帝国Ⅶ-3
「さて、これからどういたしましょうか。とりあえず街に買い物にでも行きましょうか。」
後ろから声をかけられる。
後ろにはリナとノエルが並び立っていた
「二人が行くのか?というかノエルも?」
「当たり前だろ!タロウ、お前が良からぬことをしないように見張っておいてやる。」
「そんなことしないよ。」
「私は何があっても構いませんよ。」
リナは頬を赤くして答える。体も揺れ動く
ノエルが歯ぎしりをする。
「リナ、ノエルの機嫌が悪くなるから、そこら辺にしてくれ。それから二人とも変装してくれ。今はまだ目立つ訳にいかないんだ。」
二人を俺の言葉を聞くなり、家の中へ走っていく。
結局、二人の買い物に突き合わされ、へとへとに疲れてしまった。
一週間もたったころ、リナとその騎士たちは完全に新生活に慣れていた。
何故かノエルも継続して一緒に住んでいるが、特に問題を起こすことなく仲良くしているようだ。
むしろちょっと仲良くなった?
何はともあれいらぬ心配をしたようだ。部屋も余っていたし、にぎやかになっていい。
十二分に動ける騎士たちは外で訓練したり、道具の整備、買い物など自由に行動している。
たまにノエルと模擬戦もしている。
動きにくい騎士隊員は部屋の中で各々の思うように過ごしている。
今目の前で治療を受けている女性も、その一人だ。
元はリナを守る騎士団の団長だったらしい。
団長職は今も継続か。
リナが魔石病に犯されているときから交流を重ね、良く話し相手になっていたとのこと。
彼女が動けるようになってからは、より熱心にサポートに回っていた。
しかし、事件は起こる。
一度目の王国兵が来た時、リナの存在を探していることに気がついたらしい。
王国兵が帰ったあと、入念に準備が進め、仲間を集い逃避行を開始した。
途中、王国兵の斥候を退け、禁忌の森に入ってからは亜獣を退けた。
崩れかけた崖方向に逃げる途中、亜獣の巣に近づいてしまい激しい戦闘となった。
結果として、亜獣に利き腕を食われてしまった。失った物は戻らない。
彼女が剣を持つことはできない。
それでも彼女はリナについてきた。彼女の壁にでもなって死ぬ覚悟を持って。
何が彼女をそこまで駆り立てるのか・・・俺には理解が難しいが、その思いの強さは伝わった。
切断された腕を見る。
着られた断面はきれいで、傷は塞がっている。
「痛みはありますか?」
「ないよ。すまないな・・・医者でもないのに・・・」
「問題ありませんよ。少しは知識がありますから、だけど一度医者に診てもらいましょう。」
「そうだな」
そういってまた窓の外を見つめる。心ここにあらずといって様子だ。
そして傷そのものが完全に完治したことで、俺ができることは終わった。
医者でもない俺が、できることはない。
俺の診察が終わったタイミングで、リナが来る。
リナはいつも騎士の一人一人に話しかけているのだ。
リナと入れ替わる。
話がはずんでいる場をしり目に、いつもの研究室に入る。
束ねられた紙が机に散らかっている。
男の妻に言われてからずっと研続けている。
回復の魔石の上位互換。
再生の魔石とでも名付けようか。
進むべき方向性はわかってきた。しかしいまいち形にはできていなかった。
理由は単純だ。実験ができていなかった。
いや、やらなかったというのが正しいかもしれない。
安全のため人以外の動物を利用して検証・・・とはいえ、むやみに魔石の実験に利用してもいいのか?成功する保証は無いのに・・・
俺自身が決めあぐねていたのだ。
結果として周辺技術の研究ばかりしている。
それでもいづれは動物実験をしなければいけない。
そうでなければ、人への適用など夢のまた夢だ。
どこかで覚悟を決めなくては・・・
元々ロボットなんかを研究していた俺にとって、この活動は医療研究の難しさを痛感させた。
頭の中では分かっていながら、今日も理論だけを考える。
気が付くと夜になっていた。リナに呼ばれて食堂へ行く。
「すまないな、いつも用意してもらって」
「いえいえ、こちらこそ居候している身ですから、これぐらいやらせてもらいますよ。」
どうやらリナの手作りらしい。
「おい!早く席につけ。さめちゃうだろ!」
ノエルはすっかり懐柔されたらしい。
食事は進む。
「リナ、明後日には次の準備が整いそう。」
「そうですか・・・わがままなお願いではありますが、よろしくお願いいたします。」
リナは頭を下げる。
「気にすんな。ばっちり連れ帰ってやるよ!」
俺が返事をする代わりにノエルが元気よく返事する。
それを見て、リナが笑顔になる。
雰囲気が暗く成ることなく、それなりに時間をかけて食事を終えた。
次の日、次の遠征に向けて準備をしていると、予想だにしない人物が現れる。
帝国、近衛師団、団長その人である。
「何か、御用でしょうか?」
突如として現れたその人物に、警戒しながら、対面する。
俺の後ろには、アレクとノエルが武装しながら警戒を続ける。
リナたちの気配がしない。しっかりと屋敷の中で息をひそめているようだ。
「すっかり警戒されているようだな。案ずるな私はどこまで行っても護衛だ。本題はこの方からお話がある。」
そういって団長の後ろから出てきたのは、一人の少女である。しかし、その少女に驚愕する。