エントシⅡ-1
次の日、朝早くから軍部に移動することを伝えると、すんなりと許された。
女帝の勅命は基本的に何でもOKらしい。
すごいな、この勅命は・・・
なんにせよ。
移動する準備はできた。その日うちに移動を開始する。
エントシまでは陸路が続いているため、魔導四輪があれば、すぐにたどり着けるだろう。
魔導四輪をうならせ、走らせる。
山越えと変わり、車輪が高速回転して平野をかけていく。景色がどんどんと移り変わる。
山越え時は後ろからついてくる馬車に合わせてスピードを落としていたが、コイツは本来これぐらいのスピードが出るのだ。
さらにこれはエマさんが改良を加えたモデル。
より速く走れる。
ちなみに運転主はクララだ。
魔導三輪の時もそうだが、クララは運転が好きなようだ。
実に楽しそう。
俺は隣で探査魔術を発動し続けている。
アレクは荷台で、楽にしており、ケニーは揺れの大きい荷台で不安そうだ。
2~3日もたったころ、順調にエントシにたどり着いた。
エントシは、以前来た時よりも、見るからに荒廃しており、活気がない。
一体どうしたというのだろう?
たしかに落ち目ではあったが、こんなにも急激に落ちぶれるものだろうか?
「おかしいですね。こんなにも静かではなかった記憶ですが・・・」
アレクも異変を感じているようだ。
「念のため、魔導四輪を隠してきて良かった。こんなに様子がおかしいと思わなかったよ。」
俺たちは目立つような物は街の外に隠してきた。
どうやら正解だったようだ。こんなさびれた街に魔導四輪なんて、目だって仕方ないだろう。
「みんな、とりあえずギルドに行こう。あそこのギルド長ならば何かを知ってるかもしれない。」
みんなの了解を得て、ギルドへと向かう。
ギルドに入ると、にぎわっているとは言えないが、人が多くなっているように感じる。
アレクがギルド長に会いたいと言うと、今は出払っているから、少し待てば合えるとのことだ。
焦っても仕方ないので、少し待つことにする。
やることもないので、それぞれ街へ繰り出し現地調査を行う。
街の中も、以前より荒廃しており、活気がない。
これも戦争の影響なのだろうか。ここは戦地から遠いのに・・・
試しに外で飲んでいるやつらに話を聞いてみる。
こんな昼間から、そこそこ飲んでいるようで顔が赤い。
「すまない、少し話を聞いてもいいかな。」
男と視線が合うと、思いっきり睨まれる。こういう時はこれだ。
先ほど買っておいた酒を渡す。
「へっ話がわかるじゃねえか。あんたここらじゃ見ない顔だな。」
「旅をしていてね。この街について、少し聞いてもいいかな?」
「こんな時代に旅ねぇ。変わり者もいたものだ。何もないよこの街は最近領主が変わってから更にひどい。」
「領主が変わった?どいうことだ?」
「どうもこうもない。戦争のことで先代領主が王都に行ったまま、帰ってこないんだとよ。」
「戦地に行って負傷したのか?」
「知らねぇよ。何故か帰ってこないんだよ。」
「そういえば、子供たちがいたはずだ。あの子達はどうなった。」
「なんだ熱心に聞く兄ちゃんだな・・・子供だったか。いたなそんなやつも、数か月前は外に出ていた気がするけど、またすぐにいなくなったな。今は一番の長男が領主になっていたはずだな・・・」
子供たちはどこかに行き、そして先代領主は帰ってこない。一体何が起こっているんだ?
全く全貌がつかめない。
直接話を聞きたいところだけど、仮にも貴族。正面から城に行ったところで突っぱねられる
また侵入してみるか!?
様子を見てリナさんだけでも話をしたいところだ。何とか王国の研究から逃がしたい。
ある程度時間をつぶせたことで、ギルド長との会談の時間が来た。
目の前にはかなりやつれたギルド長のアンドリューがいる。だけど、その目はしっかりと俺たちをとらえていた。
「お疲れですね。今日はどんな会議だったのですか?」
「今日は新しい領主との会合でした。ここ最近、冒険者になる方が多くてですね。このままでは街の産業を担う者がいなくなってしまうので、どうにか対策を考えていただけないかと話し合っていたところです。中々いい案が出なくてですね。」
話の導入に吹っ掛けただけなのに、予想以上に内情を話してくれる。
「ちょうど、そのことについて聞きたかったのですよ。以前来た時から明らかに荒廃している。何が合ったのですか?」
「あなたたちならば・・・話してもいいか。ある時、王国から使節団がやってきたのです。この町で魔石病にかかっているものがいると。」
魔石病!?やはり何らかのかかわりがあるのか?
「この町には魔石病に罹患した人はいなかったはずです。」
「その通りです。この町には患者はいない。にも関わらず使節団は適当な村人を治療を行うという名目で連れ去ったのです。その者はまだ帰ってきません。しばらくして、また使節団の方がやってきたのです。今度は領主の元へ向かい何かを話していました。おそらく魔石病のことと考えられます。」
王国の誰かが気付いたんだ。リナさんの体質に・・・
「それから突然のことです。領主は王に直接会って直訴を行うと私に言い残して王都へ向かわれました。何かあったら子供たちと街を頼むと言い残して。」
「王への直訴というのは、・・・あまり。」
「ええ、大変に危険な行為です。明らかな謀反になります。おそらく、領主様はもう・・・それから一番の長男であるデールが街の領主を引き継ぎました。
我々も言伝通り、サポートをしていますが、何分あまりにも未経験でして、立ち行かぬ事ばかりなのです。」
「子供たちは三人いたはずだ。あの中には優秀な子もいたはずだ。」
アンドリューは言いずらそうにしている。
「ウィリアムはデールの命令により、戦闘地域へと赴きました。消息は分かってはいません。それらしい噂を聞きましたので、おそらく生きているものと考えられます。リナの方は・・・わかりません。ちょうど直訴へ行くと行った日から私は行方をつかめていません。」
! 不味いな、これでは何処にいるか分からない。
事態は差し迫っているのにどうしたら・・・いやもう城に乗り込むしかないな。




