山間の戦地5
コイルも、あまり考えすぎるなよ。と声をかけてテントへ戻っていった。
焚火の前には俺とノエルだけが残った。
「なんだあいつは、突然変なことを言い出して」
「いいんだ。なんとなく分かっていたことだから、あれがアイツなりのやさしさなんだ。」
「ノエル戻っ俺は戦争には向いてないと思うか?」
「えっ!いや、う〜ん。」
「はっきりと言ってくれてかまわないよ。」
「戦いには向いてないかも知れない。でもお前がだめってわけじゃなくてな。」
「ありがとう。言われた通りよく考えてみるよ。」
「そうか、いつでも頼ってくれていいんだぞ。お前は抜けてるからな。」
「いざと言うときはよろしく頼む。」
「まかせておけ。」
ノエルの励ましが効いたのか?凄く冷静になる。
果たして俺はどうすべきか。
確かに、戦場にいるべきでは無いのかも知れない。
だけどここで引いてしまってはウィリアムの父を助けることは不可能だろう。
どころか、彼がこれまで戦ってきた意味が無くなる。
しかし、助けたとて、また助けてほしい人が出てきたらどうする?何度戦場に戻る気だ?
いっその事、戦争が無くなれば・・・
ベェロニカは言った。戦争継続ができないくらい、損耗すれば戦争は止まる。
今、戦争をギリギリのところで継続させているのは、人の魔石化だ。
あれの生成場所だけでも破壊する。場合によっては中心人物も・・・
根本原因の解決にはならない。でも、戦争の長期化を止めることは可能だ。
「タロウ、あの子が起きたぞ。」
ウィリアムの目が覚めた。
直ぐに荷台に駆け寄る。
「ウィリアム、大丈夫か?」
「タロウさん・・・!みんなは!」
ウィリアムはまだ動かせない体にも関わらず、目線だけで、勢いを伝える。
「すまない。この戦いには帝国側が勝利した。」
「そうですか・・・」
ウィリアムは涙を流し、しばらく泣いていた。
俺はそれをただ黙って見ているしかなかった。
やがて泣きつかれたのか、静かに寝息をたてていた。
「頭は冷えましたか?」
いつの間にか後ろにいたアレクが話しかけてくる。
「ああ、よく冷えたよ。」
「それでどうするんだ?」
今度は同じく集まってきたコイルが聞いてくる。
ノエルは俺の隣で、黙っている。
「俺たちでこの戦争を終わらせる。」
ぶー
マンガのような驚き方をしていたのはちょうどよく水を飲んでいたノエルだ。
「頭が冷えたどころか、沸騰して湧き上がったようですね。」
コイルに至っては、頭を抱えている。
「別に大立ち回りをしようってんじゃない。」
「戦争を終わらせる行為が、大立ち回りではなくて、なんだというのですか?」
「ヴェロニカ女帝は言った。戦争は継戦能力を失えば終わると・・・」
「ではどのように継戦能力を失わせるのですか?」
「王国側の武器を破壊する。特にあの異常な魔石・・・人体魔石とでも呼ぼう。あれを優先して破壊する。」
皆圧倒されている。
「・・・一考の余地はあると思うぜ。だけどよ。強力な魔石が無くたって戦うんじゃねぇの?兵士って連中はよ。魔石がなければ剣を。剣がなければ木を、てな感じに堂々巡りになると思うぜ。」
コイルの指摘は至極全うだ。しかし、戦う能力がないと証明させるのは王国の兵士ではない。
「狙いは、兵士の上官、果ては王そのものに王国の戦力が失われたことをわからせる。彼ら自身に戦い以外の選択を選ばせる。」
「狙いは分かりましたが、具体的にはどの様にする気ですか?」
「王国に直接侵入し、兵器工場を直接破壊する。」
アレクやコイルは頭を抱える。ノエルはテンションを上げる。
「タロウ一体どのように王国に侵入するというのですか?」
「実績があるのは空挺降下だ。もしくは変装!」
「前者はタロウしかできません。後者は論外です。今は超警戒状態で、王国に運び込まれるすべての物資が検品され、身元証明を求められます。」
「人間二人ぐらいなら一緒に持ち上げられる。」
アレクは深く考え込む。もう一息か!?
「ちょっといいか。俺も王国侵入には疑問がある。仮に王宮近くに侵入できたとしてどこに潜伏する?工場はわかっているのか?」
「それは・・・今から考える。」
コイルの指摘であっさりと行き当たりばったりがバレる。
沈黙が流れる
「おい!お前ら!細かいことは気にするな!コイツはタロウだぞ!ちゃんと考える前に否定するな。」
ノエルの理屈のない、勢いだけの言葉に2人は、圧倒される。
「ふ、ふふ、あははは」
あまりの突然さにアレクは思わず笑い出す。
「確かに、否定的になっていたかもしれません。まだ時間はあります。考えるだけ考えてみますか。」
「そうだな。ただでさえ、俺たちは自由の身だ。もう少し、柔軟に考えてもいいかもしれない。」
「そうだぞ!・・・で、どうすんだ?」
ノエルはこちらを見てくる。本当に無策だったようだ。
「まず、王国に侵入するのは上空から侵入しようと思う。」
「ええ、異論はありません。今の王国は完全に警戒状態にあります。入口として設けられる場所は全て入ることはできないでしょう。」
「次にどこに隠れるかだな。」
「昔、貴族だった頃、納めていた土地は、まだ有効活用されていません。当然空き家も数多く残っています。それに充てもあります。」
「いいね。潜伏場所は、アレクに任せよう。」
「ところで結局どこまでやったら、目標達成なんだ?」
「目標は、人と魔石の融合場の破壊だ。あれが戦争を混沌化させている。」
「王国だって広いです。どこに実験場があるかなんてわかりません。」
「それは簡単なんじゃないか?」
コイルは得意げに話す。
「かんたん?」
「ああ、今まで異常な魔石を埋め込まれたやつは傭兵やこの戦争のために集められた奴らだ。ということは戦争に参加する体で志願すれば情報が集まるじゃないか?」
「それは危険すぎる。大体誰が志願するんだ?俺やアレクは顔が割れているんだ。」
「俺だって、戦闘能力はない。となると・・・」
自然とノエルに視線が集まる。




