始まりの森
何も知らなかったあのころ。
だけど今は違う。それなりに力はついたはずだ。
ボロボロだけど・・・
いろいろと破れた服を見ながら今までのことを思い出す。
「そろそろ大通りに出る。ほかの団体もいるはずだ。どうするタロウ?」
「どうするとは?」
「こういっちゃなんだが、国を飛び出してきちゃっただろ?時間的に各国に伝わっているとは考えにくいけどよ。」
「そうか・・逃亡犯か。お前たちはともかく、俺は確定だな。」
少し考えにふける。
「よし、決めた。しばらくの間、俺は荷物になろう。どうせしばらくは動き回ることができないんだ。町に入るときは木箱の中にでも隠れるよ。」
俺は荷物をあさる。
「これを使え、これは変身の魔石だ。扱うことが難しいが、印象は変わるはずだ。」
コイルに紫色の魔石を渡す。
「おいおい、俺は魔石をうまく扱えないぜ。」
「少しでいい、少しでも変われば人は気づけないはずだ。」
「・・・わかったよ。ところでリルカはどうすんだ。」
「私は・・・化粧をするわ。見てなさい。」
リルカは得意げだ。
その後も街道が続く。心地よい日差しの中、眠くなってくる。
まだまだ体力が回復しきっていないのかすぐに眠くなる。
「すまない・・・少し眠る。」
言うと同時に意識を手放す。
コツコツとした振動が心地いい。
こう 耳に響くような音が・・・いや、何か激しくなっているような・・・
高速で回転するタイヤが地面をける振動が体に響く。・・・体中を揺らすような・・・
いや、激しすぎないか?
飛び起きて顔を上げる。大きな複数の目と視線が合う。それに黄色や黒の毛、8本の脚
横に開く大きな牙
蜘蛛だった。
ただし、とてつもない大きさだ。どうやって動いているのか全く理解できない。
バスが二台重なって襲ってきているようだ。
間違いないこんな生物は魔獣しかありえない。
「! ようやく起きたかタロウ、もう全速力だ。どうすればいい?」
「いつからこんなことになっていたんだ!?」
「さっき突然現れたんだよ。」
リルカはそう言いながら、弓矢を射る。放たれた矢は見事に魔獣に当たる。
しかし、カツンと甲高い音が鳴ると同時に矢がはじかれてしまった。
やはり魔獣、とてつもない装甲をしている。
俺もすかさず、クロスボウを取り出し、特殊矢を打つ。
ねらいは魔獣の目だ。
高速で放たれた矢は目のすぐ下の部分に着弾した。
貫通こそしなかったものの、しっかりと突き刺さる。くそっ!威力が低い。まだまだ万全じゃないのか?なんとなくだけど魔素の流れが悪い。
というか、魔術が発動していない!?
魔獣は自分に攻撃が効いたことに驚いたのか、金切り声を挙げ、追撃の速度を上げる。
「まずい、このままでは追いつかれる。」
どうする!?
ひとまずアイツの脚を止めないと、必死に考えていると、魔獣の口元が大きく膨らむ。
ここまで魔獣と戦ってきた経験が働いたのか、あの攻撃はやばいと思った。
あれを食らったら、すべてが終わる。
とっさに高級な火魔石と油の入った小樽を投げつける。
火魔石は一瞬にして高温となり、油が爆発した。
魔獣の口から放たれた、白い粘着状のものが爆発に阻まれて周りに飛散する。
周りに飛んだものは黒くなり固まっていく。
なんだあれは!?
あんなもの、魔導三輪では抜け出せない。
「コイル! あれには絶対に当たるな。」
「わかってるよ。そんなこと!でもこれ以上速度は出ないんだ。何とかしてくれ」
「くそ!」
頭が回らない。
ああゆう体のかたい奴はどうすれば倒せるのか・・・
そうだ内側!
ああいう体の硬い生物は体の中から倒すんだ。
あの口を開けさせて、中から破壊するしかない。
自らの中で作戦を決めるや否や、いつもの装備を手に取る。
「タロウ、大丈夫?」
リルカが心配そうに聞いてくる。
「ごめん、大丈夫とは言い切れないけど、やれるだけやってみる。」
そう言ってクロスボウに矢をセットする。
力の入らない体をしっかりと荷台に固定する。
チャンスは少ない。
一撃で決めないと・・・
しっかりと狙って特殊矢を放つ。そして風の魔石を発動し、加速する。魔術レベルの加速はないが十分だ。
魔獣は急激に動きを止めて、矢をとらえようとする。
しかし、魔獣に対し、非常に小さく、高速で移動する矢をとらえることは容易ではない。
牙の付け根!加速された矢は深く突き刺さり、だらりと片方の牙が開く。
よし、狙い通り。
もう片方の牙もやらないと!
一度、特殊矢を打っただけに過ぎないのに、いつもとは異なり、肩で息をしている。
もう一度、照準を覗き込む。
魔獣は麻痺した自分の口に驚き、うろたえている。
そのすきにもう片方の付け根に特殊矢を打ち込む。そして風で加速する。
だらりと両方の牙が開き口が大きく開かれる。
魔獣はわけもわからないまま、突進を継続する。
チャンスだ。変なことをしてこないうちに、丸ごと焼いてやる。
荷台の燃料が入った小樽を持ち出す。
風の魔石を使い、樽を押し出す。やはり魔術は発動しない。
いつも発動できていた物が、なくなりどこか心細さを感じる。
ギリギリ魔獣の口の中に届いた樽は、大きく開かれた魔獣の口に、挟まる。
タイミングを合わせるようにリルカが火をつけた矢を放つ。
リルカの撃った矢は見事に樽に当たり、引火する。
瞬間、一気に燃え広がり、魔獣は口から炎を噴き出した。




