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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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エントシⅡ-3

「何なのよ。あれは!」

クララは俺に向かって、伝説の魔獣に関する情報を求める。


「あれは勇者伝説に登場する、古代の魔獣だ。伝説通り、ユキヒョウのような見た目をして高速で移動するとのことだ。」

「あんなのふざけているわ。どうしようもないじゃない!」

「そうだな。俺たちには勝てそうにない。戦わないことが賢明だ。」

「あんなどこに表れるかもわからないヤツ。放っておけないわ。」


「大丈夫ではないでしょうか。あの魔獣はこの数十年間、問題を起こしていませんでした。おそらく、あの森に棲んでいるのでしょう。近づかなければ問題ないはずです。」

「そうだけど・・・」


クララはアレクの言葉になんとか落ち着く。

続けてケニーが機嫌を取っている。


警戒を続ける俺に、リナさんが近づいてくる。

「タロウさん。先ほどの王国兵が話していたことなのですが・・・」

「ああ、あの兵器が、俺の論文をもとに作り出したということ・・・全く、想定していなかったけどなんか申し訳ないな・・・」


「あの論文、実は私も読んでいました。」

「そうなのか!じゃあ、気分が悪くしちまったかな。」

「タロウさんは、何も悪くないと思います。タロウさんは魔石の再利用や魔石病の解決に向けて、あの論文を発表されました。それを意図しない形で利用されました。ただそれだけのことだと思います。」

「ただそれだけって、リナさんだって苦しんだだろ?」

「他人の言葉を聞く気がない者には、どんな思いも通じません。つまりですね。私は何も気にしていないということです。それから私のことはリナと呼び捨てにしてください。」

「・・・まぁ、それでいいならいいけど。」

「リナ」

「・・・・リナ」

彼女はにっこりと笑い満足したようだ。物凄く圧を感じて無理やり言ってしまった感がある。


「ところで、今はどこを目指しているのですか?」

「エントシ近く。ここでとある人を待ち合わせている。」「?」


俺たちはエントシを遠目に見ることができる場所まで移動した。

荷台に乗っている面々は思い思いに街を見ている。


「それじゃ行ってくる。」

俺はみんなに合図し、城の近くまで来る。

前回と同じように高高度まで飛翔し、リナが住んでいた部屋までたどり着いた。今度は一通の手紙を置いて、すぐに飛び立った。

うまくいくといいが・・・


次の日の昼頃。

街より離れたところで、人を待つ。

「ねぇタロウ。本当に来るの?その人。」

クララは飽きたという表情をして、魔導四輪の上でくつろいでいる。


心配はないはずだ。彼女ならすぐに来るはず。

「来た!」

俺は目的の人がゆっくりと馬に乗ってきたのを見つけた。

ギルド長アンドリューとメイドのアンネである。


馬は、魔導四輪の前で停止した。

「タロウ殿。参りました。」

アンドリューは俺の姿を見つけ、声を上げる。


俺はアンドリューの前に出る。しかし、それよりも先に声が聞こえる。

「アンネ?」


リナはメイドのアンネを見つけ、走り出す。

アンネもまた、リナの姿を見つけ声を上げるよりも先に走り出す。

二人は抱擁を交わし、互いの存在を確かめ合う。


「よくぞ、生きておられました。こんなに汚れちゃって・・・」

「アンネ。私は・・・私は・・・」

言葉にならない思いがあふれ、涙が流れる。

逃亡を開始してから涙を流すことはなかったリナは、その時だけは涙を抑えることができなかった。


「ありがとうございます。タロウ様。このご恩は絶対に忘れません。」

「まだですよ。アンネさん。ウィリアムを見つけていない。」

「ウィリアム!あの子は生きていますよね?」

ギルド長も、アンネも答えることはできなかった。


「まだ分かりません。しかし、戦果を挙げているという噂は流れてきます。」

アンドリューは苦し紛れに答える。

「そうですか・・・」


リナは目に見えるほど、落胆する。

「ひとまず、リナを信頼できる場所に預ける予定だ。それから情報収集を行ってウィリアムの救出を試みる。」

「そんなことが可能なのか・・・いや、君にならできるのかもしれないな・・・」

アンドリューは何かを納得するようにうなづく


「ところで、信頼できる場所とはどこだ?王国内にそんな場所はあるのか?」


「私の実家よ。」

クララが前に出る。

「なるほど・・・確かにあなたの実家ならば現政権の方針に一歩違う立場にありましたね。」

「ただ偏屈なオヤジなだけよ。」

クララは、感想を述べる。


「それでも、真向から意見を述べるのは勇気が必要なこと。そしてその意見を貫くのは実力がなければできないことです。」

クララは何も答えず、魔導四輪の方へ歩いて行った。


「それでは我々は、もう行きます。アンネさんもいいですね。」

リナは不安な表情をしている。

「そんな顔をしないでください。私はもうあなただけを旅立たせたりはしないから。」

「え?」


「リナ、俺はアンネさんに、手紙を残したんだ。街を捨てる覚悟があるかっていうね。」

「アンネ、あなた・・・」

「あなたのお母さんからあなたたちに使え、あなたは私にとっても娘みたいなもの。娘が命の危機だというのに、助けにいけないなんて、私の誓いはそれを許さないわ。」

「アンネ、ありがとう。本当にありがとう。」


「私は、街に戻ります。私にはあの街のギルドを守る義務がある。それにあなたのお父さんから腹違いとは言え、兄弟を助けるように仰せつかっていますから。彼なりに頑張っているのですよ。」

「アンドリューさん。後のことはよろしくお願いいたします。本来、街を守る立場でありながら、逃げるしかないこの身をお許しください。」

「命あっての責務です。今は逃げて生きるのです。あなたは才能にあふれる方だ。生きていればいづれ、その力を振るうときが来るでしょう。それまで耐えるのです。」


アンドリューに見送られながら、俺たちはクララの実家に向けて、走り出した。

この魔導四輪の力があれば、1週間もしないうちにたどり着くだろう。


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