アラスオート-11
2~3日、図書館に篭って調べてみるが、400年前に存在した勇者に関する目覚ましい結果は得られていなかった。
「オイオイ、タロウ。何にも、載ってねぇじゃねぇか・・・初めて国立図書館なんて入ったが、こんなにも何もない場所なのか?」
俺の同伴者ということで、国立図書館に入ることができたリルかとコイルは、最初こそ本の多さに驚嘆しつつも、相反する勇者情報の少なさに再び驚いていた。
「確かにこの街の図書館は、少しボリュームが少ないが、極端に少ないということは無い。どの国でも具体的な勇者伝説に関することだけ異様に少ない気がするな・・・」
「こんなのはどう?」
そう言ってリルカが、持ってきてくれたのは ’姿見’ と書かれた、厚みの無い雑誌のような本だった。
しかし、その薄さに反して、内容は貴重な内容が載っている。
本のタイトル通り、勇者一団の背格好が記載されていたのだ。
本当かどうかは分からないが、勇者の姿は一般的な高校生といった感じだ。しかし、異様なものが二つある。それは身の丈ほどもある大剣と立派な鎧だ。
まるでゲームでよく見る勇者の姿だ。
本当に日本出身を感じさせる、いで立ちである。
他にもシスターのようでグラマラスな女性、大きい弓を担いでいる男性。複数の剣を装備した長身の女性。
魔術を使っている雰囲気がある男性、他数人で勇者パーティは構成されている。
文章による説明は極端に少ないため、パラパラとページをめくっていると、一枚の紙が出てくる。
その紙は今一番探していた物だった。
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〇月×日
今日は決戦の日だ。
この日のために入念に準備をした。
はっきり言って強い。
だけど仲間は誰も死なせたくない。
あのドラゴン型の魔獣はまだ何か隠しているに違いない。
だけど俺達ならば・・・
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その後も魔獣に対する意気込みがつらつらと書かれていた。
それにしてもドラゴン!?
本当にそんな生物が存在するのか?
だけど400年前の勇者。彼は十中八九、日本出身だ。
ならばドラゴンがどういう物かしっかりと知っているはずだ。
ならば本当にドラゴン型の魔獣が存在するのか?
「それには何が書いてあるの?」
リルカが隣から覗いてくる。
女性特有の甘い香りが遅れてやってくる。
リルカ達は日本語に似た言語を使っているが、似ているだけで日本語を知らないと読むことはできないだろう。
「日本語という言語で書かれている。俺が昔いた国の言葉だ。勇者が昔にいた魔獣と戦う前の日々が書かれているようだ。」
「ふ~ん、なんか読めそうで読めないね。裏にも何か書いてるよ。」
リルカの言葉通り裏側にもびっしりと書かれていた。
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〇月× + 10日
失敗した。俺のせいだ。
俺がもっとアイツのことを調べればよかったんだ。臆せずに飛びだせばよかったんだ。
そうすればタクミは死なずに済んだんだ。皆も怪我をした。気にしてないって言ってるけど、そんなの絶対嘘だ。
結局、ドラゴンを倒すこともできず、街もボロボロになった。
俺はいったい何のために戦っていたんだ・・・
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そこから先はひたすら懺悔の言葉が続くだけだった。
見ているのがつらくなる。
結局分かったことは、ドラゴンは強力な魔獣であること。戦闘は苛烈を極め、討伐には至らなかったこと。ドラゴンはこの街から北西へ逃げたこと。戦闘の結果、仲間が死傷した事。
しかも死亡したのは名前から、同じく日本から来た人っぽい。
結局、それ以上のことは分からず、疑問が増えるだけの結果となってしまった。
資料を模写し、図書館を後にした。
「ところでよ、次はどこに向かうんだ?」
図書館からの帰り道、コイルが明らかに、疲れたと言った感じの声で聞いてくる。
「そうだな、つぎは勇者の日記に描かれていることを追って北西方向に向かおうと思っている。」
「ここから北西になるとニッホン合衆国だな。あそこは閉鎖的な国だからあんまり知っていることがないんだよなぁ~」
コイルが、困ったように話す。
確かにあの国に関することは、噂を聞かない。
でもその国の名前は明らかに元いた世界に似ている。
日記に描かれている行程的にも行かないわけにいかない。
かなり距離があるし、しっかりと準備をしてから向かいたいところだ。
「ところでコイル。お前はこのままついてきてもいいのか?はっきり言って、お前ならこの町でも、十分に稼いでいくことができるだろう?」
「なんだよ。水臭いこと言うなよな。ここまで乗りかかった船だ。お前の探している勇者伝説ってのを、俺も探らせてもらうぜ!
それに情報屋としては、おとぎ話とは全く異なる勇者伝説ってものにも興味もあるし、何よりお前といると結果的に稼げる!お金的にも・・・情報的にも。」
「そうかよ。これからもっと激しい旅になるかもしれないぜ!それでもいいってならこれからもよろしくな。」
数日後、方針を決めた俺達は次の旅に向けた準備をしていた。
「タロウ、次の街へはかなり距離がある。それなりに水や食料を買っておいた方がいいぞ。」
コイルは羊皮紙に書かれた発注表に目を通しながら、話しかけてくる。
「了解。だけどそんなに買い集められるかな?この街は魔獣との戦闘で物資を大量に消費してしまって、結構物価が高いんだよな。」
荷物を馬車に詰め込む。
今回の戦闘報酬で得た資金を元に、より大きな馬車を購入した。
大量の荷物を積み込めるようになった。
ちょっと心配なのは魔導三輪として引ける重量が、かなり限界に近いという事だ。
より性能が出る魔導三輪が欲しくなる。
次のニッホンに赴いた後は、一度、帝国を訪れて改良を施すか、新型の製作依頼でもしてみようかな。
懐かしい帝国で出会った面々を思い出していると
「ご飯どうしよねぇ~」
特に何も考えていなさそうなリルカが荷物を運んでくる。
「その話、解決方法があるんだが載らないか?」
我々ではない声が聞こえる。しかし確かに聞いたことがある声だ。この声は・・・
服の片腕に腕が入っていない男、そうイアンである。




