ホッカ3
リナはうつむいたままポツリとこぼれるように話始める。
「なんとなくこうなるんじゃないかと・・・思っていました。クララさんがすぐに帰って来なかった時点で、きっと皆さんは私のことなんて調べがついていて、対応を考えていたんじゃないかって」
リナは少し声を震わせていたけども、涙を見せることはなかった。
はっきりとルイスの目を見て答える。
「ルイス様、今すぐ出て行けというならば出ていきます。でもどうか、傷ついた私の騎士たちだけは、この街でかくまうことはできないでしょうか?これ以上彼女たちを当てもない旅に同行させることはできません。」
ルイスは目を見開き、ただじっとリナを見つめる。
少し周淳したのちゆっくりと口を開く。
「方法がないわけではない。しかしそれは彼女たち自身に彼女達自身を捨てさせることになる。爵位も、技も、そして名前さえも。しかしそこまでしても君だけはかくまえない。それでもいいならば」
「はい、承知いたしました。彼女たちには私から言って聞かせましょう。」
あまりにもあっさりと承諾してしまった。
この街に入る前の会話からして、本当に彼女はこれが狙いだったのだろうな。優しいのに戦略的で、責任感のある子だ。
「さて話を戻すが、タロウ殿。君についてだが・・・」
俺について?
俺について何か話すことがあるのだろうか?
「この街と不可侵条約を・・・」
ルイスがわけのわからん事を話そうとしたとき、会議室の部屋がバンっと開かれた。
扉の向こう側には顔を真っ赤にして激怒しているクララと、そのクララを羽交い絞めにしているケニー、さらにはどうしようかと周りをかこっている使用人たちがいた。
一体何が起こっているんだ?
「ケニー離しなさい。貴族として勤めも果たせない軟弱者を言って聞かせるのよ。」
「絶対言って終わらないっす。確実に何発かこぶしが出るっす。」
「そんなわけないでしょ!こんの~馬鹿力・・・あっおっぱい触った。」
「ご、ごめんっす。・・・てっ触ってないっす。」
クララの方が一枚上手で、一瞬力が緩んだ隙にクララはケニーを振りほどき、真っ先にルイス目掛けて走っていく。
思いっきりこぶしを振り上げながら・・・
振り上げたこぶしは、ルイスの顔面をとらえることはなかった。
ルイスの隣に座っていた息子の一人が、平手打ちをしたのだ。ケニーに・・・
平手打ちをされそうになったクララの前にケニーが割込み。そのケニーに振り上げたこぶしをぶつけてクララは止まった。
「「あ!」」
ケニーはそのまま倒れた。
「痛いっす」
二人からの一撃をもらったケニーはヒョイっと起き上がった。さすがの頑丈さだ。両頬が赤くなっているけど・・・
「ちょっとケニー何やっているのよ。大丈夫? 腫れてるじゃない。」
俺はケニーに回復の魔石を使ってあげる。
大丈夫って・・・片方はお前が殴ったものだろ・・・
「勢いだけで行動すれば、誰かを傷つける結果になる。どんな時も冷静になるのだ。」
ルイスはクララに諭す。
「冷静になった結果が、こんな弱い女の子を追い出すことにつながるの!」
弱いといわれてちょっと複雑な表情をするリナと全く響いていないルイス。
「少なくとも、リナさんは、お前が言うほど弱くはない。しっかりと次の手段があるようだぞ。」
!?そうなのか・・・もう次の手を打っているのか。やっぱりリナは賢いな。
リナとルイスの半目が刺さる。俺か?
「そういうことを言っているんじゃないわよ。力のある貴族として目の前で困っている人を見て助けようと思わないわけ!」
「お前は勘違いをしている。貴族だから人々を助けるのではない。力があっても一人では生きていけないから助けるのだ。」
「意味わかんないわ。」
ルイスはそんなこともわからないのかという表情をする。
「一人では食糧を作ることもできない。いつも使う食事道具を作る事もできない。力を持つといっても何もできないのだ。だから我々は物を作れる者たちに生かされている。我々は物を作れる者たちを生かすのだ。」
「リナは何も作れないから、助けないっての?」
「この街の住人ではないからだ。街の住人になるとは簡単なことではない。その街のルールに従い、歴史を紡ぎ、その土地とともに生きていくことを言う。お前のように貴族の責務もこなさず、好き勝手に生きていられるのは街の住人のおかげだ。住人はリナさんのために生きたいか?」
クララは何も答えられなくなった。
移動が難しく、人生のほとんどを一つの街で過ごす、この世界だからこその考え方だ。
「すまないな、リナさん。あなたを貶すつもりはなかったが、結果的に突き放すような形になってしまった。」
「いえ、構いません。理解はしておりますから・・・」
「はぁ・・・すっかり話し合いという状態ではなくなった。タロウ殿。この続きはまた今度別の機会を設けよう。」
「はい、承知いたしました。」
「それからクララ。お前は謹慎処分とする。少し頭を冷やしなさい。」
「ぐっ。知らないわ!」
クララは捨て台詞を吐き、部屋を出ていった。
クララを追ってケニーが追いかける。
「ケニー君いつもすまない。馬鹿な娘を頼む。」
ケニーはルイスに一礼して、部屋を出ていった。
続いてリナは治療を受けている騎士たちの部屋へ向かった。
俺とアレクはそれぞれ与えられた部屋へ向かった。
時間的には完全に深夜だ。夜の一瞬のことなのにどっと疲れた。
特に何かをするでもなく。そのまま眠った。




