表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/222

始まりの森2

魔獣は完全に動きを止める。

見届けるように、スルスルと荷台から降りてくるタロウ。

今の一戦で魔素切れである。

肩で息をしながら、魔獣を観察する。


魔獣は口から泡を吹き出し、動かない。心なしか体表の色も変色しているように感じる。

「突然、どうしたんだろうね。森から現れたと思ったら、襲ってきたんだよ。」

リルカは襲撃の瞬間を詳細に教えてくれる。

魔獣はそう簡単に現れない。大抵はダンジョンの奥地にいる。

パキッパリ・・・

まれにアラスオートのように偶発的に発生するが、あのような事例は少ない。

パリパリパリ・・・

こんなにも何度も会う存在ではないのだけど・・・


パキッパリ・・・

全く何なんだ。さっきから、この音は。

音のする方へ視線を向けると。魔獣がいる。いや倒したはずの魔獣の体表が完全に白くなっていたのだ。

そして背中が割れ、その中から新しい魔獣が出てこようとしていた。

「まずい、魔導三輪を出そう。」

コイルは俺の言葉を聞くなり、魔導三輪を高速で走らせだす。魔獣は一瞬にして外皮を脱ぎ、口からドロドロと黒焦げた物を吐き出す。まるで脱皮だ。


どうやら俺たちが与えたダメージは完全に回復されたようだ。

やっぱり、理屈の通じない生物たちだ。


魔獣は体が乾いておらず、水分をまき散らし、たまに転びながら、それでも物凄いスピードで俺たちを追ってくる。

もう魔素がない。これ以上は魔石もまともに使えない。

武器も少量の矢に、人数分のショートソード。まるで戦えない。

逃げるしかない。


「コイルもう少しがばってくれ、もう少しで大きめの街道に出る。そうすれば交易都市だ。そこまでいけば、戦えるものが多いはずだ。そこまで頑張ろう。」

「そうはいったって、まだまだ距離はあるし、これ以上速度は出ないぞ!」

「荷物を捨てる。リルカ手伝ってくれ。」

「でもこれを捨てちゃったら。ごはんとかなくなっちゃうよ!」

「背に腹は変えられない!なるべく問題なさそうな物から捨てよう。」


俺たちは荷台からどんどん物を捨てる。しだいに、スピードが上がっていく。

捨てられるものは捨てた。


これ以上は速度を出せない。

距離は変わらずクモの魔獣は追ってくる。

大丈夫、このまま逃げ切れば広間だ。


クモの魔獣は口元が膨れる。

隙間から白いドロっとしたものが滴る。

「また同じやつか!」

どうする!?いや、どうするとかじゃない!

迷わず、光の魔石を取り出す。

しかし、いつもの電撃は出ない。


考えろ 考えろ 俺に魔素はない。なら魔素を集めるしかない。この世のすべての物は魔素を持っているといわれている。

目の前に映るのは手に持った魔石だった。

そうだ魔石そのものにも魔素を持っているんだ。魔石から魔素を押し出すように魔術を発動する。

・・・当たり前だが、現実は甘くない。そんなことをしても何も起こらなかった。


油の入った樽に持ち替え、油を空中に巻き、リルカが息を合わせるように火をつける。瞬時に油は爆発し、粘液は防がれ荷台が傷つく程度で済んだ。


頭が痛い。やはり無理に魔術を使おうとすると、体に大きな負荷がかかる。

立っていられず、うずくまる。

玉のような汗が噴き出る。鼻血もあふれるように流れ出る。

「タロウ、それ以上魔術を使っちゃダメ。前よりずっとひどい。」

リルカに何か言われている。ダメだ。意識を保っているだけで限界だ。


「お二人さん。よく耐えた。広間に出るぜ、そうすれば街まですぐだ。」

コイルのいう通り、周りの景色は急にはれ、遠目にはきれいな街並みが見える。

魔獣は相変わらず追ってくるが、希望はある。


! そう思っていた矢先、目の前には商団と思われる集団がいた。

まずい。このままではあの集団に、魔獣を押し付けてしまう。そうなれば、被害は甚大だ。

一体どうすればいいんだ!?

商団側も俺たちが魔獣に追われていることが分かったみたいだ。

慌てて人々が荷台から出てくる。兵士もいるようだが、数が少ない。やはりこのままでは蹂躙されてしまう。


・・・もう手段がない。なんとしてでもクモの魔獣を停める。

「コイル、操縦を変わってくれ、この魔導三輪を、あの魔獣にぶつける。」

「ぶつけるって、どうやって・・・というか、お前はどうするんだ。」

「大丈夫だ。ぶつける瞬間に飛び降りる。」

「そんなことできるわけないよ。タロウはもうボロボロなんだよ。」

リルカは心配そうに止めてくる。しかしもう手段がない。


「大丈夫だ。ギリギリ回復の魔石ぐらいは使える。飛び降りると同時に回復の魔石を使って飛び降りる。」


集団の方に目を向ける。兵士の展開がようやく終わろうかというところだ。しかしあまりにも近すぎる。

やるしかない。

半ば強引にコイルと操縦を変わり、コイルを荷台に移動させる。

「いいか、荷台を切り離す。スピードが十分に落ちたら、目の前の集団に全力で走れ!」

言い放つと同時に、魔導三輪と荷台を接続していた縄を切り離す。


やがて速度差から荷台と魔導三輪が離れていく。急激に魔導三輪の方向を転回し、魔獣に向き直る。

そして魔獣に向かって全速力を出す。いつもの運転なのに、頭痛がする。魔導三輪にも魔素を使うからだ。これまでの旅で、度重なる改良を施しておかげで、だいぶ効率がいいが、運転者の魔素を消費することは変わらない。


自分の体の一体どこにあるかわからない魔素を吸い取って、魔導三輪は速度を増す。

やがて最大速度まで加速した。

狙いは足だ。

脱皮してから柔らかいままで走ったせいで、変形した足と、しっかりと硬化した足がある。硬化した足を狙って攻撃できれば、あの変形した足では走れまい。

その隙を狙って、後ろにいる兵隊たちが魔獣を攻撃してくれれば、問題なく処理できるはずだ。


ちらりと後ろを見ると、コイルとリルカの二人と交差するように、数名の兵士が駆けだしている。中心の赤髪で細見の兵士は相当早い。多分だけど、めちゃくちゃ強そうだ。

俺はどこか安心し、目の前に迫る魔獣の足に集中する。


魔獣もタイミングを合わせるように、しっかりと硬化した足で俺ごと魔導三輪を貫こうとしてくる。

魔獣め、甘かったな、これが一体どんな原理で動いているかも知らないだろ。この中心の窯には高温高圧の水蒸気が入っているんだ。

これに穴でもあければ、急激に圧力が解放され、片足ぐらいは使い物にできなくするぐらい造作もない。


魔獣の足と魔導三輪のエンジン部が交差する瞬間に、俺は飛び上がる。

素の俺の身体能力では、たいしたジャンプ力はない。そのせいで、すぐに地面に落ち、転がる。回復の魔石を発動し、魔石の中の魔素を使い切りながら回復する。


体の傷は治っているのか、激しい頭痛がやまない。痛っ、傷はほとんど治っていなかった。死ななかっただけでマシなほうか・・・

何とか起き上がり、魔獣を見る。


・・・魔獣は複数の足が胴体から切り離され、絶命していた。

「嘘だろ。」

大破した魔導三輪がある。確かに一本の足を破壊したようだが、他複数の足を切り離すような威力はないはずだ。ましてや絶命させるなんて・・・一体何が起こった。


視線は地面に伏せて動かなくなった胴体の上にいる一人の兵士に移った。

女性の兵士で、非常に細い両刃の剣、長い赤髪、あいつは・・・


記憶の中で懐かしい名前が浮き上がってくる。

同時に激しい物音が、森の方から聞こえ、やがてもう一体のクモの魔獣が姿を現した。

「嘘だろ・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ