ホッカ5
俺には魔法がある。
さらには一定程度、航空機に関する知識もある。飛行の仕組みは一通り勉強しておいたおかげで抜かりはない。
もちろん今から航空機を作るのかと問われれば、そんなことはしない。
というかできない。
やることは単純に力技である。
魔導四輪と荷台をがっちりと固定し、物の下から風の魔法で推力を発生させる。
そしてそのまま戦闘地域の真上を飛び越えるという考えだ。
もちろん、とんでもなく疲れるだろうし、飛行機のような飛び方で高出力の魔法を発動する間は、他のことができなくなる。
それでも危険を冒して戦闘地域を進むよりは現実的だ。
ということで、補給を受けつつ、魔導四輪と荷台を繋げていた。
しっかりとつなげないと、空中で折れたりしたら一大事である。
金属の板を打ち付けていると、アンネさんから呼び出しを受ける。
「何かありましたか?」
「それが、お嬢様から、街に残るように提案がありましたの。しかし、騎士たちは反発して話が全く纏まらなくて・・・」
なんとなくそんな気はしていた。
リナの騎士たちの忠誠心が強い。
でなければ、あんなに怪我を負ってまで助けようとはしないだろう。
騎士たちが療養している部屋に来る。
話し合いをしている声が外まで聞こえてくる。
「お嬢様、何度言えばわかるのですか?あなたが私たちを不要だとと言わない限り、私たちはあなたから離れる気はありませんよ。」
「不要だなんて・・・でもこれ以上あなた方を当てもない旅に同行させることはできません。」
「それが、なんだというのですか。あなたのために責務を全うできるならばそれ以上の誉れはない。」
「誉れのために死のうとしないでください。私はあなた方に死んでほしくない。あなた方は大切な人だから。」
「それは私たちも同じです。あなたのお母さんに頼まれたからではない。あなたという人に尽くしたいと思えたから、だからお嬢様とともにありたいのです。」
美しい忠誠心か、過激な愛か、リナは彼女の騎士とわかれる事は出来なさそうだ。
「良いんじゃないか?このまま一緒に旅を続けても。それはきっとみんなのためになるよ。」
「タロウさん・・・すみません。お見苦しい姿をお見せしました。」
「いや、そんなことないよ。それより、少し話してもいいかな?」
「場所を移しますか?」
「いや、ここでいいよ。話というのは今後のことなんだけど・・・」
「はい何でしょうか?」
「ルイスさんは、やはりリナを匿うことはできないそうだ。そこでだ、一緒に帝国に来ないか?帝国と言っても俺の研究所付近だから貴族のような生活はできないけど」
「ぜひ、同行させてください!」
かなり食い気味な返事に驚く。後ろの騎士たちも呆気に取られていた。
「そ、そうかリナがいいなら良いんだ。・・・で、みんな連れていくということでいいのかな?」
「あ、あのついていくなんて言いながら、この人数は可能でしょうか?」
「ああ、全く問題ないよ。朝飯前さ。」
リナの騎士がおぼつかない足で、俺の前に来る。
「しばらくはお前にお嬢様の護衛を任せることになる。不本意だけどな・・・いいかお嬢様が傷つくようなことがあれば、許さぬからな!」
大けがを負っているとは考えられないぐらい、凄まじい気迫を感じ、たじろいでしまう。
「あ、あ、わかった。誓うよ。なんとしても守るよ。」
「ふん、ならばよい。」
このやり取りを見ていたリナは、何故か物凄く機嫌がよかった。
何はともあれ、全員での移動となった。
荷台を増やさないとな・・・
しかし騎士のケガ、何とかしてあげたいものだ・・・やはり不便であろう。
帝国に戻ったら、止めていた研究を推し進めないとな・・・
帝国政府に聞きたいこともあるし、報告がてら、調査でもしてみるか・・・
とある夜、クララのもとへ行く。近日中の出発が決まったからだ。
クララはルイスから謹慎を言い渡されていたが、離れに住んでいるだけで、苦労はないようだ。さすがは有力貴族・・・もちろんケニーもいる。
そんな二人はまだまだ寒い夜に暖炉を囲って軽食を取っている。
謹慎中じゃなかったか?
「明日、ここを出発するよ。クララとケニーはどうする?」
「私も連れて行ってって言ったらどうするのよ。」
「お望みとあらば」
「冗談言わないで。こんなところで、帝国に行ったら、ただ逃げているだけじゃない。」
さすがの負けん気だ。目には炎が宿っている
ケニーから軽食を分けてもらう。
硬いパンに溶かしたチーズをかけて食べるものだ。
寒空の下で食べるこういう料理は格別においしい。
「私ね。貴族教育に何の意味があるんだろうって思ってある時、外に出てみたの。」
突然語りだした。珍しいな。
「もちろん。世間知らずの小娘が外に出たところで、悪い奴らにいいように使われるだけよね。待ってましたと言わんばかりに人攫いにつかまりそうになったわ。」
ケニーが話していたことか・・・
「結局ケニーが助けてくれて何も起こらなかったけど・・・でもその時思ったの。世界には悪い人がはびこっているのに、何が貴族よ。何のためにつまらない教育を受けてるのってね。だから鍛えて冒険者になったの。直接、街の人の力になるためにね。でもリナのことを助けてあげられなかった。」
彼女の言葉は、誰もが一度は思う理想論だ。
それでも彼女はあきらめなかった。
ケニーを見てみると、ただ黙って聞いている。慣れているみたいだ。
クララは自分の膝に顔をうずめている。
しかし、すぐに顔を上げる。
「だから私、決めたの。どっちもやるって!」
何故か。しかしクララらしく、一番パワフルな解決策が出てきた。
「冒険者として数年間。いろんな依頼を受けてきて経験があるから、次は貴族。どんな人も救うためにどっちの経験も活かすの。ケニーついてきなさい。」
「了解っす。」
基本的に正義感が強く、行動力のある子なのだ。
なし遂げられるかはわからないけど、すぐに行動を開始するだろう。
すぐに元気になれるのは強みだな。




