山間の戦地3
ウィリアムが追ってくる。
地上に先にたどり着き、地面に手をついて魔素を流し込んでいく。
すぐにウィリアムも追いつき、火球の構えを取る。
ウィリアムが火球を放つ瞬間、地面が隆起し壁となる。火球は土壁に当たり爆発を起こす。
土は簡単には燃えない。
以前、牛の魔獣に対して使った金属柵の真似事だけど上手くいったようだ。
だけどコントロールが難しいな、そんなに、ポンポンと使える技じゃないぞ。
ウィリアムは何が起こったのか理解できていなさそうだ。
今だ!
近づいてくる俺に驚き、火球を連発する。それら全てを土の壁で防いでいく。
ウィリアムの周りにも土壁を展開する。同時に上空へと飛翔する。
驚いたウィリアムは爆発によって周囲の壁を破壊した。
土埃が舞い、周囲を覆い尽くす。
その隙にウィリアムの背後をとってウィリアムに掴みかかる。
気配を感じたウィリアムは振り返り、両腕を構えて守りの体勢をとる。
腕をつかむ。
ウィリアムはそれを確認して、自分の腕ごと炎ををともす。
腕をつかんでいる俺も火が移るがすぐに消える。
「え?」
理解できないといった表情をするウィリアム。あきらめずもう一度火を着けるが、今度は火炎すら上がらない。
「どうして?」
「真空って知ってるか?」
「しんくう?」
「簡単に言えば周りよりも、空気がないってことだ。物が燃えるには空気が必要だからな空気を奪ってしまえば燃焼はできない。」
「そんな・・・」
正確には空気の中の酸素をなくしたかった。分子を選ぶことなんて、できなかったから空気ごと風の魔法で操作したけど・・・コントロールが難しい。
自分の腕の周りにしか発動できなさそうだ。
空気も移動させ過ぎている。このままでは血液が・・・
ウィリアムの腕と腕をつかんでいる俺の手の皮膚が切れて血が噴き出す。
時間もない。このまま決めさせてもらおう。
電撃を放ち、ウィリアムは感電した。
「うっ・・・さすがですタロウさん・・・」
一言残し、ウィリアムは気絶する。
色々思いつきだったけどうまくいってよかった。
崩れ落ちるウィリアムを支える。
周囲を見渡すと両軍がかなり近い位置で停止し、俺たちを見ていた。
戦闘の結果を判断し、帝国軍が雄たけびを上げ、王国軍が後退を開始する。
帝国軍は進軍を始めた。
くそっもう撤退を開始したんだから、それ以上追わなくてもいいだろ・・・
まずはウィリアムをみんなのところに連れて行かないと、ウィリアムを抱え、飛ぼうとしたときウィリアムの体温に異様な熱さを感じる。
いやこれは、超高濃度の魔素?
ウィリアムの右腕が強い光を放ちだす。服をちぎると、腕に埋め込まれた魔石があった。
お前も・・・やられたのか!?
急いで、腕に張り付いた魔石を破壊しようとする。しかし一歩遅く、魔石が発動してしまう。
強烈な爆風が発生し、吹き飛ばされる。
風の魔法を発動し、減速する。
「タ・・・ロウさん・・・逃げて」
辛うじて意識が戻ったウィリアムのかすれた声が聞こえる。
ウィリアムの右腕から大量の炎が吹き上がる。
炎は生物の様に意思を持ち、俺の方へ向かってくる。
あまりに大きすぎる!
風の魔法を発動し、相殺を狙う。しかし、強すぎる炎に押し戻される。
風で炎の勢いを弱めているうちに土の壁を大量に用意する。
風の魔法を解き、土壁で受ける。
あの魔石を停める方法を考えないと・・・
炎は土の壁にぶつかり割れる。割れた炎は後ろにいた帝国軍の方までたどり着いた。
幸いにも焼けたヤツはいなさそうだ。
大量の炎に勢いづいた帝国軍の気は完全にそがれ、足を止めていた。
対照的に王国軍は活気づき武器を構え直す。
どっちもどっちだ。戦争なんてそんなものか・・・
いや、そんなことよりもウィリアムの腕の魔石の暴走を止める方法がない。
あんなに大量の火炎を吹き続けていては近づけない。それにいづれ魔素が尽きてしまう。
それだけではない。
今まで見てきた通り、あの魔石はウィリアム自身を焼き尽くしてしまう。
今は辛うじて残っている意識でどうにか制御しているだけだ。
やはり近づいて、真空を作って炎を発生そのものを停めるしかない。そして魔素吸収で魔石を破壊する。
溶け始めていた土の壁を再成形し、少しずつ少しずつ近づいていく。
もう少し、後五歩。
ウィリアムは近づいてくる俺に気づき、上空へ移動する。
まずい、このままでは大量の火炎を吹き下ろされる。
近づいても逃げられる。風の魔法で相殺しようにも炎が強い。
こうなったら一か八か、一瞬だけ・・・本当に一瞬だけあの炎をより強い攻撃で吹き飛ばし、その隙に近づくしかない!
俺の持っている強力な攻撃・・・プラズマ砲。
予想通りウィリアムは炎を噴き出す構えをとる。合わせるようにプラズマ砲の準備をする。
イメージは右腕が砲になったイメージだ。
周囲に触れる空気に電気エネルギーを与えていく。
空気は電離し、電子とイオンに分かれていく。余すことなくそれらを集め収縮していく。
すぐに十分な量がたまる。
周囲に形容しがたい高周波が鳴り響く。
ウィリアムが炎を放つタイミングと同時に向き直る。
視界を覆う大量の火炎。
あまりの大きさにゆっくりと落ちてくるように見える。
火炎の中心に向かって右手を掲げる。
炎に向かって一瞬、光が走ったように見える。
追うようにまばゆい閃光を放ちながら太い光線が伸びる。
迫りくる炎よりも早く、炎を飲み込んで上空へ走った。
誰もが、その光から視線をそらすことができない。
神々しい光線は完全に炎を消し去り、何もない空が広がっていた。
ウィリアムはようやく戻った視界で目の前の敵を探す。
しかし見つからない。
辺りを見渡すよりも先に右腕に何かが触れる感覚があった。
駆け抜けていった光線の最後尾をタロウが一緒に飛んできたのだ。
タロウは片目を閉じながらウィリアムの腕に触れる。
一瞬にしてウィリアムの腕に埋め込まれた魔石の魔素を吸収し、大気中に放出する。
同時に魔石は砕け散った。