表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

145/223

帝国Ⅵ-7

「ダニエル、エマさんのもとへ行こうと思う。」

「僕も行きます。やっぱりこのままではダメだと思うんです。居場所を知っているので送ります。こっちです。」

ダニエルについて外へ出ると、4輪になった乗り物があった。


魔導三輪はしっかりと進化しているようだ。

見た目は完全に自動車だ。

フロント部分から伸びる小さい煙突からは蒸気が出る。

元の世界に合った車と見比べるとだいぶ細身だが、魔導三輪と比べると驚くべき図体だ。


こんな立派な物を作れるんだ。その才能をこんなところであきらめてしまうなんてもったいない。


魔導四輪は魔導三輪に比べ、圧倒的に早く、安定した走りでかけていく。

入国した際には気付かなかったが、街の中の特定の場所だけ魔導四輪専用の道路ができていた。


数台の魔導四輪が走り回っている。服装を見るに、貴族たちが積極的に乗り回しているようだ。


皆、快適そうだ。

全てがうまくいくわけでは無い。しかし上手くいっていることもある。諦めてはいけない。


魔導四輪のスピードのお陰で俺たちは直ぐにエマさんの下にたどり着いた。

彼女はしっかりと親元にいたようだ。


そこはフジワラ商会だった。

ここもいつぶりだ?懐かしいな。

ドアベルを鳴らすと、執事が現れた。

「これはこれは、著名人がこられましたな。本日はどのようなご要件で」

「急にすみません。エマさんに会いに来ました。」

「生憎とお嬢様は誰にもお会いになられません。」

「ならば、マリーさんに合わせてください。」

「奥様にですか・・・失礼ながら、奥様は現在、大変お忙しい身にございます。ご予約をおとりになってからもう一度訪ねていただけますか?」

くそ、中々うまくいかないものだな・・・このままでは、全く話が進まない。

いっそ乗り込むか?

いや、そんなことしたら無法者だ。ニッホンで無法者になって、ここでも無法者になったら本格的に住む場所がなくなってしまう。

ここは素直に従うしか・・・


「いいよ。本来なら追い返しているところだが、気分転換の相手をしておくれ。」

目の前の扉を開けて出てきたのは、少しやつれたように見えるマリーさんだ。


執事は少し困ったように俺たちを応接間へ案内してくれた。

部屋に入るなりマリーさんは、ぷかぷかとたばこを吸い始めた。

「久しぶりだね。話題の天才魔法使いさん。帝国からじきじきに依頼を受けたそうじゃないか。」

「さすがに、話が早いですね。お得意の情報収集ですか?」

あといつの間にか魔法使いと呼ばれるようになったのか?

「今回は、わざわざ調査すまでもないね。女帝の目の前で魔法をぶっ放して、さらには有力貴族をぶっ飛ばしたんだから、そりゃ大騒ぎさ。全く人の忠告も無視して大暴れだね。」


隣で聞いているダニエルの視線が痛い。

改めて聞くと相当やばいことしてしまったな・・・

「こ、今回は、その件でエマさんに相談したくて来たんですよ。」

「あの子は今・・・そうだね。少し話をしよう。それから直接会ってみるといい。」

マリーさんはたばこを置いて、真剣な顔をする。

一体どうしたというのか。


「まず、あの子に魔導機兵の装備を作るように命じたのは、私だ。」

その言葉を聞いた瞬間、思わず立ち上がってしまう。

エマさんがどんな思いで毎日頑張ってきたか・・・何のために、あんなにも素晴らしい乗り物を作ったか。

細部まで作りこまれた魔導四輪を見ればわかる

それを、それをわかっているだろ?


「ここも城のように吹き飛ばすのかい?私はあの貴族を引き飛ばしてくれて、すっきりしたがね。」

マリーさんの言葉に何とか気持ちを落ち着かせる。そうだ。何でも怒っていても話は進まない。

椅子に座りなおして話を聞く。

「エマさんと会話をする前にマリーさんに詳しく話を聞いた方がよさそうですね。」

「許してくれとは言わない。仕方なかったんだ。こうするしかなかった。」


マリーさんは、思い出したくもない記憶を思い出す。

「ちょうど宣戦布告されるかどうかって時だ。帝国の軍部の奴らが来てな。開発中だった魔導四輪を軍事利用できないかと言ってきた。もちろん最初は断ったさ。あの子の物だからね。」

しかし、現実は甘くなかった。

軍部は資金援助や爵位等、あの手この手で交渉を行って来た。

けれどエマさんもマリーさんも折れなかった。


しまいには軍規違反で逮捕ときた。

エマさんはこれにも、やれるもんならやってみろという姿勢だった。


しかし、マリーさんはそこでぽっきりと折れてしまった。

エマさんの命が危ないと知ると、それ以上、反抗することは、できなかった。

親だから・・・


マリーさんはエマさんの説得に回った。

エマさんは突然のマリーさんの行動に裏切られたように感じた。

あまりのショックと味方が少なくなったことに、さすがに折れてしまい、しぶしぶ魔導機兵のベースとなる車体を作り上げる。


作り上げた車体は軍部に引き渡され、即座にさらなる兵器化が進められた。

エマさんはその様子を、何もできず、ただ見ていた。


そして開戦と同時に、とてつもない戦果を挙げ続ける魔導機兵。

空気の読めない貴族たちは開発者であるエマさんを褒めたたえ、あまつさえ、自治領内に引き込もうとした。

婚姻を申し込む者まで現れる。


エマさんは完全に参ってしまい、結果として引きこもってしまった。

全てを話し終えたマリーさんは泣いていた。

自らの娘を守るために、とった行動は逆に娘を傷つけてしまったのだ。


俺は、何も言えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ