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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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ニッホン11

その日も問題もなく、いつも通り資料室へと向かった。

いつもなら一人で調査を始めるところだが、今日は珍しくキサイが先にいた。

「なんだか、お久しぶりですね。キサイさん。お加減はいかがですか?」

「確かにお久しぶりですな・・・体調はぼちぼちですなぁ。天守様の要望はこのおいぼれにはちときついものがありますゆえ。」

「お大事になさってください。それはそうと今日はいかがなされたのですか?」

「ええ、すこし気になることがございまして、タロウさんは最近勇者伝説以外もお調べになっているようですが、いかがなされたのですですかな?」

「ええ、勇者伝説を調べていると、自然と魔獣の情報が出てきますからね。自然と調べるはよ。」

「そうでしたか・・・いやはや、勇者と呼ばれる方々はどうしてこうも、伝説級の魔獣と相対するのでしょうね?」

「たしかに、タイミングがいいですよね。まるで魔獣と戦うために現れているみたいだ。」


タロウは示されている文献を読みながら会話をしていたせいで、キサイを見ていなかったが、その表情は恐ろしいものを見るような、悲しむような激しい表情をしていた。

何かを感じ取って、ふと振り返ってみたが、そこにはいつも通り笑顔を浮かべたキサイがいた。

「いやはや、真実は一体何なのか、研究のしがいがつきませんな。」

そういいながら、部屋を出て行った。


不思議に思いながらも複数人いるであろう勇者たち、ほかにも勇者と呼ばれずとも迷い人と呼ばれる人たちについての記述をあらさがししていく。

いつも通り、いつの間にか日は暮れていた。だけど十分な資料を読み込んで多くのことが分かってきた。

さすがは歴史も資料もある国だ。


ここまで分かったことをまとめよう。

まず勇者と呼ばれる人物は、複数人いること。

勇者は迷い人と呼ばれる元いた世界から流入してくる人々の内、功績を残した人のことを勇者と呼んでいる。

迷い人はみんな、謎の黒い穴に吸い込まれて、こちらの世界にやって来ていると考えられること。

迷い人は同じ時代を生きた人々ではなく色々な時代から現れていること。

時代の感覚は、近代に近づいていること。

つまり今の俺が、仮に元の世界に戻れた場合、そこまで時代のずれを感じることなく戻れる可能性は0ではない・・・


特に今回の調査で、関連があるのは、迷い人、黒い穴、伝説級の魔獣だ。


正直、謎の黒い穴については目撃例があるだけで、皆目見当もつかないが資料を読む限り、主にこの国の周辺で目撃例がある。

特に俺が現れた。始まりの森あたりは一番目撃例が多い。これから通ることもできるし、行ってみよう。


それから伝説級の魔獣。これは正直言って、危険すぎるがこれからのことを考えて調査を行っていった方がいいだろう。

それまで見ていた資料に合わせて、伝説の魔獣に関する資料も集めていく。

そんな姿を相変わらず見られているとも知らずに····


タロウがいつもの時間に資料室を出たあとキサイがやってくる。

「どうだ、なにを調べていたかの?」


何もなかったはずの影から人が現れる。

複数の書籍が示された。

「やはりというべきか、さすがというべきか、伝説の魔獣に関する出現時期や出現場所に関する本を集中的に読んでおる。やはり彼も気づいておるようだな。」

「いかがなさいますか?、ご要望とあれば、一晩のうちに消えてもらいますが。」

「何もせんでよい。今はまだ、様子見といこうかの・・・場合によっては使えるかもしれんからの。ほれ、これをみてみい。」

そう言ってキサイは数枚の羊皮紙をとりだす。

影の中にいる人は、キサイから渡された紙に書かれた内容に目を通す。表情はうかがえないが、少しの驚きを感じた。


「おぬしからすれば、ぱっとせんかもしれんが、難関であった体の魔石化に対し、一定の治療法を示した男だの。・・・特殊技能なようで修練が必要だが、確実に治療を行える者が増えてきておる。さらには大型ダンジョンを攻略するほどの実力者でもある。敵対しない限りは殺すに惜しい。」

影は何も答えず、いつの間にか気配を消していた。


しかし、どのように扱ったものか・・・何とか味方に引き入れたいところだが、組織にとらわれるような男にも見えん。最悪の場合は・・・

キサイは一人、思案しながら長く続く廊下を歩く。

「ふふ、キサイよ。悩んでおるようじゃな?」

「天守様!?どうしてここに!刀幻どのも!」

「なに、朕が散歩をしたくてな。刀幻もつき合わせたのだ。」


刀幻と呼ばれた男は軽く会釈をする。

「キサイ、影を使って何をしておる・・・いや、みなまで言うな。お主が何をしているか朕は知っておるぞ。」


そういいながら袖の長い着物で口元を覆う。その顔は明らかにクスクスと笑っている。

世界が違えば花魁といっても差支えのない恰好をしているが、この世界ではれっきとした姫の姿だ。

刀幻と呼ばれた男は、これまた派手な格好をしており、顔を完全に隠した全身甲冑である。

室内で全身甲冑もおかしいが、これが彼の普通の姿だ。

朱色の装飾でまとめた二人ともよく似合っている。


「天守様、天守様に隠すことなぞございません。今も、例の魔術使いが不穏な動きをしていないか監視させているだけにございます。」

「ふむ、そうであったか。して件の魔術使いは伝説の魔獣と関係ありそうか?」


!?


「だから言うたであろう。みなまで言うなと。全て知っておるぞ。いや全て視えて聴こえておったぞ。」

「では、迷い人と伝説級の魔獣の関係をご存じなのですね。」


無言の同意に冷や汗が止まらないキサイ

「それでどういたしましょう。」

「どうとはどういうことじゃ?」


「伝説級の魔獣と迷い人に一連の関係性はある。さらに言うと勇者と呼ばれる人がいるとき必ずと言っていいほど」

「お前はあやつが勇者とでもいうのか?、あの程度の者が」

「いえ、そのようなことは・・・しかし」

「心配あるまい、全ての迷い人が魔獣を呼び寄せているわけではない。格がいるのだ勇者にはな。」

うつむいていたキサイは視線を上げる。その視線の先には天守様・・・ではなく天守と呼ばれる女性の隣に立っている男に注がれる。


「ふふ、そう心配そうな顔をするな。キサイよ。勇者は迷い人がなるのであろう。この人は迷い人ではない。」

天守様はこれ以上は何も心配する必要はないと言わんばかりにしなやかな足どり歩いていく。


キサイはわずかに下げた頭からじっと天守の後をついていく男を見ていた。


また1週間後に投稿いたします

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