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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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ニッホン7

昼食を取り、再び研究棟に戻る。


「ではさっそく、勇者伝説の話は一旦置いておいて、我々が使用している技術との交歓会をいたしましょうか。あ、ちなみに他言無用でございますよ。」

キサイは咳払いを一つすると、つらつらと説明を始めた。


「我々の技術・・・と言っても、私が開発したわけではないですが、魔石を砕いた粉末と、この土地で採取できる樹液を混ぜ合わせた物なのですよ。」

「樹液?」

「ええ、アレをご覧になられるとよろしい。」


キサイが指さした方向には窓があり、その先には半透明な細い木が立っていた。

「?、あれは・・・」

「我々もよくは分かっておりません。昔からご神木としてあがめてきました。科学的には木に魔石が浸食しているという事なのですが、なぜそのようなことが起こりうるのか、皆目見当もつかないのですよ。」

「確かに、動物に魔石が付着する現象ならば、幾度となく、様々なパターンを見てきましたが、植物と混ざりながら育つ状態は始めて見ました。あれはいつからあのような状態なのですか?」


キサイは首を静かに横に振る。

「わかりません。私も生まれてからずっと見てきました。しかしあれはいつの間にか生えてきて、あのように育っていくのです。種などは確認されていません。」

「そう・・・ですか・・・」

ますますわからない。途中から魔石に浸食されるならまだしも、最初から魔石を体の一部として、育つなんて・・・しかも正常に。


やはり魔石にはまだまだ分からないことが多いな。

ぼんやりと不思議な木を眺めていると、いつの間にか目の前にドロッとした液体が入った小瓶が置かれた。

「これは、あの木から採取された、樹液をもとに・・・具体的な製法はお話しできませんが、砕いた魔石を加えて生成した塗料です。巷では魔塗なんて呼ばれていますね。」


これが・・・あの不思議な模様の正体・・・

半透明な色で虹色の光を反射している。粘性が高く、指で掬うと、ゆっくりと小瓶に落ちていく。まるで水面に浮かぶ油のようである。

そして、指につぶつぶとした感触。魔石を砕いた事がわかる。

「我々はこの液体を武具に塗布し、焼き付けや、・・・具体的にはこれ以上言えませんが、加工を行うことで、魔術を発動する武器を作り出したのです。これは我々の国における特産技術であり、国家機密でもあります。・・・しかし・・・」


「そこで、俺の存在、いや俺が使ったこの杖が気になるといった事か・・・」

「はい、我々の機密が漏れていることはありません。それに、見たところ微妙にやっていることが異なるように見えます。一体それは何なのですか?」

「これは、砂漠の町プエトで・・・」

俺は砂漠の村であった事を話す。隣で聞いていたリルカは、懐かしむように耳を傾けていた。


「なるほど液体魔石・・・そのような物が発掘されたのですね。」

俺は関心を持って聞いているキサイに実物を見せる。キサイは俺から実物を受け取ると、見比べるように自分たちの魔塗を観察する。


じっくりと見つめながら何かを思案し始める。

キサイは深く考え込む。眉間の皺が深くなる。

「タロウ殿、よければ少し、これを分けてもらうことはできますかな?」

「ええ、かまいませんよ。やはり気になりますよね。勇者の使っていたかもしれない物なんて・・・」

「ええ、勇者が作った国として見過ごせません。」キサイは鋭い眼光を輝かせながら液体魔石を観察していた。


それからも、勇者に関する事柄について意見交換や技術に対する議論を行った。

久しぶりに学術的な議論もできたので非常に楽しかった。やはり俺には戦闘をこなすよりも、技術開発をしていたほうが、性に合っている。


辺りが暗くなるころには、一区切りつけ学術院をあとにした。

帰り際、明日から、書庫に所蔵されている一部の記録は読んでもいいとお達しが出た。これもまた俺のテンションを上げた。


「タロウ。、楽しそうだったね。」

リルカは手を後ろに組みながらぽつりとそういった。

「そうか?まぁ確かに、あんな感じで話したのは久しぶりだったからな。それが理由かもしれない。」

「そっか・・・いいなぁ私もそんな会話がしてみたい!」

「すぐにできるようになるさ、今はまだ知らないことが多いだけで、熱中できるものができれば、おのずと語りたくなると思うよ。」


宿泊地に戻ると、コイルがすでに待っていた。

「早いな、もうなにかわかったのか?」

「逆だ、逆。 この町の人間は排他的だ。何にも語ろうとはしねぇ。みんなバラバラな人間なはずなのに、まるで一つの生き物みたいな奴らだった。正直ここまでくると気味が悪い。まともに話してくれたのはギルドの受付嬢だけだったよ。」

「そう・・・か。こっちは早速、勇者伝説についていろいろ知ることができた。それに、面白い物も見れたぞ。」

「面白い物?」


俺は演習場で見た魔塗について話す。

「驚きとともに楽観視できない情報だな、それは」

「そうか?似たようなことやっていたと、ちょっとした感動だぞ。」

「お前にとってはな・・・しかし、国からしたらそうではない。」

「どういうことだよ・・・」

「いいか、よく思い出せ。魔塗といったか?この技術は伝統的に続けてきたことで、同時に今でも一線級の武力であり秘匿技術なんだ。そんなものが、他国から自然に湧き出て、さらにはそれを武器化する魔術使いがいるっつう状況だ。お前が国の頭ならどうする?」


そこまで考えもしなかった。俺はただ単に技術交流ができる事実にうれしくなりなんでも間でも話していた。

「・・・わかったよ。一応警戒はする。」

「ああ、こっちも、いつでも国を出られるように準備する。それからもう少し情報集めを粘ってみようと思う。国の奴らがだめなら、外からきている冒険者連中だ。やっぱりギルドは国とは少し違うようだ。」

そうして、一日が過ぎていった。


次の日からリルカはコイルと一緒に行動してもらうことにした。

そっちのほうが何かあった時逃げやすいという理由からだ。

今日も技術院へ向かう。

入り口ではキサイがすでに立っていた。


「おや、今日はあのお嬢さんはいらっしゃらないのですな。」

「もう一人仲間がいましてね。彼女は社会見学中なので今日はそっちで勉強会です。」

「なるほど、それは殊勝なことですな。それではこちらはこちらで昨日の続きと参りましょうか。」

「ええ、今日は勇者の日記についてよく見てみたいです。」

「よろしいですぞ、それではこちらへ」


案内された場所は大量の書籍が陳列されている戸棚だった。比較的新しいように見える。

「ここは古い書物の内容を書き写した、書庫になります。なにぶん本はどんどん劣化していきますからな。このように時折書き写して保存しているのですよ。」

「へー色々な本がありますね、とても興味深そうだ。ぜひ隅から隅まで読んでみたいものです。」

「後でいくらでも読まれるとよろしいでしょう。それよりも本日のお目当てはこちらですぞ。」


キサイに促され、書斎の奥に設けられた、小さい部屋へと入っていく。そこには厳重に鍵がかけられ保管された棚があった。

棚にかけられた錠を外し、中から一冊の手帳が取り出された。少々、汚れてはいるものの、まだ十分に読むことができる。


勇者の残した日記帳そのもの。ようやくだ。

俺はずっとこれを探し求めていたのだ。

日記を手に取り、ゆっくりと開く。


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