【幕間】街と崖下
ベットの上に数少ない服が広がる。
次の日からいろいろ気にしてみるけど、正直よくわからない。
結局、いつも通りの格好で出かけてしまう。
街に出ると、魔獣の話でもちきりだった。街の中にいる魔獣なんて聞いたことない。
帝国から兵隊も来るみたいだし、心配せずとも、じきに討伐されるだろう。
今日も商団の手伝いをする。販売を外されてから荷物の警護か、荷物持ちのどちらかだった。
ほとんどが店の前に立って、警戒している。
夕方になって、子供たちが帰ってきてないらしい。
たくっあいつら、どこほっつき歩いているんだ。私たちは手分けして子供たちを探すことになった。
街中を探し回る。どんどん日が落ち暗くなっていく。
まだ見つからない。私たちは段々、焦ってくる。
なぜか、帝国から来た兵団も出回っている。
タロウもいなくなった。
団長は暗くなっていることより、集団行動をとるように命じた。
「ほかに探している団員を見つけたら同じように集団に含めてくれ。」
私たちは副団長と他数人で行動した。
街の中にある未開発の林の前を通りがかった時だった。
なぜか兵隊も目の前からやってくる
「おねーーちゃーーん」
あの子たちの声だ。林の近くにいる。
「お前ら、どこに行ってたんだ!心配したんだぞ。」
「ごめんなさい。でもあっちに大きいおサルがいてお兄ちゃんが!」
悪寒が走る。
「落ち着け!何があった。」
「あっちにおサルさんの魔獣がいたの!タロウおにいちゃんが戦ってる。」
私はそれを聞いて駆け出した。
後ろから副団長が一人で行くなとか言って追ってくるがまってられない。
その時、林の奥から轟音が響く。
私は急いだ。こんなにも心臓の音が聞こえたのはいつぶりだろう。何も考えられないまま、とにかく走った。後ろから副団長や、兵隊も走ってくる。
見つけたのは倒れたタロウと大きいサルだった。
「タロウ!しっかりしろ。おい!タロウ。」
「うぅ」
良かった。出血はひどいが反応はある。
これならまだ助かる。
兵隊の中に回復の魔石を使える者がいた。おかげでタロウは救急措置を施してもらえた。
私は安堵からか、体の力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。
副団長が隣に立つ。
「天才騎士さまも、形無しだな。」
「どういう意味?」
「いや、特には意味はねえよ。しっかし魔獣を一人で倒すとはね。」
私は立ち上がり、魔獣に目を向ける。明らかに強そうな見た目をしている。
こいつを一人で!?タロウが!?
後の処理を副団長に任せて私はタロウを宿舎に連れて行った。
数日後、タロウが復活し活動できるようになった。
この時からタロウは率先して戦闘の場に出てくるようになった。
確かに、ものすごい戦闘能力であることは認めよう。
だけど足りない。
強いだけでは、一瞬で倒せるだけでは、アイツは戦う者の狡さを知らない。
でも、どうやって教えたらいいかわからない。
悩んであいつの事を見ていると、怒ってるの?だと。
お前のためにこっちは悩んでいるのに、思わず強く当たってしまった。
最近はこんなことばかりだ。
山岳地帯を上っている。
荷台が重く団全体の動きが遅い、私たちは全員で荷台を押していく。
雨が降りそうだ。
ここは皆で四の五の言わずに、急ぐ。早くこの崖を抜けないと危険だ。
しかし、人のそんな事情など関係ないという風に無情にも雨が降り出した。
なるべく私物が濡れてほしくないから、ほとんどの荷物を荷台において、ずぶ濡れになりながら荷台を押す。
団長の話だと、もう少し進んだ場所に開けた場所があってそこで休憩と暖をとるそうだ。
もう少しの辛抱だと思って力を入れなおして強く踏み込んだ。
なのに力が抜けていく、視界がみんなとずれていく、あぁそうか、私、死ぬのか。
タロウが必死な形相で私を追ってくる。
止めろ。そんなことするな。せっかく助かった命なのに!
なのにタロウは私を助けるために崖を飛び出した。
私とタロウは落ち始める。
くそっ!どうにかする方法は無いのか。
隣から爆音が聞こえる。なんだこれ?光の線?
見たことない物だ。私はタロウに抱えられながらゆっくりと降りていった。
タロウはかなり無理をしているのが分かった。額には大粒の汗をかきながら、頭が痛いのだろう、片目をつぶって耐えている。
着地すると、タロウが魔石を持っていた手を抑えている。魔石はボロボロに崩れていた。
「タロウ!大丈夫か?」
タロウは大丈夫と言っているがそうは見えない、明らかに手は真っ赤にはれ上がっていた。
とりあえず団長たちと連絡を取ることはできた。
ここから少し進んだところで落ち合えるらしい。
私たちはこのまま進むことになったが雨脚が強く、たまたま見つけた岩の隙間でしばらく過ごすことになった。
さ、寒い。
流石にずぶ濡れのままじゃ、体が冷える。どうにかして温まらないと、えーと温まる、温まる、くっつくとか?この濡れた体で!?
私は何を考えているんだ。
さっき落ちてくるとき、どこかに頭をぶつけたか?
「おいタロウなんか温めれるもの持ってないか?」
「持ってないよ。そっちもなんかない? 持ち物出し合おう。」
タロウの提案に私は持ち物を出した。大した物は持ってなかった。
「見事になにもないなぁ」
私は肩を落とした。
どうしようか、そう思い外を見ると、以前団長に教えてもらった、濡れていても燃やせる木というものを見つけた。
でもあれだけあっても火種が無ければ、火をつけられない。
洞窟の奥・・・といっても全く深くないが、落ち葉と細い木があるだけだ。
あれじゃあ着火は難しい。火の魔石も荷台に置いてきてしまった。どうしようか。
そんな時
「種火は作れるけど燃料がないな、木々も濡れてるし」
とタロウがつぶやいた。
「ちょっと待て、種火は作れるってどうやって作るってんだよ。」
「ああ それなら雷の魔術と、その鉛筆を使えばできるよ。」
どうせできないだろうと軽くやり取りをすると、タロウのやつ、本当に火をつけやがった。
何とかして炎を大きくする。
良かった。これで暖をとれる。
私はいつもの感覚で濡れた服を脱ぎ、タロウにも乾かすように促した。
脱いだ後、タロウが見ていることに気づいて恥ずかしくなった。
でも濡れたままでは、危険だ。しょうがないからタロウに背中を向けて座り込んだ。
幸いにもタロウも反対側を見て座ってくれている。
沈黙の時間が続く。結構気まずい。
ダメだ。話すことなんて思いつかない。私は、最近ずっと気になっていたことをタロウに聞いた。
「タロウは魔術を手にしてどういう気分になった?」