ニッホン2
「そ、それは本当なんですか?」
「ああ、この国は盛んに外交を行っているわけではないから、あまり知られていないことなのじゃがな。」
「そうなの・・・ですね。」
それは、つまるところ、勇者は元の世界に変えることは無かった?
ぐるぐると思考が回り出す。会話に一瞬の間が生まれる。
その瞬間に、コイルが切り込む。
「さっきから黙って聞いているが、いまいちあんたらの狙いがわからねぇな。結局のところ、俺達に何をさせる気だ?」
「はは、ここまで話しておいて面目ないもないのじゃが、我々もすべての歴史を知っているわけではないのじゃ。だから君たちの力を借りたくての」
「それだと俺たちの集めた情報を与えるばっかりで、こちらに利益がねぇな」
「もちろん、タダでとは言わん。それ相応の報酬を払おう。それに公開できる資料はこちらからも公開しよう。」
「どうしてそこまでする?真剣なあんたらには申し訳ないが、言ってしまえば歴史だろ?」
「国家の成り立ちを語れることは大事じゃ! まぁ他に理由がないこともないが、お前さんたちにはどうしようもないことだ。」
勇者が元の世界に戻れなかったんじゃないかと考えると、うまく思考がまとまらない。なんだっけ?俺たちにはどうしようもないことだっけ?なんだそれは・・・
「どうするよ、タロウ?」
どうしようもない事にグルグルと回っていた思考がコイルによって引き戻される。
「ああ、受けてもいいじゃないか?そんなに悪い話じゃないと思う。」
「おまえがそれでいいならいいけどよ。」
コイルは、何か言いたそうな顔をしているがここは引くようだ。
「うむ、協力。ありがたき幸せ。それでは準備ができ次第、呼びに行く。それまでは宿舎で待たれよ。」
宿舎に帰る。明らかに様子がおかしい俺にリルカとコイルが、心配になって声をかける。
「タロウ、大丈夫?」
「え?、あ、ああ、大丈夫だ。どうかしたか?」
「おいおい、明らかに大丈夫じゃねぇだろ。こっちだってお前とはそこそこの付き合いなんだぜ。」
「・・・流石に分かっちゃうか。そうだな。確かにちょっと動揺していることはある。」
「よし!話を聞きながらとりあえずは、飯を食うか。腹が減っては何とやらだ!」
俺はコイルとリルカにどうして勇者伝説を追っていたのか、そして今直面している考えを詳細に話した。
「おいおい、そんな調べてもねぇ、わからない事を気にしているか?」
「あのな! 俺にとっては重大なことだったんだよ。」
「タロウはこの世界が嫌いなの?」
不安そうな目を向けるリルカ・・・
そんな表情を見て思い出す。
そうだよな。
前に自分で確認したじゃないか・・・あちらの世界に帰って終わりじゃないって・・・
「嫌いじゃないよ。大丈夫ちょっと驚いただけだから。」
「そうだぜ!お前は魔術使い通り越して、魔法使いの領域まで見えてきてるんだ。その力で自分で異世界への門を開けばいいじゃねぇか。」
「自分で開く?自分で開くか・・・」
考えてもみなかった。自分で開くなんてできるわけないと、思い込んでいた。しかし、それこそやってみないと分からない。
俺は元の世界からここにいる。もう懐かしい記憶だけど、俺はあの黒い穴を通ってこの世界に来たのだ。
この世界はともかく、元の世界には魔術だの、魔石と言った物はない。物理現象はしっかりと存在するのに・・・
ならば魔術を利用して解決できる可能性はある!
正直言ってかなり無理はあるし、現実的に考えて生きている間に解決できるかどうかも分からない。
それでも挑戦する価値はある。それこそが科学の探求!
二人に話したおかげで、知らず知らずのうちにやる気が回復するどころか、湧き上がってきた。
ひとまず、この国の歴史研究に触れられそうなので、都合よくそれを利用させてもらおう。
「おい、タロウ! お前は分かりやすいからな、やる気が回復したのはいいけどよ。この国の、特に政治家の言い分には気をつけろよ。正直言って俺はまだあいつらが何か隠しているんじゃないかって疑ってるぜ。」
「確かに!だけど今の俺達じゃ、どうしようもない。とりあえず、俺が中心となって彼らに協力しようと思う。その間に別の方向性でこの国の内情について調査を頼めるか?あと勇者伝説も・・・」
「あいよ、それこそ俺の真骨頂だぜ。」
コイルは力強く握りこぶしを見せる。
「リルカ、君は今回、俺の方についてきてくれ、周りの人を良く見て、何かあったら教えてほしいんだ。」
「おっけー。」
「良し!とりあえず、わからないことも多いけど、明日から頑張ろう!」
「「おおー!」」
二人に勇気づけられ、その日は解散となった。
政府が用意してくれた宿は一人、一部屋となっている。
一人になってからは新しく始めたいと思っていた事に挑戦し始める。
イアンの奥さんに言われた事を思い出していた。
失ってしまった体の一部を取り戻す。元の世界でもまだ実現していない医療・・・
科学が未発達なこの世界で実現できるはずがない。
だが一抹の希望はある。
それは肉体の魔石化だ。
今までは病気として扱ってきたが、逆に利用できるかもしれない。
一部の魔石は肉体に融合したのだ。つまり細胞と魔石は反応性が高い。
更に回復の魔石!これは全く理屈は全く分からないけど、怪我の回復ができる。つまり何らかの形で細胞に影響を及ぼすのだ。この二つを使えば可能性は・・・なくはない。
俺は工学分野出身だから詳しくは知らないがIPS細胞みたいなやつ・・・万能細胞っていうんだっけ?取りうる手段は数多くある。
頭の中の断片的な記憶を手繰り寄せていく。そういえば、元の世界から持ってきた数少ない物の中に理科の辞典みたいなものがあったな・・・
何年かかっても実現させたい。
時代はずれの挑戦が、粛々と始まった。




