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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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ホッカ1

何もない平野を魔導四輪と連なる荷台がかけていく。

道が全く舗装されていないから、揺れが激しい。

そんな荷台には複数人の人が身を固めて座っている。


彼女たちは寒いから身を固めているわけではない。

温度は俺の魔法によって、一定に保たれている。

彼女たちが身を寄せているのはその方が安定するからだ。

魔導四輪につながれている荷台は、取っ手や椅子なんてものは取り付けられていない。


そんな彼女たちを甲斐甲斐しくリナとアンネさんが世話をしている。

傷ついた兵士達に対し、回復の魔石等々できることは試してみたが、状態が改善されることはなかった。

やはり傷は回復するものの、失ってしまった物を取り戻すことはできない。


リナの前では気丈にふるまっているが、リナがいないところでは失った腕や足を見つめているときを見かける。

仕方ないことだが、現状、これ以上の回復は難しい。


一通り、治療を終えたのかリナが俺の隣に座る。

「タロウさんは、ここら辺に来たことはありますか?」

「初めてだな。どこまでも野原が続いていて、きれいな場所だ。」

「この辺りは放牧がなされていて、豊富な食糧庫なんですよ。」

「へ~、よく知っているな。」

「もちろんですよ。これでも貴族教育を受けていたんです。地域特性なんて暗記しています。」


リナは得意げに胸を張る。

元々、制限の多い生活だった。暇つぶしの意味でも、よく学んでいたのだろう。

そして彼女の持前の気質もあいまっているともいえる。

「私のために、何人もの方が命を費やしてくださいます。その方々に私は一体何を返せるでしょうか。」

「・・・難しい話だな。勉強もそのためか?」

「ええ、少しでも多くのことを学んで、何かに生かせないかと・・・でも中々実りませんね。今となっては住んでいた街も離れてしまいました。」


理由はどうであれ、彼女は故郷を失った。

なんとなく、気持ちがわかる気がする。俺も今のままでは元の世界には戻れない。

もう見ることはできない故郷の風景がふとした瞬間にフラッシュバックする。

それがどうしようにもなく、心を締め付ける。

・・・何かしてあげたくなった。


「大丈夫だ。寂しくはない。とは言えない。けど、リナには仲間がたくさんいるし、ずっと帰れないわけじゃないだろ?いつか戦争が終わった時、またくればいいさ。」

何か言ってあげたかったけど、とっさには思いつかない。気持ちはわかるはずなんだけどな・・・


「そうですね。戦争が終われば。」

なんか、しんみりとした空気になってしまった。

気まずい。


「そうだ。クララのところでお世話になって、落ち着いたら、帝国にある俺の家に遊びに来るか?」

「いいんですか!」

苦し紛れに言った言葉だが、予想以上に食いつきがいい。


「君と同年代の娘もいるんだ。きっといい話相手になると思う。」

「・・・その方はどんな人ですか?どんな関係ですか?」

なんだ、喜んでくれたと思ったが、一気に機嫌が悪くなった。


「どんな関係って、ただの仲間だよ。」

「ふーん、そうですか・・・」


どうしたというのだろう。さっきより空気が重い。

それ以上は会話が続かなかった。


それから数日ののち、予定よりも一日早く、クララの実家へとたどり着いた。ホッカという街らしい。

街の大きさは大きくはないが、道行く人々の生活には余裕がうかがえる。

戦争状態にある王国で、十分に裕福な証拠だ。


この街にたどり着くまでにクララの実家について少し話を聞いた。

クララの父親が街の実権を握っており、かなりの切れ者らしい。また人格者であるとも聞いた。何とか助けになってくれるのではないかとのことだ。


交渉は難しそうだが、リナをしばらくの間、かくまうぐらい造作もないだろう。

ひとまず、魔導四輪を街の外で止め、クララとケニーだけが街へと入っていった。


すぐに話をつけて戻ってくるとのことだ。

しかしクララは一日たっても帰ってくることはなかった。


その日の夜、リナと話す。

「クララのお父様は人格者ですが、厳格なことでも有名です。もしも、もしもの時は彼女たちだけでも助けてもらえないか。地に頭を伏せてでも懇願するつもりです。」

「そんなことまでしなくても。」

「いいえ、もう彼女たちを戦わせることはできません。私もいつまでも、守られているわけには行かないのです。」


2~3日経ったころようやく、ケニーだけが帰ってきた。

「ケニー何かあったか?」

「とりあえず入城許可は降りたっす。深夜に裏口を紹介するので、そこから入ってください。そこで話をするっす。」

そういってケニーは街へと戻っていった。


「これは、思いっきりもめそうだな・・・」

「そのようですね。交渉は頼みましたよ。」

アレクは鼻から何もする気がないようだ。

交渉は俺だって得意ではないのに・・・

やれるだけやってみるか


日が完全に落ち、街の裏手に回る。

しっかりと塀で囲まれているため、一見すると、入れる場所などないように見える。


しかしこれ見よがしに、明かりがともされた入口が空いている。

門番と目が合うが、特に何か言われるような事はない。

門番の前まで行くと

「魔導四輪の出力を切れ、その状態のまま、城の裏手まで回れ」


まるで暗号のような忠告を聞き、みんなで目線を合わし、車や荷台を降りる。

魔導四輪を押して街に入った。


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