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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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山間の戦地1

麓ではギルドが管理している宿泊施設があった。

夕食時、ノエルが神妙な面持ちで質問してくる。


「これから、救いに行くウィリアムとかいうガキが王国のためを思って戦っていたらどうする?」

「・・・」

俺は考えられなくなる。


半ば強制的に戦わされていると思い込んでいたが、彼がもしも自分の意志で戦うことを選んでいたら、どうしようか?


「おいおい、黙るなよ。進んで戦争したい奴なんて、頭が狂ってる奴以外いないだろ。そいつは頭が狂っているのか?」

「いや、すごく利口な子だよ。」

「なら大丈夫だ。心配するな、胸張って助けに行け!」

「そうだな、ノエル、いつもありがとう。」

「そ、そうか。そうだな。私のおかげだな。」

本当にノエルは親身なって励ましてくれる。こういう時だからこそありがたいな・・・


日が昇って、山を越えて戦場に入る。

激戦地に近づくにつれて、砲撃の音や爆発の光が遠方に見える。


幸いにも戦闘を行うことなく、帝国が納めている戦場のキャンプに入る。

その戦場の指揮官と面会を行う。

例にもれず、女帝からの命令書を見せると自由行動が認められた。凄まじいな・・・


早速、情報収集を開始する。

数多くの人が入り乱れる戦場では、ただ一人の人を探すなんて困難だろうと考えた。

しかし、意外と早く、それっぽい人が見当がついた。


どうやらウィリアムは有名らしい。

何でも炎の魔術を使い、戦場に大爆発を起こす。とてつもなく強力な魔術使い。

しかし、攻撃の位置がずれていたり、微妙に攻撃タイミングがずれていたりと戦いの素人だといわれている。


とはいえ炎というのは優秀だ。存在するだけ注意をそらすことはできない。ましてや大爆発だ。

彼の存在が戦況の膠着を起こしていた。幸いにも死傷者は少ない状態が続いていた。

しかしこのままではいけない。

帝国は大規模な攻略作戦を計画していた。


まずいな。

いくらウィリアムといえど、大人数に攻められたら、ひとたまりもない。


戦いとは数だ。その原理はこの世界であっても変わらない。


このままではウィリアムは負けるだろう。ただ負けて敗走するならばマシだ。

とらえられれば、まず命はない。

敵国の優秀な魔術使いだ。生かしておく理由がない。

運よく実験材料。

そうなる前に、俺が無傷で決着をつけなくては・・・


大丈夫だ。

なんとなくだけど、そんな気がする。

ウィリアムは優秀なのだ。彼が狙いを外したり、攻撃のタイミングをつかめないはずがない。

いやしっかりと理解しているからこそ、タイミングをずらすことも容易なのだろう。


自分たちが建てたテントに戻る。

すでに全員が揃っていた。

全員が集めた情報を統合する。

ノエルはしっかりとセクハラされて、ブチ切れて喧嘩をしてきただけのようだが・・・


コイルとアレクが集めた情報は、俺が集めた情報と概ね一致しており、炎の魔術使いがウィリアムで間違いなさそうだ。


彼は決まって戦闘が開始されると、目立つように炎を吹き上げながら、王国の兵士たちの頭上を通り過ぎ現れ、大爆発を起こして戦場をかき乱すらしい。

一番やりを務めるもんだから、帝国の初撃は全てウィリアムに向くが、強力な火炎によって防がれ一発も届くことはないらしい。


そこからはウィリアムによって一方的な攻撃が行われるとのことだ。

しかしその攻撃が微妙に外れているため、逃げることができる。

そうして帝国側から攻撃を続けていると、彼の魔素が尽きてくるのか、帝国の攻撃が届くようになるらしい。


いつもは帝国の攻撃がようやく届くころには長時間が立っており、それ以上の戦闘継続は困難ということで、一旦、戦闘が止まるとのことだ。


帝国はこの状況を打破するため、大量の攻撃をウィリアムにぶつけ一気に押し切る。力技の作戦を立案しているのだ。

次の帝国の攻撃は明後日の早朝。あまりにも時間がない。


「こうなったら戦場で直接、ウィリアムにあって交渉するしかない。」

「といってもどうする気ですか?」

「あいつは炎の魔術使いだ。あいつの炎を抑えることができるのは俺が魔法を使うしかない。ウィリアムの魔術を抑えつつ説得を試みる。」

「いいでしょう。ならば私たちはタロウが心置きなく戦えるように、今回はバックアップに徹しましょう。」

「すまない。よろしく頼む。」


すぐに時間は過ぎ、戦闘直前となる。

急ごしらえの作戦を何度も何度も反芻する。

「タロウ、怖いの?」

ノエルが覗き込むように聞いてくる。


「正直に言うと怖いな。戦闘はやっぱり怖い。だけど大丈夫だ。立ち止まってはいられないからな。」

「そうか、怖かったらいつでも、頼ってくれていいからな。」

そういって胸を張る。今なら本当に飛び込んでも許してくれそうだ。


戦闘開始の合図がなり、進軍が開始される。

同時に敵軍がいる方向から、赤色の閃光が空へ登っていく。まるで花火だな。


「タロウ来ました!」

アレクの掛け声に答えるように、俺も飛び立つ。こっちは純粋な空気の塊を噴き出している。おそらく相手には見えていないはずだ。


炎の一本線が高速で上昇する。やがて人の頭上を大きく超える高さで止まり、帝国軍に向けて進路を変える。


派手に光と音を出しながら迫ってくる。

まるで警告を発しているようだ。

お前の意志、無駄にはしないからな・・・俺は目の前の炎とは対照的に自分の周りを流れる空気を調整し、音もなく高速で近づく。


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