ホッカ4
次の日、ルイスは仕事があるようで、暇な時間ができてしまった。
特にすることもないので、街の中を見学する。
基本的には三角屋根の家々が立ち並び、煙突からもくもくと煙が立っていた。
寒冷地特有の家づくりだ。
春になったばかりといえど、まだまだ寒い。道には雪だって残っている。
目的もなく、適当に歩いていたら、墓地にたどり着く。
とある墓の前にアレクが立っていた。
アレクはすぐに俺に気づく。
「この墓は、昔、一族に長く使えてくれた方の墓です。」
「その・・・こんなこと聞いていいかわからないけど、お前の家のこと聞いてもいいか?」
「面白い話なんてないですよ。単純な話です。私がもっと幼い時に、派閥争いに負けたのです。相手の一族が残忍でしてね。武力闘争まで発展した結果、一族は殺され散り散りとなりました。今はどこにいるのか・・・そもそも生きているかもわかりません。」
「それは・・・つらいことを聞いてしまったな。」
「もう、昔のことです。さすがに受け入れました。ですが、所在のわかる方はこうやって墓参りぐらいはしているのですよ」
「そうか・・・」
「それよりもこれからのことです。あのお嬢さんは、この地で露頭に迷うことになりますよ。」
「わかってるよ。俺だって見捨てる気はないよ。このまま街に受け入れられないなら、・・・どうしようもないから帝国へ連れていく。帝国ならフジワラ商会とか伝手もあるからな。」
「・・・そうですか。それならいいですね。」
アレクの半目が刺さる。確かに行き当たりばったり感はあるな。
アレクは街の方へと歩いて行った。
街をある程度見て回った後は、与えられた部屋に戻る。
王国で開発された新しい魔石のことは気になる。
何より、人を材料にするなんて、こんなもの!作らせてはいけない。
何とか無効化する方法を見つけて、絶対にやめさせなくては・・・
結局、その日はルイスに呼び出されることはなく。俺は研究に没頭することとなる。
二日後、ルイスに呼び出され、応接室に行く。
今度はアレクと二人だ。
リナは、どうやら彼女を護衛していた騎士たちとの交渉に難航しているようだ。
忠誠心があっていいことだ。
応接室に入ると、また同じメンバーで話し合う。
「結論から言おう。やはりリナ・ローリングを匿うことはできない。彼女が交渉をうまくできたなら、彼女の護衛たちだけは名前や職を変えることで匿うことは可能だ。」
「そうですか。私としては彼女を一人、放り出すことはできない。彼女が望むかどうかわからないですけど、このまま一緒に帝国に行ってもらおうかと思います。」
「ふむ、同じ王国民として悲しい事だが、彼女にとっては、このまま王国にいるよりは良いだろう。その判断を支持する。この情報はこの場だけで黙殺するとしよう。」
「ありがとうございます。以外とすんなりいってよかったです。」
「正直に言おう。私も今の王国が行っている戦争は好かん。活路も持ち合わせておらんのに、目の前の利益にとらわれおって・・・あんなものまで使い始めて、どうしてあの才能を他に使えなかったのか・・・とにかく個人的に同盟を組みたい。」
「同盟・・・ですか。それは具体的にどのようなことをするのでしょうか。」
「なに、難しい事ではない。単純に情報交換を行うのだ。私は王国の情報を、タロウ殿はその時知りえている情報を交換すればよい。」
「それではルイスさんに不利ではないですか?」
「それでよい。情報を知っているという事が大事なのだ。知っていることは武力である。」
なるほど、この人が聡明と呼ばれる意味が分かった。この街は安泰だな。
「わかりました。同盟を結びましょう。これからよろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしく頼む。」
二人は握手をする。
この人なら少しは信用できそうだ。後はこれからのことだが・・・
「これからのことだが、どうやら、リナお嬢さんは交渉に難航しているようだ。」
「そのようですね。」
「それから、お前たちの処遇だ。」
しょ・・・ぐう?俺何かやらかしたか?
「いまいちわかっていない顔だな。一応、お前たちは帝国の命を受けてここまで来たのだろう。」
表情が固まる。
そうだった。よくよく考えたら敵の本丸にいることになる。
その事実が、背中に汗を流す。
「何を固まっている。今しがた同盟を結んだではないか。しかし我々にも王国における立場というものがある。そこでだ一芝居うってもらおう。」
話を聞いたときいやな予感がしたが、そういう予感は当たるものだ。
概要はこうだ。
俺は補給のために、この街に立ち寄った。取り調べを行おうとしていた憲兵を撃退し、保護下にあったリナを誘拐してこの街を後にするというものだ。
完全に悪者である。
だが、これでこの街の中で安全に過ごせるのだ。
王国と街の関係は維持されつつも、ルイス達とは同盟関係にある。
ルイス達が生きている限り、王国の中に安住の土地が生まれるというのは大きなメリットだ。
正直、不本意だが、ここはその芝居に乗ることとした。
それからというもの、本当に補給を受ける。
いつまでもこの街にはいられない。
すぐに旅立つ必要があるからだ。
ここから帝国にある我が家まで行くにはどうやっても戦闘地域を抜ける必要がある。
もちろんだが、現状のまま戦闘地域に突っ込むことはできない。
もう一つの道はニッホンを経由する方法だが、一身上の都合によりニッホンには行けない。つまり八方塞がりなわけだが・・・
そこで思いついた方法がある。
戦闘地域を陸路で行くから危険で通れないのだ。ならば海路ならばどうか。
当然不可能である。
我々は船を持っていないし、戦争状態にある帝国と王国の船便は完全に途絶えている。
ならば空路ならばどうか?
航空機の類の物が一切存在しないこの世界では、当然不可能である。
しかし、俺がいるならば話は別だ。




