ニッホン4
天の黒目?
どこかで聞いた名前だ。何処だったか・・・
そうだ!アラスオートで聞いた話だ。
「たしか・・・アラスオートで勇者と戦った、ていう伝説級の魔獣。ドラゴンの姿をしているらしいけど・・・正直、そんな姿をしているかは疑わしいですがね。」
「我々も一度も見たことはありません。しかし、私たちはその言い伝えに注目していましてのぅ。」
「何かあるのですか?」
「はい、よく話されている昔話は勇者が現在のアラスオート付近でドラゴンの魔獣と戦闘し、かの地から追い払うというお話ですな。あの話には続きがあります。」
「そうなのですか!ぜひお聞きしたいです。」
・・・と言うより、勇者とドラゴンの魔獣の話はアラスオートのギルドの地下にある石碑に書かれていたことだ。どうして知っているんだ?
「どうして、勇者とドラゴンの魔獣の話を知っているという顔ですな?それは、貴方の追い求めている物がこちらにあるからですな・・・」
そう言って取り出されたものはボロボロになった小さい本だった。
「そ、それは・・・勇者の日記!どうしてそれを・・・」
突如として目の前に現れたそれに驚きを隠しきれない。
「いやはや、だまして悪いと思うっておりましたが、今までの質問はタロウ殿のテストだったのですよ。」
「テスト・・・?」
言葉の意味を飲み込めない。
リルカは明らかにうろたえている俺を見て、驚きと同時に冷静になることができたようだ。静かに俺達の会話に耳を傾けている。
「腐っても国の機関ですからな。例え 400 年前の歴史であっても,、それを悪用されたり見ず知らずの者に話をするわけにはいかないのですよ。」
「それは・・・確かにそうですが、ではアラスオートにおける記述も事前に知っていたと?」
「こちらの日記にもアラスオートでの行動が記載されていました。タロウ殿に語っていただいた事実も概ね整合性が取れています。」
「そこまでわかっていたなら、それ以上何を俺から聞きたいのでしょうか?」
手のひらで踊らされていた事実に一抹の怒りを覚えつつも、同時に頭が回るようになり、冷静になることができた。相手の思惑を探る事に集中しだす。
「一つは整合性をとりたかったわけです。どのような視点からも同じ事が言えればそれ以上の正しさはありません。特にタロウ殿は日本語が読める貴重な存在です。それから、無礼を承知の上で、お願いしたいことがございます。」
キサイは離しているうちにヒートアップしていき、いきなり頭を机に打ち付けた。あまりの展開についていけない。
「この国の危機を救っていただきたいのです!!!」
・・・果たしてこういう時一体どうすればいいのだろうか・・・
目の前には明らかに身分の高そうな高齢の男が頭を机にこすりつけている。俺の後ろにはあまりの事に、思いっきり引いている十代後半の女の子。
はたから見れば完全に異様で、形容しがたい状況だろう。
それにしてもこの国を助けてほしいか・・・前にも似たようなことを聞いたなぁ。
異様な事態から眼をそらすように、記憶を振り返る。
またもや同じ事を言われるなんて、そういう星の元にでも生まれたのだろうか?
「とりあえず、頭を上げてください。助けてほしいとはどうゆう事のなのでしょうか?」
「はい、といっても差し迫って強い脅威が差し迫っているわけではないのです。あなたの意見が聞きたいのです。」
「意見?私程度の知識で助言できるようなことがあるのでしょうか?」
実際、工学に関する知識以外はからっきしだ。
特にこの人の立場を考えると政治的なことも絡んできそうな感じがする。
政治なんて畑違いもいいとこだ。
「助けていただきたいのはこれの解読です。」
そう言って差し出したのは俺がずっと追い求めていた勇者の日記である。
しかし彼らは、これの内容を使って俺を試したのだ。今更解読する必要なんてあるのだろうか?
それに日記の解読が国を助けるとは?
「この日記は我々にとっても大事なものです。何せこの国の成り立ちを記載した書物になりますから隅々まで知っておく必要があるのです。しかし、昔の言葉で記載されていますから読み解けない箇所があるのです。それから気になる箇所が一つ・・・」
そう言って見せてきたのはかなり序盤に描かれている文章だった。
これを見せながらキサイは説明を続ける。
「この国は勇者が伝説級の魔獣である、通称ドラゴンを倒した土地になります。伝説級の魔獣は複数体存在することが知られていますが、ドラゴンはその中でも最強だと言われています。」
知らなかったドラゴンはそんなにも強いのか・・・
「ドラゴンの凄まじさたるや留まることを知らず、周辺の草木を枯らし、気温を乱高下させ、太陽を隠す。果てには周辺の魔獣や亜獣を暴れさせ、文明を滅ぼすと言い伝えられております。」
「すごいですね。はっきり言って信じがたい事だ。でもそこまで読み解けているのであれば、後は何が分からないのですか?」
「国家として危機の兆候は捉えられるようになっておきたいのです。どんな兆候があったのか詳しく知っておきたいのです。」
やたらと昔の情報を信用しているのだな・・・いくら国にとって大切な資料だと言っても、 400 年も前の資料だ。信憑性だって高くはないだろう。
もしかして他に何かあるんじゃないか?いくら危機に強くなりたいからと言ってそこらへんの冒険者に国家の大切な資料を見せすぎな気もする。他の国では一冊の本を読むのに国家の利益になるような大きな仕事をこなさなければならなかったのに、こんなにも簡単に見せてくれる・・・少しカマをかけてみるか




