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始まりの森3

現れたクモの魔獣は今、倒されたヤツより更に大きく、威圧感がある。

さっきのは成長しきっていなかったのか?

もう、これ以上の戦力は無い。

頭痛も鳴り止まない。


「ちょっとアレク、ちゃんと引き止めてなさいよ。街道まで出ちゃったじゃない。」

高らかに鳴り響く懐かしい声に妙な安心感を覚える。

「ケニー、お願いします。」

「うっす。」

ケニーが持ち前の怪力と大盾で魔獣の脚の足攻撃を受け止める。


その隙にアレクがバトルアックスで、足を切りつける。

しかし予想以上に外皮が硬いのか傷が浅い。

「くっ、一時的にでも動きを止めたいですね。胴体の柔らかい部分に一撃を入れないと、話になりません。」

「目を狙うわ。」

クララは魔弓を利用し鉄製の巨大な矢を放つ。

矢は豪速で魔獣の目に迫る。しかし魔獣もギリギリのところで、わずかに体を捩る。


矢は硬い外皮に突き刺さり止まる。

「もう、さっきからなんなのよ!全然貫通しないし、避けられてばっかり!」

「癇癪を起こさないでください。暇はありませんよ。」


魔獣は、自分の外皮が傷つくとはおもっていなかったのか驚き、攻勢を強める。

ケニーが何とか対処するが、押されている。

魔獣は鋭い足を使った攻撃と硬い牙を織り交ぜて攻撃してくる。

「加勢するわ。」

一体目の魔獣を倒したノエルは、次の魔獣へ高速で迫り、胴体と足の付け根を狙って斬りかかる。

しかし、甲高い音が鳴り響くだけで、切断はできない。

「なによ!さっきと全然違うじゃない!」

文句を言っている隙に、直ぐに他の兵隊が追いつき、部隊の展開を完了する。


「ノエル!一人で突撃するな!」

「あんたたちが遅いのよ。それより、相当硬いわよあいつ。」

「ああ、さっきのやつと同じだが、数段強いな。」


兵士たちは代わる代わる魔獣の攻撃を受けていく。隙を見て攻撃を入れるが硬すぎる外皮に阻まれ中々攻撃が通らない。

さっきの倒した魔獣やツチノコの魔獣を倒した時と同様に、魔獣に外皮を脱がせるしかない。でもそんな方法はない。


・・・本当にないのか?・・・何も?

何かないのか。

戦闘は続いている。今までの経験から、この魔獣を倒すためには、あと一歩、戦力が足りない。

ジリジリと戦力が削られて、敗走することになるだろう。

俺が、魔術を使えれば、せめてあと一発、強力な電撃を放てれば・・・


いや、そんなこと言っている暇はない。どちらにしろ、この戦闘で勝たなければ、町に入るまでに魔獣に追いつかれてしまう。

どうすれば・・・例えば他の魔素を大量に保有しているものから、魔素を吸収して自分の魔素にできないか・・・こんな大変な時だっていうのに頭の中をマンガで見たような情景が駆け巡る。現実逃避でもするように・・・


「おい、タロウ!何やってんだ。早く立ち上がれ。」

いつの間にか迎えに来ていたコイルに引っ張られるように立ち上がる。

「コイル、どうしてここに・・・」

「当たり前だろ!助けに来たんだ。全く勝手しやがって。」


コイルに引っ張られながら、おぼつかない足取りで走り続ける。

戦闘領域から離れていく。

戦っているみんなを残しながら・・・

「コイル、俺たちも加勢しないと、あいつらだけじゃ勝てない。」

「そんなことは言われなくたってわかってるよ。!だけどな、お前が行って何になる。すっからかんな、お前が行ったところで、壁にもならない。・・・お前に時間を与えれば、回復する。」

コイルは立ち止まり、向き直る。

「お前が回復すれば、作戦を考え、魔術を使って、他の兵士たちと連携し、あんな魔獣はいとも簡単に倒せる。お前の魔術は戦うためにあるのか、お前が今やるべきことは逃げて回復することだ。」


再びコイルに引かれ、商団がいる場所まで戻ってくる。

リルカも無事だ。すぐに回復の魔石を使って回復させてくれる。

「タロウは、もう寝てなさい!」

リルカは強引に俺を座らせる。ただ座っただけで、ぐっと重い感覚がある。


いつの間にか回復の魔石が発する光の粒子がまとわりつき、体の傷が癒えていく。

すぐに魔石の光は小さくなっていく。

リルカは回復の魔石を完璧に使えるわけではない。

出力に波があって、最初は強く効果を発動できるけど、すぐに弱くなっていく。

だから何度も魔石を発動しては消えてを繰り返して、傷をいやしていく。

再び回復の魔石が発動し、不可思議な光が身を包む。


戦闘から離れることで完全に集中力が切れ、呆然とする。

いつものこと過ぎて、気にも留めなかったけど、光は魔石から出ているわけではないんだな・・・

回復の魔石が放つこの光はなんだろう?

この光が回復を促しているのか?触れれば雪の様に溶けて消えていく。体に染み込んでいるようだ。

全ての魔石は魔素を介して不思議な効果を発動する。


ならばこれは回復の際に発するこれは魔素そのものか?

まだ足の傷が癒えていない。試しに魔石間の魔素移動のようなイメージをしてみる。

結果は何も変わらない。当然だ。

魔素移動は魔石同士を接着しなければいけない。

「あれ?腕の傷を治してるはずなんだけどな?治ってない。ごめんねタロウ。もっかいやるね。」

「ありがとう。自分のペースで頼む。」

もう一度同じ事を繰り返す。

「ちょっとタロウ、腕を治してるから吸い取らないで!」

「えっ?」

気づくと足のケガが治っていた。そして、足の周りには光がまとわりついている。

すぐに直観する。吸収したのか。

だけどなんで今・・・というかできた。・・・あの光は魔素だったのか・・・

突然のことに、思考がまとまらない。だけど何故か、圧倒的な自信が湧き上がる。

俺の直感は、このまま突き進めと言っている。


魔素はなぜ遅れて吸収できたんだ。

偶然か必然か走馬灯のように魔素感知の知識がフラッシュバックする。

「きゃータロウ、鼻血。鼻血出てる。ぼうっとしてないで止めて。」


魔素感知では特殊な模様で、魔素を受け取り、おおよその魔素の濃淡を理解するものだ。魔獣に対しては魔素の流れなんかもわかる。

魔素の流れがわかるということは、魔素が少なからず流入し、そして集められているのだ。

今思えば、どちらも似たような技術だ。どこかに共通点があるのかもしれない。


「おい、タロウ。頭から血が出ているぞ!、早く止血しろ。」


魔素移動は魔石の中の魔素を交換する技術。魔素に対して反応性の高い魔石のみで実現しているが理論的には全ての物に対し、魔素の移動ができるのではないか・・・

魔素感知は空間の魔素を吸収し、物質や空間の魔素分布がわかる技術。今のところ俺しかできない。

魔石と似た性質を持つ液体魔石で特殊な模様を描く必要がある。


液体魔石も魔素で構成されている可能性は高い。

そして魔素は生物の体と高い親和性を持つ。


もしも・・・もしも・・・自らの中にある魔素をコントロールし、魔素感知と同様の模様を自らの体内に描き、周囲の魔素を吸収出来れば。

もしも、吸収した魔素を、そのまま魔石に移動できれば、俺は魔術を使えるかもしれない。

仮説に仮説を重ねた妄想だ。

しかし、言いえぬ自信は俺を動かした。


集中する。まずは手だ。魔石を持つ手の魔素をコントロールし、液体魔石で描いてきた模様のように分布させる。そして周囲の魔素を吸収するようにイメージする。


「わわ、タロウがまた回復の魔石で変なことしてる。手に集まってるよ。」

良し、順調だ。

手の甲が熱い。魔素が高まっていく感覚がある。

次に手に集めた魔素を魔石に集めていく。使う魔石はもちろん光の魔石だ。意識せずに手に取っていた光の魔石に魔素を注入していく。

そして、いつしか、聞きなれた音が辺りに響いていく。

「タロウ、お前また魔術が・・・」

頭痛はない。自身の魔素を利用していないからだ。


できる。

体中から魔素を吸収するようにイメージを拡張していく。


「ありがとう。コイル、リルカ。頭が冷えたよ。」

「おい、まだ止血が・・・」


「行かなきゃ、俺の魔術は人のためにあるから」

風の魔石を起動し出力を上げる。体がふわりと浮き上がり、そして急激に上昇した。


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