山の戦地4
夜遅くテントの中、今日一日にあったことが頭の中を駆け回る。
初めて人の命を奪ったこと。
人の腕にまとわりついた異様な魔石
どれもこれも受け入れられない。
結局、眠ることなんてできずテントを出た。
外ではケニーが夜の警備をしていた。
「寝られないすっか?」
「ああ、昼間のことが気になりすぎてね。」
「魔石のことすっか?それとも・・・人を殺したことっすか?」
ケニーに指摘され、体に力が入る。
「ああ、そうだ。戦闘の結果とは言え、俺は人を殺した。」
「自分もすごく悩んだし迷ったっす。」
「ケニーも経験があるのか?」
「クララが強姦されそうになったっす。我を忘れて攻撃したっす。力加減できなくて殺してしまったっす。」
しれっとすごい話が出てきた。
「それは・・・よくわからないけど、仕方なかったと思う。」
「そうっす。仕方なかったと思うしかないっす。タロウのことも仕方ないっす。」
「でも何かできたんじゃないかって殺さずに済んだ方法があるんじゃないかって、そう思わずにはいられないよ。」
「今思いついてない時点で、何もできないっす。自分はタロウほど優秀じゃないっすけど、それはわかるっす。」
「・・・」
意外ということは言うな・・・だけど指摘通りだ。
「何かできることがあるとすれば、自分の実力を上げて、圧倒的な力で昏倒させるしかないか。」
「そうっす。タロウならできるっす。自分たちとは、頭のできが根本的に違うっす。」
「そうか・・・。なんかありがとう。」
シンプルな励ましだったのに、すごく心が晴れた気がした。アレクといい、ケニーといい、励ましがうまいな。
「元気出たっすか?良かったっす。じゃ、あとはよろしく頼んだっす。」
「なにが?」
「もちろん、夜の登板っす。」
この時、少しでも寝ておけばよかったと後悔した。
次の日、魔導四輪の運転をクララに代わってもらい、すっかり気が晴れた俺は荷台に移った。
王国兵が持っていた魔石を観察するためだ。
正直、こんなグロテスクな物、全く気乗りしないが、調査しないわけにいかない。
まわりの冒険者や、帝国兵は俺の行動に完全に引いているが、人の目は気にしていられなかった。
外見をスケッチして姿を映したら、次は魔石を腕ごと輪切りにしていく。
中の腕は全く魔石化していない。生身の腕だ。
本当に魔石病になった人の腕なのか?
体を魔石化した人は色々な状況で、色々なパターンを見てきたが、どれともあてはまらない。
何よりも体を覆いつくすほどの魔石化なんて聞いたことない。
一番近い症状で、ここ王国で出会った、リナさん
彼女の症状に最も近い。
しかし、彼女の症状は体質からくるもので、同じ症状の人間がそんなに多く存在するとは思えない。
アカウ村の時のように魔獣の体液を使って魔石化する方法はあるが、そんな魔獣が二体もいるとは考えにくい。そもそも、魔獣の発生原因はわかっていないのだ。
それにしても、とてもひどいことをする。人の心はないのか?
集中して、調査をしているうちに、目指していた戦闘地域にたどり着く。
女帝から預かった書簡を現場指揮官に渡すと早速、帝国兵に案内されて、簡易倉庫へと案内された。
倉庫にはいくつかのいびつな魔石が地面に並べられていた。
こんなにも人の一部だったものがある。
なんて残酷なんだ。正直、今すぐにでもこんな部屋から出たい。
湧き出る嫌悪感に耐え、一つ一つ観察していく。
やはり魔石病に似ているが、異常なほど体の部位を覆いつくしている。一体何なんだ。
試しにリナさんの治療を行った時のように魔石をはがしてみる。劣化して使い物にならない魔石を押し当て、魔素の移動を実行する。
変な魔石は色を失い、ボロボロとかけていった。
普通の魔石と何ら変わらないように感じる。
ならば使ってみるか!?
ほんの少しだけ、魔素を流す。
たったそれだけなのに、魔石は急激に温度が上昇し、にじむように火炎が噴き出す。
なんだこれは・・・全くコントロールができない。
強力だけど、危険すぎる。
王国は魔石研究が先行していると聞いていたけど、こんなことができるのか・・・
しかし、どこまで行っても、魔石の延長線上にあるものだ。
魔素の伝達を防げば、効果を無効化できる。
それをどうやるかだが・・・俺の場合は相手の魔石に近づくか、触れれば発動を無効化できる。
他の人たちが同じことをやるにはどうしたらいいだろうか・・・
悩んでいると、アレクに呼び出された。
「鹵獲した敵兵について、情報と引き換えに身柄の安全を交渉したそうです。・・・どうしたんですか、変な顔ですよ。」
「余計なお世話だ。こんなこともあるんだと思って。」
「単純な話です。死にたくない人はたくさんいます。様々な理由があってこの場にいるんです。」
「そうだな。それが普通だ。で本題はなんだ。」
「交換する情報を私たちも聞けることになりました。聞きますか?」
「もちろん聞く。あの巨大な魔石について何かわかればいいが・・・」
アレクについていき、鹵獲された敵兵の元を訪れると、すでに尋問が始まっていた。
敵兵は、自分が参加していた作戦や部隊規模、戦闘能力なんかを事細かに伝えていた。
正直、軍事面のことは俺にはなんのこっちゃわからない。
ちょっとだけ暇になる。
とらえられた敵兵を観察すると激しい、戦闘の後がうかがえる。
ボロボロの衣服に、治療されていない打撲や擦り傷の数々。
土気色の顔に、寒いのか少し震えている。
もう少しやってあげられることはないものか・・・
敵兵は右手で、左腕を抑えている?ような動作をして、何か苦しそうだ。
「おい、震えているぞ。気は確かか?」
尋問官も様子のおかしさに気づいたのか。体調を気に掛ける。
「・・たいんだ。」
「何?もう少し大きな声で話せ。」
「腕が・・・痛いんだ。今にもはじけ飛びそうだ。」
「情報のためだ。少しならば、治療もしよう。腕を出せ!」
尋問官の表情をうかがい恐る恐る、痛いという左腕を出す。
腕が露出したとき、その場にいた誰もが固唾をのみ、動けなかった。
彼の腕は魔石に侵されていたのだ。




