帝国Ⅵ-5
とある王宮における一室。
「開戦してからというのも、大きい戦いでは連戦連敗。しかし、主力部隊が全く欠けておらず、古式の装備が破壊されたぐらいで、本当の狙いは今のところ死守できています。」
「ああ、予定通りいって何よりだ。しかし、帝国軍も予想より強い。すでに、新魔石兵器のカードを切らされた。やはり物資が潤沢にある国は違うな。」
「あの、軍師殿。その新魔石兵器なのですが、あれは・・・」
「なんだ。」
その時、報告を行っていた部下はこの時の軍師の顔をまざまざと覚えていた。
覚悟を決めた般若の顔を
「いえ、なんでもありません。失礼いたしました。」
軍師は思う。
そうだ。
もうすでに戦いの火ぶたは切って落とされたのだ。そしてあんな兵器にすら手を出したのだ。
後には引けん。
帝国だって馬鹿じゃない。いづれこちらの作戦に気づくことだろう。それまでに戦略目標を達成しなければ、勝つ意味はないのだ。負けなければいい。
軍師は次の作戦を考える。
しかし、今一番会いたくない者が現れた。
「これは、これは軍師殿ご機嫌いかがかな?」
「お前か、変わらぬよ。お前のほうは機嫌がよさそうだな。」
「それはもう、至極天上にも上る気分ですな。最高のデータを集積出来ておりますゆえ、今後さらなる兵器開発にいそしむ次第です。」
「またか、人道を疑う結果にならねばいいがな。」
「人道など、戦争を開いた張本人が言う言葉ではありませんな。」
「あれは! いや確かにそうだな。事実お前の兵器も利用していることだし。」
「そうでしょう。大体勝たねば、よりひどい道を歩むことになりますぞ。負ければ餓死者と無法者であふれ、女子供は犠牲となり、昼夜を問わず略奪行為が繰り返される。一世紀は前の国となりましょう。」
「全く、どうしてこうなってしまったのか。俺は間違っていたのか。」
「間違ってなどおりませぬ。しかし、足りなかったのでしょうな。」
「俺の知識か。」
「いいえ、人類の科学技術です。例えばの話をしましょう。昨今、魔獣が活発となり、田畑を中心に甚大な被害が出ています。しかし、何らかの力でどこでも一日で食料を生産出来たら、ちょっと荒らされようとも困らないと思いませんか?」
「それは妄想の話だ。そんなものいくら考えたところで意味はない。」
「いえいえ、大事なことですぞ。人々はそれを夢や目標として生活してきたのですから。そうやって我々は科学技術を進歩させてきたのです。」
「その結果に犠牲を伴ってもか?あの不気味な新兵器のように」
「世界の発展のために犠牲はつきものでしょう。人類の歴史の中で犠牲を伴わなかったことなど、ただの一度もありませんぞ。それに不気味とは不服ですな。あれは大変すばらしいではありませんか。人類と魔石の関係性を如実に著した現象ですぞ。」
軍師は話にならないという雰囲気で部屋を後にした。
帝国の一室。
あと少しで巷で話題の大魔術師がやってくると報があったころだ。
最近、戦績は芳しくない。
大きい戦闘では勝利を収めることは、できているものの、例の採掘場付近は完全に占領されたままです。
さらにはいくつかの交易路も完全に掌握されている。
戦闘面でも軍からの報告では想定を下回る戦力しか出てきていないとのことです。一部には楽観視してもうすぐ勝てるとのたまう貴族もいるが、おそらくこれは罠。
戦力が少ないということは、主力が出てきていないということ。これは軍部も同じ見解です。
さらには見知らぬ兵器が出てきているらしいです。
なんでも無限に使える魔石だとか・・・そんなものどうすればいいのでしょうか。
このままでは、めぼしい戦果も上げられず、沈静化し、小競り合いが長期化するだけの以前の関係に戻ってしまう。
それは勝ちはすれど、負けているようなものです。
そこに飛び込むように、とある一件が発生しました。
それは魔法使いの誕生です。
以前から巷で話題になっていました。
奇術を使う魔術使いがいる。そのものは帝国を出て各国を旅しているらしい。なんでも勇者伝説を追っているとか・・・
いまさらそんなものを調べて何になるのかという感じですが、彼は別の意味でも有名になっていました。
それは彼の上げる功績について、強力な魔術を使用し、魔獣をほぼ単機で撃破する。さらに魔術研究、魔道具研究と幅広く研究し奇想天外な発想力で様々な道具を作り出す。
一体何者なのでしょうか。
以前一度だけあったことがあるらしいのですが、正直、特徴が全くなくて、覚えていません。本当にあったのでしょうか?
本人は自らのことを迷い人だと言っていますが、おそらく嘘でしょう。迷い人はたいてい死体で発見されます。世界のどこかに現れますが、亜獣や魔獣の近くに出ることが多いと過去の資料が物語っています。
だからたいていは生きられません。
自分のことを迷い人だという者はどこかの国や村を追い出された者です。
きっと彼もそのたぐいだと思っていました。
しかし先日、魔獣との戦闘で明らかに魔素が枯渇した状態で、魔術を使用し、さらには魔術特有の幾何学模様が出ていないにも関わらず、普通では考えられない規模の魔術を使用したといいます。
これでは伝承に残る魔術使いの上位者、魔法使いその者ではないですか。
だが、厄介なことにその者は隣国のニッホンを飛び出してきてしまったらしい。また悩みの種が増えそうです。
そんな強靭な人をかくまって腹の内を探られたくはない。
私はこれを有力な大臣たちに相談した。最近はちゃんと相談することを覚えたのだ。
するといつも添い寝をしてくれる近衛兵達からいい案が出てきた。
それは王国調査の依頼を出すことだ。
帝国として縄は括り付けておきたいが、国内においておきたくない。
もちろん逃げるリスクや寝返るリスクもあるので、やりたくはないが、人質も取らなければならない。
正直、私に怒り狂って襲ってくるかもしれない。怖い。
けど乗り越えなければならない。
私はいつも助けてくれる人たちの顔や国民の顔が浮かぶ。大丈夫。彼らのためにも私がまずは動くんだ。
幸いにも動いてくれると思っている。彼の人となり、戦場で使われている新兵器。
きっと大丈夫だろう。
応接間で見た彼の力は常軌を逸していた。
それまでは静かに聞いており、なぜか隣にいた以前に会ったことがある冒険者がかみついてきたが、そんなものは吹き飛びました。
文字通り吹き飛んだ。
魔術の模様など見えず、一瞬にして部屋内に突風が吹きました。
きっとスカートがめくれあがっていたでしょう。
そして一人の若い兵士が壁に埋まっていました。あんなことができるのでしょうか!?私は旋律しました。
いつもの執務室に戻るまでは平静を装っていたが、すぐに近衛兵に聞きました。
「あなたはあの魔法使いに勝てる!?」
「いきなりそれですか。う~ん正直私一人では勝てないでしょうね。兵長だったらどうかはわかりませんけど。だって・・・」
「だってとかそういう問題ではありませんな。」
「兵長、来ていらしたのですか?」
「ええ、緊急の用がありましてな。件の魔法使いですが、確実にまた会いまみえることでしょう。下手すると戦闘になるやもしれません。そうなればヴェロニカ様をお守りしながら戦うのは困難です。すぐに逃げれる準備をしておいてください。お前も一緒に行け。」
「は!」
私は彼らのやり取りに、興奮が収まり戦闘など起こらないよう祈るだけでした。




