禁忌の森1
クララの掛け声とともに一行は禁忌の森へ出発した。
構成はいつも通り、クララが運転し、隣ではケニーが道案内と周囲の目視を行う。後ろの荷台では俺が探査魔術を利用し、アレクが急襲に備える。
さらに荷台は降雪地帯を越えられるように、屋根を付け、ソリも搭載し、さらに数台に分け荷台一つ当たりの重量を下げる。
その分、縦に長くなり、まるで蛇のようだ。
禁忌の森。
それは王国に伝わる伝説の地。
永久凍土で、一年を通して寒冷である。夏に向かっている現在も降雪しており、そして伝説級の魔獣が住むといわれている。
逃げるにはうってつけの場所だけど、追っていくには過酷な場所だ。
ギルドより仕入れた情報によると、王国兵が再びやってきていて、周辺の調査を行っているらしい。
確実にリナさんを捜索している。
急がないと。
ほどなくして降雪地帯に入る。もともと低かった気温がさらに下がり、吹き抜ける風が痛みを伴う。
「う~寒い。こう寒いとスピードを出せないわ。」
いくら自動車に似ているとは言え、隙間だらけの車体だ。様々なところから外気が入ってくるうえに、暖房装置はない。
厚着をしているが、効果は薄い。
俺は風の魔術を発動する。
さらに精度を上げ、風の膜を作り、自分たちを取り囲むように操作する。
「あら、なんだか暖かくなってきたわ。タロウの仕業ね。」
どうやらうまくいったようだ。自分たちだけを空気で取り囲み。風が入ってこれないようにする。
これだけでかなり暖かくなる。ケニーやアレクが火の魔石を発動し、風の幕の中を温めていく。
彼らは魔石の扱いがうまいわけではないが、小さい空間を温める程度ならば造作もない。
何とか体力を維持しながら進んでいた。
こんな環境の中リナさんは大丈夫だろうか?
深い雪と針葉樹林に囲まれた中を、いつもよりは、かなり遅い速度で魔導四輪は進んでいた。
森の中は人の手が全く入っていないのか、道は整備されておらず、また亜獣も多い。
この道のせいで進みが悪かった。
とはいっても急いだところで、道を選ばなければタイヤが埋まってしまう。手間をかけて選んだ方が歩くよりは早い。
「タロウ、禁忌の森に入ることはできましたが、当てはあるのですか?」
「ああ、こんな森のどこともつかない場所に逃げるわけには行かない。過去の勇者の功績を調べていると、伝説級の魔獣が存在するときには、遺跡や居住地が存在したんだ。」
書籍の端っこに少量書かれているだけで、よく見ないとわからない。
リナさんがこの事実を知っているかどうかは正直賭けだ。
「今から向かっている場所も、その遺跡があった場所ですか?」
「そうだ。古い地図にはもう少し行ったところに、あるみたいなんだけど・・・あったあれだ。」
森の中には不自然な、石の塊があった。
元は祭壇だったらしいが、今は崩れてただの石の塊になっている。
魔導四輪を降りて周囲を捜索する。
祭壇の周辺だけ、森が切り開かれており、広くなっているが、隠れれそうな場所はない。祭壇も完全に崩れており、全く隠れられる場所がない。
「タロウ、正直、当てが外れていないでしょうか?」
「そうだな・・・ここにはいないようだ。もう少し調査をさせてくれ。」
辺りを手分けし調査する。
といっても雪が一面に降り積もっており、特徴がない。地図を開き特徴を探す。
この先には高めのがけがあるだけで変わったものはない。
「アレクなら、崩れた祭壇を見つけて、その先どうする?」
「目的は逃亡です。逃げ隠れできる場所を探しに行きます。つまりここではないどこかです。この先のがけとかどうです?どこかに穴が空いてるかもしれませんよ。」
「どこに?」
「それはわかりません。端から探せばいつかは見つかるかもしれません。」
コイツに聞いたのが間違いだった。コイツは基本的に脳筋だ。
どうしよう。完全にお手上げだ。
「タロウ見て!」
クララは元祭壇の近くで、とあるものを見つけた。
それは亜獣の死骸だった。
「ここで戦闘があったみたい。でも結構前だよ。ここから何かわからないかな?」
何かといっても、あるのは時間が経った死骸と、戦闘で使われた魔石がころがっているくらいだ。
落ちている魔石を手に取ってみると、使い終わってボロボロになった火の魔石と相当焦っていたのか、まだ使える回復の魔石を落としてしまっている。
かなり過酷な状況のようだ。
「タロウ、アンタなら魔石の使用履歴からどこ行ったかわかんないの?」
クララがかなりの、無茶ぶりを言ってくれる。
そんなことやったことはない。
最近、周囲の魔素を感じられるようになったから、分かったことだけど、周囲の魔素というのはランダムに存在して、何かを感じられるような物ではない。
たとえるなら霧が発生しているようなものだ。
よくよく感じてみると、ここは街中よりも濃い魔素濃度のように感じる。まるで、水の中にいるみたいだ。
考えていると、クララの視線が痛い。何かやれという視線をしている。
物は試しに周囲の魔素を感じてみる。
やはり、空気中の魔素濃度は非常に濃い。正直何が何だかわからない。
これは無理そうだな。
そう思って視線を下げると、かすかに、だが認識できる程度には複数の足跡が残っていた。まるで雪を踏みしめたようであるが、雪についた足跡ではない。
きれいな地面についた魔素でできた足跡である。
この世のすべての物は魔素を持つ。それは当然地面の土にだって存在する。ここは人も生物もほとんど存在しない極限の森。
一度ついた足跡はなかなか消えない。それが残っているのだ。
その足跡は複数あり、ある方向に延びていた。がけの方向である。




