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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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【幕間】崖下から帝都

タロウの答えはとても理解できるものだった。

私にも覚えがある。

まだ帝国の教会が運営していた貧乏孤児院のシスターが剣を教えてくれた。

今考えればどうしてシスターが剣を知っているのか、疑問に思うが、とにかく稽古をつけてくれた。


大事な先生だった。


貧乏だったし、孤児院には同年代の女の子がいなくて暇だったので、

ずっと剣をふるっていた。

幸いにも私には才能があったらしい。


孤児院にはゴロツキがちょっかいをかけることがあった。

単純な話が人買いだ。

そんな者たちをシスターがいつも追っ払ってくれていた。


ある時、シスターがいない時に人買いがやってきた。

いつもなら孤児院の皆は扉を閉じてやり過ごすが、私は調子に乗っていた

シスターの助けになるだろうと思い、立ち向かった。

結果は圧勝だった。今回荒らしに来たゴロツキには圧勝してしまった。


でも経験の差か人買いたちには仲間がいて、茂みに隠れていたのだ。

私は不意打ちを食らいそうになった***が帰って来たシスターが間に割り込み私は無事だった、シスターは怪我をした。


私のせいだ。


人買いたちは元々、私のように痺れを切らして出てくる子を狙っていたのだ。

そのあとは、シスターと一緒に来ていたフジワラ商会お抱えのスズキ団長が

そいつらをボコボコにしてくれて事なきを得た。

シスターは気にしてないなんて言ってくれるけど、私は孤児院に居づらくて

しょうがなかった。


私は団長に頼んで、商団の護衛隊として孤児院を離れた。

シスターには黙って出てきた。

後でわかったことだけど、団長を通じて商団にいることはシスターにバレてたらしいが。


タロウのせいで、昔の事を思い出しちまった。でもはっきりとわかった。

これが私の言いたいことだ。

タロウのおかげだ。やっぱりちょっと悔しいから、タロウにはやんわりと、でもしっかりと伝えた。


タロウは頭がいい男だ。

私の言い方でも受け取ってくれたみたいだ。

ようやく少し伝えられて、すっきりとした。

いつの間にか、服が乾き、雨は上がっていた。


この後、団と落ち合える場所まで行くと傾斜になっていて少し上る必要があった。

タロウはここを命綱?なしで登るのは無理とかわけのわからんことを言っていたが、

無理やり登らせた。

腰が引けてて大変面白かった。

大変気分が晴れた。


帝国に入った。

今回は長居するつもりはないらしい。

数日も経てばやることが無くなり、タロウも捕まらないので、何も考えず街の中を歩いていた足が覚えていたのか、いつの間にか私がいた孤児院に来た。

引き返そうとすると声をかけられる。

「おや、だれかと思えば暴れん坊のノエルじゃないか。珍しいこともあるもんだね」

「うっお久しぶりです。シスター。覚えていたのですね。」

以前お世話になっていたシスター、その人だった。とうとう見つかってしまった。

少し痩せたかな。

「忘れるわけないじゃない。 !よく見るとあんなにやんちゃな娘だったのに、こんなに綺麗に育つとはねぇ。私は誇らしいよ。」

私は少しうれしくなって、思わず下を向いてしまう。

でも、黙って出てきた手前、何をしゃべればいいかわからない。

とりあえず、あたりさわりの無い事しか言えなかった。

「シスターはお元気でしたか?」

「ふふっ体はでかくなっても、おつむはあまり変わってないみたいだね。入りな、孤児院を出た後の事を聞かせておくれ。」


は数年ぶりに入る孤児院を懐かしく思い、あたりを見渡す。

何も変わってないな。

数人の子供たちがこちらを不思議そうに見ていた。

まだ孤児院としてやっているみたいだ。

奥のシスターの部屋に入る。ここも何も変わっていない。

私はそれから出ていった後の事を話した。

シスターは昔と変わらない調子で聞いてくれる。いつの間にか体に入った力は抜けていた。


気づいたら夕方だ。

私の心は落ち着き、健やかな気持ちだ。

また来よう、そう思って、立ち上がり部屋を出ようとしたとき

「ノエル、あんた好きな人はできたかい?いないなら知り合いを紹介してやろうか」

「はぁ、そんなのいるわけないだろ。あといらない。」

「そうかい?そろそろいいかとも思ったけどね。ふーん・・・どうして私があの時、怪我をしても気にしてないといったかわかるかい?」


私の心に、また力が入る。

「わからない。どうして?」

「怪我をしてもいいと思えるからだよ。あんたのために。」

「私はそんなことしてほしくない。誰も傷ついてほしくない。」

「そう思える関係を家族というんだよ。私たちは家族だね。あんたもそう思える人を増やしてもいいと思ってね。」

私は目線をそらした。頬が緩んでいるかもしれない。

「でも、私はここを出ていった。」

「そりゃあそうさ、人間なんだ。調子が良いときもあれば、悪いときもある。遠くに行くこともあれば、近くなることもある。」

「そんなのわからない。不安にならないの?」

「人生経験が足りないね。なんとなくわかるもんだよ。それに元気だって報告はよく聞いていたからね。」

「聞いていた?」

「団長さんから聞いていたからね。何度もここに来ようとして、

うろうろしていた頃もあったみたいだね。」

「もう帰る!」

なんてことだ。一人で迷って、バカみたいじゃないか。

「また、おいで。」

そう言ってシスターは手を振っている。


宿舎に帰って団長に詰め寄ったが、うまい具合にはぐらかされた。

くそっ私の周りには頭のいいやつばかりだ。

心のしこりがとれた私はあれから孤児院に通うことになった。


団長や副団長は次の取引で忙しそうだし、他の奴らもそれぞれ予定を入れていてトレーニングの相手もいない。

タロウも何かコソコソと調べものをしていたり、一人で練習したりと忙しそうだ。

団長と何か話し合ってから変わったな。

団長がもうそろそろ帝都から出発するという号令があってから、数日後タロウが神妙な面持ちで団長が使っている部屋に入っていくところを見た。

悪いとは思ったが、不思議な構図だったので思わず聞き耳を立ててしまった。


「はい、私は団を抜けようと思います。」

え、なんで、どうしてだタロウ!?

私は心臓が締め付けられる思いだった。

どうしてこんな気持ちになるんだ。何も考えられなくなって呆然と立ち尽くしていた。

いつの間にか話し合いは終わり、タロウが出てきていた。


どうしよう何か話さなきゃ

「おまえ、団をやめるのか。」

「ああ、今までありがとう。

ようやく自分のやりたいことを見つけたよ。皆が教えてくれたことが助けになったよ。」

どうして、そんなに清々しく答える!

「ふん!好きにしろ。冒険者だっけ?私が戦えるか調べてやるよ。」

何故か、戦うことになってしまった。


くそっよくわからない。私はバカなんだ。

とりあえずタロウを倒して落ち着こう。

あいつの魔術は強力だが、魔術使いはみんな術の出が遅い。

スピードを意識して速攻で決めてやる。

戦いが始まり、そして終わった。


私はタロウに負けた。

油断はしていたが、負けは負けだ。

くっそー全然、うまくいかない。もうメチャクチャ飲んで全部忘れてやるー

私は普段、全然飲まないのに、今日は友人が止めるのも無視していっぱい飲んだ。


そのせいか次の日、見事に二日酔いとなった。しかも何があったか全然覚えてない。

友人には惜しいと言われた。

結局、何がなんだかわからないからシスターのところに来ていた。

シスターに事のあらましを話す。

するとシスターは

「本当に、わからないのかい?誰かにその気持ちを言ってほしいだけなんじゃないかい?」

「わからない。」

私は机に突っ伏し、目線を外してそういった。

「ならこうしよう。年上の助言として聞いときなさい。

その人と一旦離れて、それでも気持ちが変わらなければ、その気持ちに正直になりなさい。いいね。」

「・・・・わかった。」

次の日の朝、団長は私になんか言ってくる。

私は振り向けなかった。離れなくてもわかる。

次はちゃんと話せるかもしれない。


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