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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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交易都市 オヤイモⅡ-2

深夜に訪れたノエルの姿はいつもは見ない普段着だ。

二人で部屋の中まで移動し、テーブルを挟んで座る。

「あんた、けが人のくせにこんな時間まで起きてたの?」

「何だか眠れなくてさ。丁度良かった。話相手になってくれよ。」

といってもこれといって話題が思いつかない。離れている期間が長かったのに意外と話せないものだ。


「タロウ、あの時助けてくれてありがとう。正直、倒す手立てが無かったわ」

珍しく、素直だな。

「あの時って?ああ、クモの魔獣の時だな。あれはお互い様だよ。俺だって助けられた。ボロボロだったからな。」

「そうよね。私のおかげよね。」

ノエルは誇らしげにする。

プルンと胸元が揺れる。思わず視線をそらす。


「そ、そういえば、団長さん残念だな。もう一度会いたかったよ。」

一気に空気が暗くなる。

しまった。完全に話題を間違えた。どうやって話題を変えよう。

「あれは、私が悪いんだ。」

ノエルは視線を落として答える。

「そんな誰が悪いなんて・・・」

「いや!私が・・・わたしが・・・」

「おい、落ち着けって。」

タロウは、近寄ったもののどうすればいいかわからない。


「わたしが盗賊との戦闘でケガをしたせいで、魔獣との戦闘に参加できなかったから・・・戦力が減って、私が少しでも魔石を使えれば、回復の魔石でも使えれば・・・」

ノエルは頭を抱えてうなる。

「ノエルが悪いわけじゃない。落ち着くんだ。」

肩をつかみ抑える。あの気丈なノエルがここまで落ち込むなんて、相当心に来ているらしい。

「タロウは居なくならないよな・・・」

「ああ、俺はいなくならない。俺には魔術があるし、回復の魔石だって使い放題だし・・・って、おわ。」

落ち着かせるために、色々言っているうちに、ノエルに物凄い力で押し倒される。


うっ酒くさ。

コイツまさか酒を飲んで・・・どうやら酔いが悪い方向に出てしまったようだ。

「私はあれから先走って怒られてばかりだし、魔獣には勝てないし、タロウは死にそうになるし・・・もう駄目なんだー」

ノエルは頭突きする勢いで俺の胸に顔をうずめる。正直胸が痛いし、苦しい。そして柔らかい。

「大丈夫、大丈夫だから・・・そういうときもある。今は休め。な?」

ノエルを何とかなだめる。

そのうちすぐに眠ってしまった。


ノエルの部屋に運び入れる体力も残ってないので、俺のベットに何とか寝かせた。

俺はというと、病み上がりでさすがに体力の限界が来たのか、ソファに横になると眠ってしまった。

明日ノエルの記憶が残ってないことを祈るばかりだ。


次の日の朝、体を揺らされる感覚があり、目を覚ました。

視界が開くと、少し赤い目をしたノエルがいた。やばい、死んだか!?

「ちょ、調子はどうだ?落ち着いたか?」

少し引きつりながら聞いてみる。


「忘れて」

「何を?」

「昨日の事。」

「昨日・・・夜の事だよな。」

「そう、絶対忘れて!」

ノエルのにらみが効いた表情に恐怖を覚える。

俺は何度うなづいて答えた。

ノエルは俺が頷いたことを確認して、そそくさと部屋を出ようとする。あと一歩のところで振り返る。

「昨日はあんな感じだったけど、もう大丈夫だから、乗り越えたから、もっと強くなって全員守って見せるわ。」

「一人で抱え込むなよ。たまには吐き出したっていいんだ。次は俺だっているんだから・・・ん?どうした?」

ノエルは体に力を入れて俯いて震える。

「なんでもない。」

そう言うと同時に部屋を飛び出していく。

何だったんだ?


お昼ごろ、再び多くの人が集まった。

アレクがいつも通り唐突に会話を始める。

「さて、タロウ。我々は帝国に帰還しようと考えています。もし、同じ方向へ行くならば、一緒に行動しませんか戦力は集中していた方がいいかと。」


「そうだな、俺達も帝国へ行こうと思っていた。よし!一緒に行くか。」

リルカはすごくうれしそうにして、コイルは安心したような顔をする。


端で見ていたノエルは青い顔をして俺と副団長を交互にみる。

副団長は一歩前に出る。

「タロウ。そして冒険者の方々にお願い、いや依頼がある。俺たちの団の護衛をしてほしい。報酬はあまりないが、それなりに用意できると思う。頼む。」

そういって、副団長は頭を下げた。


副団長によると、ここまで来るのに数多くの仲間、特に戦闘を行ってきた仲間を失ってしまったらしい。

団を安全に維持していくのは現状では困難とのことだ。

アレクが副団長に向き直る。

「そちらには、消耗していても持前の兵隊がいたはずです。冒険者と統率のとれた兵というのは常々対立します。どうなされるおつもりですか?」

「それは・・・今、保証できるものはないが、俺が何とかコントロールする。それしか言えない。」

本来であれば、こんなやすやすと護衛は引き受けない。

アレクの言った通り連携のとりづらい部隊は人数が少ないことより危険だ。

アレクだってそんなことは百も承知。だからこその質問だったのだ。


だが、ここにいるのはアレクだ。

「副団長殿、頭を上げてください。その依頼、もちろんお受けいたしますよ。すぐに兵の現状を教えてください。」

「ありがとうございます。あ、そうだ。ノエル良いな。なんとしても協力しろ!お前が一番かみつくからな。」

「あ、うん。わかった。」

「やけに素直だな。まあ、協力するならいい。」

副団長とアレクは部屋を出ていく。


「さて、俺たちもすぐに準備して出発するか。」

「おう!」「そうだね。」

コイルとリルカはいつも通り返事をする。ようやく色々落ち着いた気がした。


俺はひとまず外に止めてある魔導三輪を・・・魔導・・三・・・輪。そうだ魔導三輪!

走って、停車している魔導三輪のもとへ向かう。

そこには色々と折れ、タイヤとエンジンに穴が空き、魔石が外れた物があった。

涙が無性に出てくる。

コイツは俺も開発に関わった物だ。致し方ないとはいえ、こんな姿になってしまった。

全力で作ったプラモデルを壊してしまった喪失感だ。


「あのね、タロウ。落とした荷物とか、壊れた部品とか、なんとか集めて持ってきたんだよ。全部は無理だったけど。」

「ありがとうよ。」

「すごい、タロウの顔がしなびた野菜みたいだよ。」

おそらく本当にそんな顔をしているのだろう。

結局、壊れた魔導三輪は応急処置のみ行い、商団の馬車にくくりつけて運ぶことになった。


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