山の戦地
そしてエマさんが研究所に復活してから3日が経過した。
エマさんは宣言通り、魔導四輪の調整を終了させた。
帝国の政府にも輸送部隊に加わる作戦を伝え、承認された。
帝国が勝利を納めた戦地へ補給を行うという名目で派兵することとなった。
その一団に参加する。
部隊はすぐに結成され、一週間もしないうちに出発することとなった。
移動開始の前日。
俺とアレクは魔導四輪と、それにつなげられた荷台に、荷物を詰め込んでいた。
それから、エマさんからアップグレードした魔導四輪の説明を、直々に受けていた。
「見てくださいタロウさん。バックミラーです。これで後ろが見放題です。車体が大きくなったので、こういったものも必須かと思いまして付け足してみました。」
「おお、確かに、これなら見放題ですね。」
バックミラーを見る。
どんどんと魔導四輪が見たことがある姿になっていく。
バックミラーを見ると、いつもの自分が写っている。
自分で言うのも変な話だが、これから戦いに行く人間とは思えないな。
「おーい、荷物もってきたよー。」
聞きなれた声とともに、クララとケニーが色々と荷物を持ってきた。
「なんであいつらが?」
俺の疑問にアレクが答える。
「私が呼びました。彼女らは王国出身です。いざというときに、あちらの国で融通が利きます。」
アレクの言葉に俺の素直な疑問が口にでる。
「アレクもだけど・・・王国出身だろ。その大丈夫なのか?王国と戦うってのは。」
「私の家は、すでに王国にはありません。思いではありますが、未練はありません。」
「私たちも大丈夫だよ。今回の戦争に私たちは関係ないから。」
「うっす。」
全員、あっさりと答える。
「そうか、大丈夫ならいいんだ。」
出発日当日。
一団は早朝から移動する。俺たち以外にも、色々な目的をもって多くのの冒険者も参加する。
帝国軍は数台の魔導四輪で構成されており、補給部隊に追加歩兵など様々な構成になっている。その後ろに馬車を引いて移動する冒険者達がいる。
隊を率いるのは・・・帝国城で俺が吹き飛ばした貴族だった。さすがに気まずい。
あっちもこちらに気づいて、ズカズカと効果音が出ていそうな歩き方で近づいてくる。
逃げ隠れできる場所もなく、すぐに目の前に来る。
「おい!そこのお前、今すぐに車を降りろ!」
「なんでしょうか?」
俺はなるべく、貴族を刺激しないように答える。
「貴様、前回の件について申し開きはあるか?」
「前回の件とは、何のことでしょうか?」
「女帝様の目の前で、魔法を使用した事だ。さらに私に対し魔法を放ち、吹き飛ばしたことも謝罪していただこう。」
「その件については、帝国政府よりおとがめなしと伝令を受けておりますが、何か問題がありますでしょうか。」
「うぬぬ・・・貴様っ・・・帝国政府の言い分など問題ではない。これは帝国の誇りの問題なのだ。帝国そのものである我ら貴族の顔を汚されたままでいられるか。」
どうしようか・・・頭を下げるだけで、問題が解決するならば頭を下げるが、そうもいかなそうだ。
相手が怒り過ぎている。頭を下げたところで、怒りは収まらないだろう。
その時、貴族の後ろから数人の兵士が、目の前で怒っている貴族を抑えるように向かってくる。
「アーロン様、お控えください。これから戦地に向かわれるのですよ。それにこちらの方は女帝様から勅命を受けております。女帝様の意向に背いてはいけません。」
「なぜ、こんな奴が!帝国はそこまで落ちぶれたのか!・・・」
アーロンと呼ばれた貴族は何かを叫びながら、お付きの兵士たちに連れていかれた。
何はともあれ、嵐は去ったようだ。
大きく息を吐き、自分の魔導四輪に戻る。
「何なのあいつ?」
黙って聞いていたクララが文句を言っている。
「彼はアーロン・アーサー。帝国の昔からいる貴族です。最近、先代当主が亡くなり、当主を引き継ぎました。優秀ですが、気の短さと経験の浅さが目立つと噂になっていました。あとは・・・かなり、保守的な考え方をしているということですかね。」
アレクが情報を伝えてくれてる。
「何処の国も貴族も生け好かないわね。」
アレクとケニーがクララを見る。
「何よ!」
「いいえ、何でも。」「うっす。」
ふたりともどうしたのだろうか?
出発時に一悶着あったものの、それ以降特に大きな問題はなく、順調に街道を進んでいく。
程なくして山道へと突入して行った。馬車がちょっと遅れ気味なくらいだ・・・
魔導四輪は急な坂道であろうと疲れ知らずに進んでいく。
これこそが帝国が戦況を有利に進めてきた要因だ。
魔導四輪を駆使した圧倒的な物資輸送。これにより戦闘のスピードと継戦力を変えている。王国はスピード感と物量に、全く持って対応できていなかった。
しかし、王国とて黙って見てはいられない。
次なる作戦を発動する。
それは奇襲攻撃である。
正面から戦っても勝てない。ならば正面から戦わなければいいだけなのだ。
帝国軍は王国兵の奇襲攻撃のあまりの多さに悩んでいた。
実際タロウたちも奇襲攻撃を受けていた。しかし、大事には至らない。
それはタロウの存在である。探査魔術に感知技術を組み合わせた前では、奇襲など全く意味を持たなかった。
隠れて構えている段階で、先行して発見し、戦力を展開できる。あまつさえ逆奇襲にすらなりうる。
さらに効果範囲が広がった放電攻撃により、戦闘になる間もなく、敵兵はしびれていったのである。
拘束された敵兵は近くの駐屯地に送られていった。




