに計画を話す。すると、志願兵を募っている場所や、兵器を量産している工場なんかの情報を得られる事となった。
正直王国内部のことは全く分からなかったから大変助かった。
グレッグの協力を得てから数日後、ノエルが志願兵として向かう日が来た。




