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ニッホン10

資料室を借りて勇者伝説について調べていく。

ここにきてわかったことは勇者とは呼ばれてはいないものの、なんとかなりの数の迷い人がこちらの世界にきて、この町を訪れていることである。


その中で、偉大な成果を上げているのが、勇者と呼ばれている人々のようだ。時代に明確な一貫性はない。しかし、証言などをさらっていくと、こちらの世界の時代が進むにつれて、元の世界の時代も進んでいるように感じる。時間の進み方まではわからなかった。


それからもう一つわかったこと。

伝説級と呼ばれている魔獣たちは一定の周期に現れては世界に大混乱を起こしていることだ。

特に厄介なのはたいてい大小かかわらず戦争の引き金になっていることだ。


「このままでいくと、今後数年間の間にドラゴンを含めた強力な魔獣が現れることになる。まるで地震だな。」

恐怖を含んだ声が静かにこだまする。

おのずと雪原で見た異常なほど存在感を放つ豹を思い出す。


それから、魔獣の復活に合わせて、迷い人が多くなっている。

しかも迷い人が多くあらわれてから魔獣が復活するのだ。これは偶然か?

これじゃ迷い人の存在が伝説の魔獣を呼び寄せているみたいだ。


だが、それはありえないことだ。元の世界からこっちの世界へ来たのは、不可解な黒い穴によって吸い込まれたからだ。

あの黒い穴は何なのか全くわからないが、迷い人が意図して魔獣たちを活性化させることはできない。

魔獣は魔石の何らかの影響を受けて魔獣化する後天的な現象だ。


やはり怪しいのはあの黒い穴だ。

あの穴をこちらの世界ではどのようにとらえているのだろう。

見つけた!

直接黒い穴についての表現はないが、それっぽい表現をしている描写は見受けられる。どうやらこっちの世界の人も、あれが何なのかはわかっていないようだけど、不吉の象徴ぐらいにとらえていたようだ。

魔獣が活性化しているタイミングで報告が増えているようだ。


結局のところ、理屈は全くわからないが謎の黒い穴と伝説級の魔獣の増加と迷い人の増加は関係性があるようだ。

新調したばかりのノートにどんどんと書き込んで行く。


おそらくのところ黒い穴は世界をつなぐ通り道になっているんだ。

その時、流れとしては元居た世界からこっちの世界に流れ込むような通り道だ。

流れ込んできたものに触発されて、伝説級の魔獣が起き上がる仕組みなのか?

複数の異世界転移者について調査していたら、伝説の魔獣について調べてしまっていた。まあ、こういうことはよくあることだ。


調べられている事をまとめたところで、視線を移すと、外は夜になっていた。

今日はタイムアップだが、これからも調査を継続していこう。

いつも宿泊している宿に戻ると、リルカが先に戻っていた。


「前よりは全然いい顔になってる。なんかいいことあった?」

「ああ、前は悪かった。おかげでいい感じに目が覚めたよ。」

「そりゃよかった・・と言いたいところだが、ちょいと問題があるかもしれねぇぜ。お二人さん。」

いつの間にか現れていたコイルが二人に声をかける。

「どうした何かあったのか?」


「どうしたもこうしたもねぇ。リベシア王国がイルルリス帝国に向けて宣戦布告した。」

「宣戦布告!?どうしてそんなことを!」

「理由はわからない。だけど兆候はあったんだ。近年は魔獣が活発化しているといわれていた。これは全世界的に発生していたことだが、王国はその影響を受けて、経済状況が悪かったんだ。」

「それで、状況を改善しようと、ということか」

「かもな。」

あまりのことに思考が停止する。


「この国も戦争に備えている。・・・といっても俺たちにはどうしようもないけどな。」

「どいうこと?」

それまで、熱心に話を聞いていたリルカがコイルに質問する。

「簡単な話さ、戦争を始めると決めた国は俺たちには止めようもないし、止まりようもない。俺たちはいかに影響を受けないように移動するか。そこを考えなければいけない。」

そうだ!確かに見知った国同士が戦争をするのは、なんかモヤモヤする。だけど重要なのは大事な仲間たちや知り合いが傷つかずに過ごせることだ。

まずはリルカを安全に元の村へ送り返さないと。


「タロウ、考えはまとまったか?」

「ああ、基本的にやることは変わらない。安全に移動して、ルーナ村まで移動する。今の時期なら始まりの森を通って、帝国の南側を移動すれば安全に移動できるはずだ。」

二人ともうなずく。

ニッホンは王国と帝国に接しているが、主要都市間の距離は遠いし、険しい山々もある。

さらに、隣接する土地に重要な土地はなかったはず。少なくともニッホンにいる間は安全で十分に準備可能なはずだ。


それにしてもなぜ帝国と王国は戦おうとしているのか・・・

「・・ロウ、タロウ!」

コイルに強く名前を呼ばれ、ハッとする。


「全く、お前の頭脳は特筆すべきものだが、そうやって考え込むと何とかしてくれ・・・で、どうなんだ?何か知っているか?」


「技術関係の偉い人と話をしていて、伝説級の魔獣の復活を警戒しているみたいだが、実際のところは何も分かっていないようだ。やっぱり魔獣が活発になってるぐらい?」

「伝説の魔獣ねぇ・・・砂漠で見たあのでっかいトカゲみたいなやつか?」

「正確なことはわからない・・・おおむねその予想であってると思う。」

「これ以上のことは、ここではわからねぇな。とにかくタロウ!気をつけろ。余計なことに首を突っ込むな!」

「わかった。もうすぐで知りたいことも終わると思う。そうしたら、すぐにこの国を出よう。」


そう言って井戸端会議は終了した。

参加者たちは自分たちのねぐらに帰っていく。あるもの達は自分の部屋に。とあるものはその国で一番大きい建物に・・・


そしてその大きな建物では・・・

「ほお、タロウ殿も伝説級の魔獣について調べておるようですな・・・さすが話題の魔術使いですな。」


しかし、能力が高すぎるというのも、罪ですな。ここまでの能力。数十年かけて知識の習得や研究をしていた者が身に着ける能力ですな。いやはや一回の冒険者がそれほどの能力を持っているとは単純な脅威ですな。

ここまでの頭脳。もしかしたら天守様の件も解決できるやもしれない。・・・実におしい。


勇者が作ったとされるこの国で、勇者が魔獣を活発化させていたかもしれないなんて、これはなんとしても隠さなくては・・・」


「じゃあ、今日も行ってくるよ」

タロウはそういって宿舎を出る。


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