帝国-Ⅶ 5
「今回の戦争の終わりは単純ですわ。王国側が戦争目的を達成するか、戦争継続するために必要な資源を使いつくすか。二つに一つですわ。帝国は戦争目的を達成させないように、相手の戦力を削り続ければいいのですわ。」
「それは、果てがないのでは?」
「ええ、真正面から衝突を続ければ、そうでしょうね。ですから重要なのは戦場以外の部分ですわ。輸出を停め、人々の往来を停め、果てには経済の流れを止めますわ。」
「そんなことをすれば、戦場で戦っている人々以外の一般人も苦しむことになります。・・・俺はそれを見ました。」
女帝は少し落胆した表情を見せる。
「少しは見返しましたのに・・・やっぱり冒険者ですのね。」
女帝はたたずまいを直し、向き直る。
「私は帝国です。私は安寧と繁栄のために帝国を勝利に導きます。」
女帝は用が済んだのか。颯爽と帰っていった。嵐のようだった。
さいごのの言葉が頭の中で反芻する。俺は何か間違ったのだろうか?
出発まで期間が短い。
女帝が帰ってから街に出て、傭兵になってくれる人物や、物資の補給を行う。
当てはある。
まずはフジワラ商会へ向かう。
「おや、王国にいるはずの男がいるな、幽霊でも見てるのかねぇ」
「冗談はやめてください。実物ですよ。」
「悪かったね。しかし、疑っているのも事実なんだよ。お前は確かに王国にいた。そのはずなのに、誰の視覚に入ることもなく、帝国に表れた。本当に魔法使いになったというわけだ。」
「・・・詳しくは言えませんが、理解できないような力を使っているわけではありませんよ。」
「それでも、わからないというのは恐怖だ。その力、むやみに使うんじゃないよ。特にお前は素性が知れないところがある。簡単に敵に仕立て上げられる事になるだろうよ。」
マリーさんの真剣な表情に圧倒される。
「胆に命じます。」
「それはそうと、今日はどんな用があってきたんだい。」
「マリーさんは僕が住んでいる屋敷の住人を見たことがありますか?」
「私自身が直接見たことがあるわけじゃないが、話は聞いているよ。」
「俺がもう一度、王国の戦闘地域へ行っている間の護衛を依頼したいです。」
「なるほど・・・ちょうどいい奴らがいる。戦争のせいで商団が足止めくらっている奴らがいてな。お前がいた団だ。」
あの団か!
「確かに、それなら信頼できますね。しかし、戦争の影響がそんなところまで出ていたのですね。」
「戦場の様子はどうだった。」
「ひどいものですね。王国の兵士たちが、自らを犠牲に攻撃を繰り出すようになっている。まさしく人間自身が魔石となって魔法が使われています。」
マリーさんは少し考え込むようなしぐさを見せる。
「もう戦争は終わるだろうな・・・」
「なぜ、そのようなことがわかるのですか?」
「勝つための手段がないからだよ。」
手段がない?ならば、なぜ戦っているのか
「帝国は追い詰め過ぎたのさ。どんな兵士だって、死にたくない。だけど有効な武具がなく、そこらへんにあるものを使っても犬死するだけ。ならば兵士として生きていた証ぐらいは残したいと思うものさ。愛国心が強ければ強いほどに・・・」
だから自分の身を呈して、戦うというのか。
俺には理解ができなかった。その気持ちが懐かしくも感じた。
「マリーさん。あなたなら、この結果にどうやって決着をつける?」
「単純だね。金で話をつける。要はこの戦争は経済戦争だ。金で問題は解決する。」
「では両国は何故、その解決方法に至らなかったのでしょうか?」
「王国が帝国の金をもらえば、王国は王国でなくなるだろう。帝国が王国の金をもらえば、一時的に戦争が終わっても、また戦争が起こるだろう。みんなわかってるんだよ。」
一時的にお金で解決しても、人類の生活が劇的に変化するわけではない。戦争が起こった原因を特定しているわけではないけど、おそらく複合的な要因だろう。
また同じ状況になったら戦争が起こる。
「マリーさんは帝国が勝つべきと考えていますか。」
「私にはどっちが勝とうと関係ないね。私はただの商人だ。どんな結果になろうと、物を売るだけ。さ、話は終わりだ。依頼は確かに請け負った。報酬はたんまりもらうからね。」
「承知いたしました。よろしくお願いいたします。」
マリーさんの元から帰る途中、色々と思う。
他のいろんな人にこの戦争について聞いた。
決まった答えは出ない。
でも何かあるんじゃないかと思わずにはいられない。それほどまでに王国は追いつめられていた。
つらつらと思案していると屋敷に到着する。
ケガを負ったままの人達が、せわしなく夕食の準備を進めていた。
彼女たちがここまでのケガを負うことになったのも王国が追いつめられているからだ。
俺ならどうする。
この戦争を長引かせてしまっている原因は俺にもあるかもしれない。魔石に関する情報を出してしまったがために、狂気の魔石を作り出してしまったかもしれない。
アレクには違うといわれても、俺自身は納得がいかない。
次の旅で、ウィリアムを助ける。そして王国の狂った魔石を停める。それが、俺がやりたくないことをすることになったとしても・・・
血がにじむほど、こぶしを握り覚悟を決める。
夜、リナに呼び出される。
彼女にしては珍しいことだ。




