ニッホン13
早朝、魔道三輪に荷物を積み込み3人で押していく。
魔道三輪を起動してしまうと蒸気の音が鳴り響いてしまう。だから押していく。別にやましい事があるわけでは無いけど早朝ってこともあるし、静かに移動する。
太陽も出ていないほど、早くに出発したおかげで街には誰もいない、順調に門へたどり着いた。
門番がいるはずだ、ここまで来たら魔道三輪を起動して一気に駆け抜ける。
予定通り門番の前まで来た・・・門番は・・・2人だ。
「出国したいのですが、よろしいですか。」
「こんな早朝にか?」
「今日の内に早く移動したいもので・・・」
「・・・なんだか怪しいな.。俺の経験上、こうゆうヤツは後で大問題を引き起こすんだ。ここで3人とも取り押さえる。」
「ちょっと待ってくれ、こっちはギルドの許可書を持っているんだぞ。冒険者として、問題なく通れるはずだ。」
「そんなもの、いくらでも偽造できる。」
コイルが書類を取り出すが、全く聞く耳を持たない。
まずい、ここでとらえられるのは厄介なことになる。何よりいやな予感がする。
「ごめんよ。」
ゆっくりと雷の魔石を掲げる。
門番が気付くよりも早く麻痺させる。
紫色の雷撃は一瞬のうちに門番二人へと到達し、一人は倒れ、一人は中を舞った。
「は?」
電撃はあくまで気絶させる程度の威力で人が吹っ飛ぶような威力は込めていない。
雷撃を受けながらも後方へ飛んだのだ。
吹き飛んだ人は華麗に空中で姿勢を変え、音もなく着地した。
3人はそれぞれがそれぞれに固まっていた。
当然だ。この攻撃をくらって意識を保っていたものはいない。
「いやはや、今のは危なかったぞ。中々効いたわい。いやはや楽しみな気持ちがあふれたかの?」
そう言って深くかぶった頭の防具を取り外す。その顔は見たことがあった。
「タカガネさん? なぜここに?」
「馴れ馴れしいの。これでもワシは大臣じゃ。全くコソコソと、いなくなろうとしおって、どいう言うつもりじゃ?」
「別にコソコソしたわけでは・・・まぁ深いわけがありまして」
「ならばこちらにも深いわけがある。分け合って貴様らには消えてもらう。」
そう言って大臣は巨大な体からは考えられない速度で突進してきた。
とっさに風魔石を発動し、目の前に突風を発生させる。
突如として勢いを失った自分の体に違和感を感じて、また大臣は後方へ大きく跳躍する。
「今のうちに二人は先に行って、俺は風魔石で追いつくから!」
「でも!・・」
「大丈夫だ。時間を稼いだら、空を飛んでいく。」
二人は少しの迷いがあった後、コイルが魔道三輪を起動し、いつでも発進できる体制をとる。
「ほう~なめられたもんじゃのう。」
大臣はもう一度、突進の構えをとる。
「いまだ! 走れぇー」
俺は掛け声とともに、電撃を発生させると見せかけて、強力な光を発する。いわゆる閃光弾だ。
この存在を知らなかった大臣は構えの状態から素早く体勢入れ替え、さらに片目だけは生き残らせる。
歴戦の戦士である。
しかしこれは、俺たちは事前に話し合っていた作戦だ。閃光が来ることはわかっていた二人は全力で魔道三輪を走らせる。
途中、片目だけで突進してきた。大臣に荷台の一部を破壊されたが、何とか切り抜けた。
というか素手で台車を破壊するってなんだ?どんな力をしてやがる。
「ほっほっ見事。まさか抜けられるとは・・・強力な攻撃を印象付けておきながら、目くらましとは、こざかしいのぅ。いいだろ。魔術は素晴らしい。久しぶりに楽しめそうじゃ。では参るぞ。」
そういった大臣はこぶしから衝撃が出る。
「は?」
ふつうは魔石を持っていない手からは衝撃波なんて出ない。
轟音と衝撃が体を襲い、硬直する。
「そういえば、お前さんは魔石について詳しいのじゃったな・・・これがわかるかな?」
そういうと普通では考えられない速度で弾丸が・・・いや肉体が突っ込んでくる。
腰に装備した風魔石で急激に突風を発生させ、自分自身を脇道へ吹き飛ばす。転びながら何とか勢いを殺す。
「ほう、今のを交わすか!変な動きだが、中々やりおる。・・・よし、ワシの魔術をを見破ったなら、逃がしてもよいぞ、お前さんは存分に楽しませてくれじゃ」
ニカっ!と笑顔になった巨躯は再び構えをとると、次の瞬間には猛烈な勢いで突進してくる。今度は構えていたので、しっかりと加速して逃げていく。大臣のこぶしはそのまま地面を殴りつける。
瞬間! とても人が作ったとは思えないくぼみが地面に出来上がる。
一体どうなっているんだ!どう見ても魔石を持っているようには見えない。それにどこからともなく聞こえてくる高周波はなんだ?
でもあんな物理現象は普通の人には出せない。人間の域を超えている。
普通の人?人間の域?
俺はふと、魔獣のことを思い出した。
本来は人にやらない魔獣用の探査魔法を起動する。
大臣は何が来るかと、防御の姿勢をとった。
取り付けた魔石ランプは煌々と赤く光輝いた。
「あんた、魔獣なのか?」
「ほほ、面白いことをいう。当たらずとも遠からずじゃな。わしはただの人間じゃよ」
ではどうして魔石ランプは反応するのか?それは魔獣に匹敵する魔石をどこかに隠し持っているからだ。ニッホンは魔塗で魔素を伝達できるのだ。目に見えていなくてもおかしくない。
大臣が再び、突進する動作を見せる。
・・・本格的に戦闘しないとこっちがやられてしまう。
人を殺さないように戦闘するなど、慣れていないがやるしかない・・・
俺は初めてクロスボウの銃口を人に向けた。
「ほう、ようやくやる気になったか・・・ワシも体があったまってきたところだわ。」
「できれば、このまま見逃してください。これらを人には使いたくありません。」
「お主、この期に及んで面白いことをいう。戦いにおいて武力を用いたくないと申すか。なんと傲慢な。」
俺は何もいわずにクロスボウを構える。こんなことなら弱点を外せるように命中精度をもっと上げるべきだった。
「来い!小童」
大臣が叫ぶと同時に足を狙って、矢を発射した。もちろん魔石の効果を付与しているから、普通のクロスボウでは考えられないほどの速度が出ている。
「遅いわ!!」
狙われた大臣はタイミングを合わせるように、放たれた矢を蹴り上げた。
!そんなことができるのか 嘘だろ
一体どうなっているんだ。続けて弾丸を放つ一発はかわし、他は殴って無効化された。
どっちにしろ何らかの魔石の効果を使っているに違いない。
すぐに魔素感知を起動する。
・・・近づかなければいけないが・・・何とかして動きを止めるか。
特殊矢をさらに打ち込む。やはり、そのまま打ち砕かれる。
「どうした、このままではジリ貧じゃぞ?」
「ご心配どうも、でも問題ないよ」
折れた矢は十分に散らばっている。あとは威力を抑えて雷の魔術だ。
一番近くにあった矢に向かって、雷を放った。矢に伝わった電流は他の矢に伝播して伝わった。
高電流の地面が出来上がった。当然雷に囲まれている大臣にも雷は降り注ぐ。
「ぐおっ」
やった!さすがに、これはくらったようだ。大臣は両ひざをついて、うつむいている。
というか、あれで倒れないのか!?
今のうちに警戒しながら近づいて、魔素感知だ。
俺は、大臣に近づき、大臣の体を調査する。一体どこに魔石を隠し持っているんだ?
瞬間 巨大な衝撃を体の側面から感じる。何もできず、そのまま吹き飛んでしまう。
何が起こった?
すぐに答えはわかった。
「ふう、やっぱり効くのぅ。お主の攻撃は。」
大臣が起き上がていた・・・
おかしいだろ!スタンガンよりも強い電流を当てているのだぞ!
吹き飛ばされた俺自身が、衝撃で体中がしびれている。
でも近づいて調査したおかげで、なんとなく解ったこともある。もう少し確かめないと。
距離をとって様子を見よう。腰に付けた風の魔石を起動する。轟音とともに体が浮遊感を覚える。
すぐに加速して、人では届かない空中へ到達する。少しずつ改良を重ね、短時間なら宙へ浮くこともできるようになった。
「ほう、次は空を飛びよった!奇怪な人間じゃ。噂通りじゃの。しかしそれで逃げたつもりか?」
大臣は地面を強く踏みつける。その反動で驚くほど浮き上がる。
しかしそれだけでは終わらない。もう一度空中をける。
衝撃的な音がなると同時にもう一度体が浮き上がる。
「!?嘘だろ。」
「それはこっちのセリフじゃの。」
驚いていると、一瞬で近づいた大臣に、気づくのが遅れてしまった。
できる限りの防御と回復を行う。
同時に言葉では表しきれない衝撃を受ける。
冷たい。固い。
俺は地面に倒れていた。