禁忌の森3
タロウさんは掲げていた杖を下ろす・
「はい、お久しぶりです。・・・とそんなことよりもお願いしたいことがあります。この者たちの治療をお願いしたいのです。このままでは・・・」
「了解した。」
よくよく見るとけが人が多いな・・・
俺はいつもの杖を再度掲げる。
そして、埋め込まれた回復の魔石に触れ、そして、触れている手の内側に特殊な文様をイメージする。
文様は周囲の魔素を集め、魔石を通し、そして高出力な光となって傷ついた者たちを包み込んだ。
しばらくして光は消え、洞穴の中に静寂が訪れる。
衰弱していた者たちの状態は安定し、切断から腕から流れるにじんだ血は止まった。
「現状でできることはこのぐらいです。ひとまず簡単に話し合いを。」
俺はそう言って洞穴の空気を固定し、火の魔石を利用して一気に温める。
「すごい・・・私はとてもうれしいです。またあなたに会えて。ああ、あきらめないでよかった。」
リナさんは目に涙を浮かべ、ゆっくりと歩きながら近づいてくる。
しかし疲労からか足をもつれさせ、転んでしまう。
地面に倒れこむ寸前に受け止めることができた。
彼女の体は非常に冷えていた。
急いで、温める力を強める。
「タロウ、のんきに温めている場合ではありませんよ。王国兵に追われたままなのです。急いでこの森を脱出しなくては。」
「そうだな。リナさん。今から移動になるがいいか?」
リナさんが返事をしようとしたところで遮って会話に入る者がいる。
「ちょっと待ってくれ。私たちは街に戻れないのだ。どこへ行こうというのか?」
片腕がない女騎士が聞いてくる。あとで分かったことだが、彼女はアイラというらしい。
専属でリナさんの護衛を担当しているとのことだ。
「それは、・・・帝国とか?」
「ふざけるな! 我々は王国の人間だぞ。帝国には入れぬ。お嬢様やはり、コヤツの事を信用できませぬ。」
「しかし、・・・このままでは全員凍死してしまいます。」
「それは」
答えがでない。
「だったら、とりあえず私の家に行く?」
クララが謎の提案をする。
「あなたは・・・! どうしてこんなところに」
「それはこっちのセリフよ。といっても、あなたには理由があったわね。・・・元気になったのね。」
「ええ、タロウ様のおかげです。」
「おい、どういうことだ?二人は知り合いだったのか?」
「知り合いも何も、彼女は私と同い年で、小さい頃は王宮で何度かあったことがあるのよ。」
「クララ、貴族だったのか!?」
「タロウ様、知らなかったのですか?クララさんは王国で昔からの大貴族ですよ。」
「知らなかったのはタロウ、アンタだけよ。それから言ってなかったけど、アレクも元貴族よ。」
「没落ですけどね。」
俺は開いた口が閉まらなかった。
あいつらが貴族!?
まさか、ケニーも!
「自分は一般人です。クララのところで召使いやってたっす。」
そういえばそうだった。
俺が驚いているうちに、ケガをした兵士たちをクララやリナさんたちが、率先して魔導四輪につながれた荷台へ収容していく。
俺が驚きから戻って来た頃には全員の収容が終わっていた。
「タロウ、こちらに空気の膜を張って」
クララに言われ、魔導四輪の周囲に空気の幕を張る。
すぐに走り出す。
「色々聞きたいことがあるけど、まずは安全を確保できる場所に移動する。いいな。」
リナさんに確認すると、無言でうなづいてくれた。
運転自体はここまで来たときと同じように、クララが運転し、俺が警戒する。
帰り道は何事もなく、ということはなかった。
リナさんを追っているのは俺たちだけではない。
禁忌の森を出たところであっさりと、あまりにもあっさりと王国兵に取り囲まれてしまった。
「そこの者とまれ!」
完全武装の兵士が叫び、武器を構える。
魔導四輪は急ブレーキをかけ停止した。
クララとケニーはどこから取り出したのか、いつの間にか仮面を取り付けていた。
リナさんをはじめとする騎士たちは布を頭からかぶり体を覆っている。
結局、王国兵と目があったのは俺とアレクだった。
「いやはや、困りますな。こんな大物が出てきているとは・・・現代唯一といっていい、魔法使い殿。」
「何かようか?」
アレクが、率先して前に出る。
アレクと視線を交わし、戦闘の準備をする。
今度は殺さぬよう、最初から電撃だ。
集中を始める。
「そうですね。あなたの後ろの方々を引き渡していただければ、我々としては満足なんでがねぇ~」
「それはできない。貴様たちのような野蛮な者どもに引き渡せるか!」
アレクは高らかに宣言する。
「野蛮とは言いようですね。あなただって元は同じ国の人間ではありませんか。ねぇ、アレク・パスカル。王国の古より住いし貴族よ。といっても今はあなたを残すのみとなりましたな。」
アレクの顔がひどく歪む。
アレクはかなり有名な貴族のようだ。
「もう捨てた名です。あのような不気味な兵器を操る者どもと一緒にされては困る。」
「不気味とは失礼な、この魔石は革命的な発明ですぞ。なんといってもほぼ無限に強力な魔石を利用できる。これを革命といわず、なんという。」
そういって偉そうにしゃべっていたヤツはとても大きな魔石を取り出した。
例の人の一部を使った魔石だ。
「お前・・・」
思わず、うなり声のような声が漏れる。
「? ああ、そうでしたな。申し遅れましたタロウ殿。私は、バビロニア・ノイマン。これでも貴族なのですぞ。王国では、魔石に関する研究をしていましてな。この魔石を開発いたしました。」
「お前が!こんなものを!」
「こんなものとは言いますが、こちらを開発できたのはあなたのおかげでもあるのですぞ。」
突如としてもたらされた、その言葉が全く理解できなかった。