禁忌の森2
俺は確信した。
「クララ、ありがとう。どうやら正解を引いたようだ。」
「うふふん。そうでしょ!やっぱり大事なのは。発想力よね!」
たいそう誇らしげにしているクララは置いておいて、足跡の方向へと向かっていく。
がけの割れ目にできた狭い洞穴。
いつ崩れるかわからない。
そんな洞穴で数人のケガを負った兵士と一人の少女が震えていた。
特徴があるとすれば全員女性なくらいだ。
食糧も残りわずか。
ケガの治療もまともにできない。
かなり絶望的な状況だ。
それでもあきらめていなかった。もうあきらめないと決めたから。
幸いにも誰も死んではいない。しかし今にも死にそうな兵士や、先の見えない逃亡生活に心が折れそうになっていた。
せっかく親身になってくれて仲良くなれたのに・・・
自分の体質のせいで、私は魔石を使うことができない。
兵士の中には魔石を十分に使うことができる者もいるが、大けがに対する回復や、大規模な暖を取る作業はできなかった。
どうしよう、私のせいでみんなが死んでしまう。
それなら、私が王国兵につかまってしまえば・・・でもきっと生きられない。
何があるのか全く分からないけど、生きられないのは確か。きっとお父様ももう・・・
良くて兵士の忌み者ね・・・細い私に価値があるかわからないけど。
あまりの絶望的な状態に普段はしない自虐をしてしまう。
ああ、どうして私ばかりこんな目に会うんだろう。
せっかく魔石化から解放されて、自由を手に入れたと思ったのに・・・
こんなことなら、あの時助からなければ・・・あの時静かに死んでいれば、今苦しまなかったかもしれないのに。
全く、あの人は戦争に巻き込まれず元気にしているかしら。
最後にもう一度会いたかったな・・・
私は回復の魔石を手に取る。
この魔石も亜獣との戦闘で落としてしまったせいで、これしか残っていない。
これを私が使う。
そうすれば、兵士たちの傷がいえる。
ここまで頑張ってくれた屈強な兵士たちだ。
傷さえ癒えれば自力でこの森を抜けられるだろう。失った足や片腕は戻ってこないけど、生きていける。
もちろん私がこの魔石を使えば、私は再び魔石に覆いつくされるだろう。
その結果どうなるかわからない。
魔石を持つ手が震える。
もしも奇跡があるのであれば、私が魔石に覆われても、もう一度あの人が助けてくれる。
そうだ魔石を使うならば、いっそのこと思いっきり使おう。私はもともと魔石は得意なのだ。
天才の弟に負けないくらいに。
魔石から視線を開けると片腕を失った一番親身になってくれていた兵士が、声の出ない口をパクパクと動かして私の行動を止めようとしてくる。
きっと私がしようとしていることに感づいたんだ。
全く、そんなになるまで傷ついて、お母様に怒られてしまいますわ。
魔石を使おうとしたその時、
「敵襲!」
決して大きくない声で、されどしっかりと聞こえる声が洞穴の中に響く。
こんな時に、亜獣か、それとも王国兵か、どちらにしろ早く兵士たちを回復させないと。
しかしそれはできなかった。
いや、やる必要がなかった。
「魔石を使ってはいけない。」
ずっと聞きたかった声を聴けたから。突風が吹くと同時に目の前に、ずっと会いたかった人に会えたから。
足跡を追って見えてきた洞穴を見つけた時、風の魔術を使って洞穴の中に飛び込んでしまった。
魔石を使ってはいけない人が、魔石を使おうとしていたから。
手に持っていた魔石に手を重ね、その発動を食い止める。そして回復の魔石を奪い去る。
その時、後ろから片腕の剣士が斬りかかろうとしてきた。
だが、その剣をアレクが受け止める。
「タロウ!何をやっているのですか。いきなり飛び込むなんて死にたいんですか。」
「すまん!ちょっと急ぎたいことがあって、全員止まってくれ。俺たちはアンタたちを助けに来た!」
俺の言葉にリナさんの前に展開した女性の兵士たちが一瞬たじろぐが、すぐに目に闘志が宿る。
「そんな言葉にだまされるか!」
まあ、当然の反応だろう。
兵士たちをよく見ると全員がケガを負っており、片腕がない者、足がない者、彼女達の後ろにはもっと大けがをしたものが控えている。
リナさんは少し痩せているが、元気そうだ。あれから魔石化は発生していないようだな。
俺はかぶっていたフードをとり前へ出る。
「俺だ。リナさん。魔石化の診療を行った。タロウだ。」
「黙れ!」
ダメだ。兵士達が、全く聞く耳を持たない。しょうがない。
やりたくはないが、全員一度、昏倒させて、それから連れ出すか。
遅れて完全武装のクララとケニーも洞穴に入ってくる。
「ちょっとちょっと、これはどういうこと!?なんで交戦状態になってるの。」
「ち、また敵が増えた。」
相手の兵士たちは俺たちの事を完全に敵だと認識している。
やっぱり一度全員気絶させるしかない。
俺が魔術を発動しようとしたその時、
「全員、武器を下ろしなさい。」
その細い体のどこから出た声なのか。
確かな圧力を感じ、その場にいた者たちの動きを止める。そして次第に武器が下がった。
「よろしいのですか。リナお嬢様?」
「ええ、私のためにありがとう。でも問題ありません。彼が・・・彼こそが私の魔石病を治療した魔術師タロウです。」
その言葉にリナさんを取り囲んでいた兵士たちの顔がこちらを向く。何人かはにらみが効いておりちょっと怖い。
「お久しぶりですね。リナさん。」




