山の戦地3
冒険者たちはとらえた王国兵たちを並べていく。
王国兵たちは皆一様に黙り告っている。
「この者たちを連れて行くことはできない。このまま捨て置き、駐留地に赴いてからもう一度連れ出す。」
アーロンは全員に向かって宣言する。
可哀想だけど、物資の余裕がない中、敵兵を連れてはいけない。
幸いにも一日もしない場所に駐屯地はある。
少しの我慢だ。
それを聞いていたであろう王国兵は苦虫を潰したような表情になる。
「こんなところで・・・」
「ん?何か言ったか。」
アーロンが目ざとく反応しする。
「こんなところで、我らの祈りがついえるわけにはいかない!。」
突如叫びだした王国兵を太い炎の柱が包み込む。
同時に拘束していた縄も焼き切れる。横に並べられていた王国兵も炎が包み込む。あいつ仲間を・・・
そのまま王国兵は燃え続ける。
「お前!そんなことしたらお前自身が焼けちまうぞ。」
「敵の情けなど無用。しねええええええ。」
そういって燃え続ける王国兵たちは懐よりいびつな形の魔石を取り出す。
なんだ!?あの巨大な魔石は!
その魔石は、見たこともないほど大きく、また全く成形されていなかった。まるで鉱山から掘り出したそのもののようだ。
驚くべきことはそればかりではない。
その巨大な魔石から渦巻く炎が放たれたのだ。
俺はとっさに風の魔術を発動し、炎にぶつける。
最近大量の空気を操ることができるようになったというのに、全く同じ量の炎をぶつけられている。
「タロウ!何やっているんですか。押し返してください。」
「力が拮抗しているんだ。アレク、気をそらしてくれ!少し集中する。」
「了解しました。」
言うと同時に、敵の方へと駆け出していく。
即座に魔石を使う王国兵へと迫っていく。
魔石を使う王国兵はアレクに気づき、俺に放っていた炎の一部をアレクに向ける。
アレクはもともと攻撃する気はなかったので、回避に専念し、軽々と躱していく。
そして、俺自身に向けられる炎が弱まったことにより、一瞬だけでも余裕ができた。
魔術を発動する道具、そしてそれを持つ手の中に流れる魔素で、周囲の魔素を吸収できるように特殊な模様のイメージを固める。
やがて、魔道具周りに出ていた幾何学模様は消えてなくなり、そしてより強い風が発生する。
竜巻となった風は炎を押し返し、そして飲み込んでいく。
やがて跳ね返った炎は魔石を持っている王国兵に降りかかった。
嵐が収まり土煙が引けたころ、目の前では魔石を持っていた人が焼けていた。
やってしまった。
とうとう俺はやってしまった。人を・・・殺してしまった。
案外、一瞬だったな。
そう思ったとき、自分の超えてはいけない線を越えた気がして、全身に悪寒が走る。
焼けている人を見て震えている俺を見て、アレクが声をかける。
「タロウ、人を殺したのは初めてですか?」
「・・・初めて・・・だ。」
「そうですか。慣れろとは、言いませんが受け入れてください。それから貴方は今、女帝から依頼を受けた正式な傭兵です。戦闘の結果、敵兵に死者が出ても違法にはなりません。」
アレクが珍しく慰めの言葉をかけてくれる。
聞こえているのに、頭に入ってこない。
心のどこかが気持ち悪い。
「タロウ、ちょっときて!」
クララに呼ばれ、頭の中が混乱しながらもクララのもとへ行く。
クララが持っていたもの、それは敵兵が持っていたとてつもなく大きな魔石だ。
気になるが、今はじっくりと見る気になれなかった。
が、そんな気持ちを吹き飛ばすぐらいの衝撃を受ける。
魔石は通常の魔石のように見える。
しかし、その魔石の中に合ってはならないものがあった。
人の腕だ。これは・・・魔石病!?
それがどうして炎を出した!?魔石病で発生する魔石は何の効果も持たないはず。
大体どうして腕が埋もれるほど大きくなっている!?魔石病の魔石は大きく成りきる前に体力を奪われ亡くなってしまうはず。
そして、どうしてそんなものを持ち歩いているんだ。
底知れぬ恐怖が湧き出した泉のようにあふれ出る。
「やはりこやつも持っていたか。それが我ら帝国を脅かす謎の魔石だ。気持ち悪い。」
アーロンが吐き捨てるように話す。
これが俺たちの目指していた物?王国は一体何をしようしているのか?
クララから魔石を貰い受ける。
魔石は完全に人間の片腕を覆い尽くし、付け根で折られている。正直あまり見ていられるものではない。
でも見なければいけない。
これのせいで戦争が続いているというのだから。
戦闘後の処理を終えた集団はその場で野営をすることになった。




