始まりの森4
風の魔術を再度使えるようになったことで一瞬のうちに戦闘領域へ帰還する。
みんなの状態を見ると、すでに大小様々な傷を負っている。
前衛を張っている。アレクやケニーは傷が大きいな・・・まずはこいつらの回復だ。
急激に降下し、二人の背後に立つ。
「タロウ!どうしてここに、というかボロボロではありませんか。負傷しているなら後退してください。」
「うっす。」
「ボロボロはお前らもだ。まずは回復する。」
俺は回復の魔石を最大出力で発動する。大量の光が二人を包み大きな傷をいやしていく。
すぐに緊急処置を終え、相手の観察に入る。
「あんたどうしてここに!?」ノエルが後ろから駆け寄ってきて、「あ、久しぶり~てっなんで?」クララも後ろからかけてくる。
それぞれの反応を見せる。
「今は魔獣を倒すことを優先しよう。」
みんなの視線が魔獣に向く。
魔獣は相変わらず固い外皮に覆われ健全としている。身成長体を倒したときは内部から燃やして脱皮させた。同じようにやるしかない。
「ケニー、アレク、タンクを頼む。耐えなくていい、気を引き付けてくれ。ノエル、クララ、隙を見て間接を狙ってくれ。相手の動きを鈍らせてくれ。相手の外皮を焼いて脱皮させる。そしたら切ってくれ。」
それぞれが返事を返してくれる。
まずは、一発目!
特殊矢を取り出し、矢に細工された魔石を発動する。ここに周囲から吸収した魔素を籠めて雷の魔術を発動する。タロウは気づいていないが、模様らしい模様は出ていなかった。対照的に光の粒子があふれて散っている。
タロウは手投げで矢を投げる。矢は手投げとは考えられない速度で飛翔し、外皮に突き刺さる。紫電が魔獣の体に流れ、一瞬だけ動けなくさせる。
その隙にアレクとケニーが魔獣の前に展開し、ノエルとクララがいったん身を隠す。
魔獣は足元に表れたアレクに対処するため、鋭い足を利用して、攻撃を仕掛ける。アレクは華麗に交わして、足に斬撃を加えていく。
もちろん傷はつかないが、十分に衝撃を加えることができている。わずかに体勢を崩しながら、余っている足を使って、アレクを狙う。しかしケニーがアレクとスイッチし、攻撃を受け止める。多数の足を使って、攻撃しているため、数本の脚はがっちりと地面に固定されている。
ノエルとクララはその隙を見逃さない。一瞬で両者の攻撃が足の関節部に迫る。少なからずダメージを与え、傷をつける。
関節をうまく動かせなくなり、魔獣の動きは鈍る。
しかし攻撃のために出てきた二人を、魔獣は見逃さない。口元がもごもごと動き、白い粘液を噴出する。
あれは粘液が付着したところを固めてしまう接着剤のようなものだ。
あれも逆に利用してやる。
魔獣の前に移動し、周囲の魔素を吸収し魔術を発動する。
竜巻のようになった風を、噴出した粘液にぶつける。粘液と竜巻は衝突し、拮抗する。
まだだ、まだ出力を上げられる。さらに周囲の魔素を吸収し、魔術の出力を上げる。竜巻は粘液を押し返し、跳ね返った粘液は魔獣自身に降りかかる。
粘液は煙を上げながら、固まっていく。やはり強力な接着剤のようだ。
魔獣は自身の足や胴体が固まり、明らかに動けなくなっていく。残った足でアレクとケニーを攻撃していく。
「4人とも、少しだけ時間を稼いでくれ!攻撃の準備をする。」
4人から返事が返ってくる。
返事を確認し、攻撃の準備をする。
俺が持っている最大の攻撃。狙ってはいないが、何度も放ってきた。あれは何だったのかと考えてきた。俺が持っている知識を動員し、自分が行った行動を顧みる。
そう、あれはプラズマ砲だ。
できるかどうかではない。もうすでに、無理を重ねているんだ。最後に一発。これぐらいはできるはずだ。
集中し、イメージを深めていく。電気によって周囲の空気にエネルギーを与えていく。エネルギーが高まり、電離し、プラズマへと変化していく。電気的影響を受けるプラズマを集め、貯蔵していく。これを繰り返し、さらにプラズマを収束していく。
やがて、抑えきれないほどにエネルギーが高まった光の玉が出来上がる。
「もう十分だ!全員離れてくれ。」
俺の掛け声とともに、4人が一気に魔獣から距離をとる。
それを見届けると同時に、貯めこんだプラズマの玉を解放し、魔獣に向けた。
プラズマは棒状にのび、そして光線となって魔獣を包み込む。
高周波の何とも言えない音とまぶしい光があたりに散らばる。
すぐに光は消え、中から一部を欠損させ、外皮を完全に焼き尽くした魔獣が現れた。
魔獣は外皮のいたるところからひびを発生させ、ボロボロと剥がれ落ちていく。
これでもまだ倒せないのか。
もともと無理をしているところに、無理な攻撃をしたのだ。限界を迎えるのも当然だ。
抗いようのない眠気が襲う。意識が遠のく。
だけど問題ない。薄れゆく意識の中、動けなくなっている魔獣に向かって、ノエルとアレクが向かっていく。
見事な一撃を加えたところで完全に意識が途切れた。




