帝国Ⅵ-11
「お話は終わりましたか?」
「すまない。ダニエル、待たせたか?」
「いえいえ、今日は時間があるので全く問題ありませんよ。それにしても隅におけませんねタロウさんは・・・」
「言うようになったじゃないか。調査はどうだ?」
「順調ですよ。というか、どうやってこんなものを思いついたのですか?熱効率が高くなっていますし、振動もだいぶ軽減されています。」
俺が魔導三輪に対し改造を行ってきた部分は、元の世界で習った知識やモノづくりの経験をもとにした物理的な部分だ。
魔石関連は何もいじっていない。
正直できることなんて、限られているから俺の実感からするとそんなに改造できた気はしない。
しかし、ダニエルからすると大改造が施されているのと変わらない。
俺は実物を示しながら、簡単に、しかしダニエルに気づきがあるように教えていく。
「すごいですね。世の中の何気ない事でも、よくよく考えてみると魔導四輪に利用できることであふれています。」
「驚いたか?」
「ええ、物理現象に対する基礎的な研究の重要性を実感します。同時に僕たちは何も知らないのかもしれません。」
俺はダニエルに驚いた。この世界の人々は、特に研究に携わる人ほど魔石中心の考え方をする。
しかしダニエルは魔石ではなく、自然現象そのものに興味を持っているのだ。いい意味で魔石にとらわれていない。
その後もダニエルの質問攻めが続く。いつぶりだろうか、こんな感じも懐かしい。
どっと疲れたころ、ちょうど日が暮れ始めた。
「そろそろ日も暮れ始めたから終わろう。送るよ。」
「え~、しょうがないですね。」
なんでお前が上からなんだ。
街までの帰り道。
ダニエルから魔導四輪を借りて運転の練習をする。
「タロウさん、タロウさんの噂はかねがね聞いています。雷の魔術とは一体どんな魔術なんですか?」
「・・・あのな、魔術というのは基本的に秘匿技術なんだぞ。簡単に言えるわけないだろ。」
「ええ、重々承知しています。だからこそ聞いているのです。黙ってみていてもわからないことが多い。ならば直接本人に聞くしかありません。それにタロウさんなら教えてくれると思っていました。。」
えらく自信満々だな?
「どうして、そう思うんだ?」
「タロウさんは僕と同じ、科学にしか興味がない人間だからです。」
ドーンという効果音がなっていそうなほど、はっきりと言う。
「なんだかんだと話しますが、結局は科学に対する知的興味のためで、他の事には興味を示さず建前です。だからこそ、知的興味を満たせる議論なら話してくれると思っていました。」
ひどい言われようである。
本来なら、思いっきり怒りたいところだけど、あまりにも清々しく意見を言うダニエルと、どこか心当たりのある、うしろめたさで何も言えなくなっていた。
このまま言い合っていてもダニエルは一歩も引きそうになかったので、簡単に話すことにした。
「はぁ~、雷の魔術は光の魔石を使っている。
俺のイメージでは雷ってのは光の粒のようなものが、無数に連なっているようなイメージで・・・って聞いてるのか?」
「タロウさんの話を聞いていると、光はボールのような物ととらえている様に聞こえます。でも僕にとって光は水のようなもののイメージです。ちょっと待ってください。」
そういってダニエルは自分の荷物をあさり始める。
突如、二本の切り込みが入った薄板を取り出した。
「見てください。太陽の光は二本のスリットを通ると水面の波のように波が干渉するんです。僕は光の正体は波のようなもので、ボールのような物ではないと思っていました。」
・・・鋭い。
と、同時に自分の考え方が、一部間違っていたことに気づいた。
また光と電気の要因である電子の関係性を、うっすらと思い出した。
光と電子が似たようなもので、魔石の中で単純な仕組みでエネルギーの受けわたしを行っていると思っていた。これが間違いだ。
俺は工学部出身で、物理学の詳細な部分は学んでいない。その部分がダニエルの指摘によってにじみ出た。
光の魔石を電球のような物とイメージしていた。
魔術の使用には詳細な物理知識が必要だと思っていたが、今までの経験かた一番に必要なものは明確なイメージだ。
魔術にとってイメージとは、知識というより、ソフトウェアに近いのかもしれない。
普段は気にすることがなかった、詳細な物理学を思い出そうと深い記憶の底を探る。
「・・・さん!タロウさん!、前!、マエ見て!」
ダニエルの叫び声を聞いて、全力でブレーキを踏む。あまり急激なブレーキに後輪が浮いた感じがした。
目の前は急なカーブで、壁がそり立っていた。
「もしかしてタロウさんって運転があまり得意ではないですか?」
「す、すまん考え事をしていて、ちゃんと運転に集中するよ。」
その後はダニエルに心配されながらもしっかりと送り届けた。




