帝国Ⅵ-8
短いです。
マリーさんを責めることはできない。
誰も責めることはできない。
こんな状態で、エマさんに会って何を話せばいいんだろう。
俺が彼女にかけられる言葉はあるのだろうか?
目の前にいるエマさんを思って泣いている人に言葉をかけることもできないのに。
「あなたは間違っていないと。僕は思います。」
そう声をかけたのは、静かに聞いていたダニエルだ。
俺はダニエルを見る。
ダニエルはしっかりとマリーさんに答える。
「僕も一連のやり取りをエマさんと一緒に見ていました。正直、何が正しいか、それはわかりません。でも帝国が帝国国民や戦場で戦う兵士を思って、強力な武器を与えるのは間違っていないと思います。それは道具として正しい形だと思います。同時にあなたが娘を思う気持ちもやっぱり正しいと思います。誰も間違ってはいないと思います。」
「その結果が、娘の失意につながってもか?」
マリーさんは何を知ったようなことをとでも言いたそうな表情でダニエルをにらむ。
「それは致し方ないことです。人類は世の中の理を何も理解していません。それと同じです。正しいと思って行動しても、その結果はわからない物です。だからこそ、人は学ぶのです。失敗して、そこから学び、新しい知識を得るのです。それと同じです。」
マリーさんはダニエルの言葉に圧倒されたのか、あきれたのか、わからないけれど、言葉をなくしていた。
やがて口を開く。
「ふん!小僧のくせになめた口を利くじゃないか。同じことをエマにも言ってみるといい。聞くかどうかはわからないがね。」
「大丈夫ですよ。エマさんは立派な研究者ですから。」
その一言を皮切りに俺たちはマリーさんの部屋を出る。
そして執事に案内されて、エマさんの部屋の前までやってきた。
さてなんて声をかけようか。
ここまできたものの、どうしたらいいか、妙案は思いつかない。
さっき威勢の良かったダニエルはどうだ?
ダニエルの方をちらっと見ると、全然ダメそうだった。
難しい顔をして、冷や汗をかいている。威勢の良さはどこへ行ったのか、いざ目の前にすると何を言えばいいか分からないようだ。
とりあえず声をかけてみるか。あとは出たとこ勝負だ。
「エマさん、お久しぶりです。タロウです。」
決して大きくはない。が、しっかりと聞こえる声で、閉じられた扉に声をかける。
反応は無い。扉に触れる。
鍵がかかっていて扉は開かない。
ん?これは魔石?鍵の中に細工がされている。これは魔道具か?
何処かの文献で読んだ気がする。
確か特徴的な魔素の流し方をすると外れる仕組みだったはずだ。
仕組みが難しすぎて、製作が難航していたはずだ。
「そちらはお嬢様様が、つい最近お作りになったものです。それのおかげで、なかなかお嬢様にお会い出来なくて。」
全くこんな物をしっかりと作って、まだ、ものづくりは嫌いになってはいなさそうだ。
なんとなく魔石が仕込まれた鍵に手を置く。
そうだな。こんな感じで魔素を入れればいいか?
ガチャン
そんな音と共にあっさりと鍵が開いた。あいてしまった。
同時に扉も開いた。
中にいたのはきれいな髪をぼさぼさにして、パジャマのような服装で、ベットの上で資料を読んでいるエマさんだった。
エマさんと完全に目が合った。
「ひ、久しぶり」
エマさんはベットを駆け下り、理解できない、うめき声をあげながら扉を閉めた。




