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アラスオート-10

気が付くと濁った色の天井が見えていた。

なんだか久しぶりの感覚に既視感を覚える。

かたい簡易的なベットで体を起こし、外の景色を眺める。

牛の魔獣はどうなったのだろうか?

俺自身こうしてベッドで寝ているという事は、少なくとも戦闘は終了しているはずだ。

意識を失う直前に見た魔獣は完全に絶命していた。だが、しっかりとは確認していない。

少し心配だ。

ぼんやりしていた意識は、先の戦いを思い出すたび、はっきりとしていく。


もう一度、辺りを見回すと、タイミングよく、頬を膨らましたリルカが部屋に入ってきた。

戦闘の前にした、約束を思い出した。かっこよく、ケガしないで戻ってくるとか、言っていたはずだ。

自分の状態を見て、自分で笑えて来る。

「すまない、どれくらい寝ていた?」

「一日だけだよ。それより、約束覚えてる?」

「ああ、だから・・・申し訳ない。少しだけ・・・約束、破っちまったな。」

「もう! いいよ。すぐに目を覚ましてくれたし、タロウのおかげで”勝てた”ってみんな喜んでいたよ。」

リルカはわかりやすく頬を膨らませる。そして今一番欲しかった情報を手に入れる。

「そうか、それは良かった。」

それから、ようやく気が付いたが、正面ではコイルがうたた寝をしている。

腕を組み、両足を大きく広げながら、よだれを垂らしていた。

アイツにもまた迷惑をかけたようだ。


コイルはリルカにたたき起こされると、ひとしきりに怪我の状態を聞いて来た。

なんともないと、話すと安心したのか、俺が意識を失った後の状況を説明してくれた。

牛の魔獣との戦闘は、連合部隊の勝利となった。

戦闘における死者は、数名発生してしまったが、当初想定していた数よりも、ぐっと少なかった。

連合体を率いていた者達は大変喜んだ。


結局のところ、魔獣は度重なる罠と爆発により、徐々に体力をすり減らし、最終的には俺との戦闘で絶命した。

魔獣は体中が焼け、体に生えていた魔石はすべてはじけていたらしい。思いつきでやった事とは言え、恐ろしい威力だった。

総合的には連合体の大勝。


報酬は参加した傭兵や騎士団にしっかりと支払われたとのことだが、俺には特別な報酬が支払われる。

一通り聞き終わると、病室の扉が音を立てた。

前にもこんなことあったなと軽い既視感を覚えながら返事をする。

入室してきたのは街の長である、ロール隊長であった。

「加減はどうだタロウ殿?」

「タロウ殿?、今まで通り、タロウでいいですよ。それと体は問題ありません。もうほとんど回復しています。」

「そうか、ではタロウ。改めて魔獣討伐の礼を申し上げたい。本当にありがとう。」

そう言いながらロールは深々と頭を下げた。

「頭を上げてください。皆さんが私のところに、魔獣が来るまで消耗させてくれた。おかげでじっくりと相手を観察する暇がありました。皆さんのおかげですよ。」

「そう言っていただけるとありがたい。では報酬の話だが、事前に話していた金額に、確かに勇者伝説だったか?」

「そうです。ぜひ、知っていることを全て教えていただきたいです。」

「どうしようか?ワシの知っていることでよければこの場で伝えてもいいが・・・」

俺は自分の恰好を見返した。

流石に人にものを聞く格好ではない。メモを取る道具も持ち合わせていないし、日を改めた方が良さそうだ。

「でしたら、後日もう一度おたずねいたします。」

そう言って、ロール隊長とは別れた。

ようやく、次の勇者伝説にたどり着きそうだ。


数日経ち、俺達はギルドを訪れた。

「おお、待っていたぞタロウよ。ではさっそく話をしようか」

「すみません。お仕事の方は問題ないのですか?」

「よいよい、そんなことより、大魔術師様の相手をすることの方が大事だ。」

ロールさんは、非常に期限がいい。

「止めてくださいよ。俺はそんな大した者ではありません。」

「また謙遜を・・・ほい、まずは金品の報酬だ。」

かなりの宝石と高純度の魔石が運び込まれる。リルカやコイルはそれだけでかなり目を輝かせている。


この世界には共通の貨幣やそれに準ずるものは無い。

結局のところ、どこでもお金に変えられる物となるとこういった宝石や貴重鉱物になる。

それらを受け取り、さっそく本題に入る。

「それで、勇者伝説だが、知っての通りこの街には言い伝えのような物がない。

と言うよりはこの街の成り立ちそのものが言い伝えのような物だ。」

「聞いたことがあります。天の黒目というものですね。」

「いかにも、そのおとぎ話はこの街の真実なのだ。より正確には飛翔する魔獣による国家存亡の危機についての話だ。ワシも半信半疑・・・だがな。」

ロールさん曰く、街の歴史はこうだ。

魔獣とは一般的に巨大で重量が重くなる傾向にある。そんな奴は空を飛ぶことなんてできないはずだ。

しかしその魔獣は空を飛んだのだ。

体色は黒色に近く、鱗のような物に覆われており、口から高温の炎を吐き全てを焼き尽くしてしまったそうだ。

高速で移動し、移動した衝撃だけで全てを吹き飛ばす。

結果として街は壊滅状態となり、国家が滅びようとしていた。

そこに表れた勇者が激闘を繰り返し、その魔獣をこの土地から追い出すことに成功した。

その後に再建されたのがこの街と言うわけだ。

「これを渡しておこう。」

そう言ってロールさんが手渡してきたのは街が運営している図書館への紹介状だった。

これがあれば街に残されている書物を読み放題だ。

「それからもう一つついてきてほしい場所がある。」

ロールさんはそう言うとゆっくりと立ち上がった。


案内された場所はギルド本部の地下だった。

「ここには勇者伝説に関係するものが収められている。」

部屋に入ると、さっぷうけいな部屋の中にポツンと台座が収められていた。台座には折れた両刃の剣が収められていた。

剣は完全に錆びていて使い物にならない。

刃には幾何学模様が描かれている。

この模様は液体魔石によって描かれたものだろう。

勇者は剣に魔素を流して戦っていたのか?それができれば、様々な物理現象を使いこなして近接戦闘がこなせそうだ。

他にも調べてみると、台座に言葉が残されていた。

『ここに共に旅した友と、誇りと、相棒をたたえる』

日本語で書かれたその文章を声に出して呼んだ時、後ろで聞いていたロール隊長は、やはりかと言った感じで口を開く。

「おとぎ話は史実をもじったもので間違いなさそうだな・・・壊滅的な被害を出した戦闘だったと記録されておる。どうやら勇者の友も亡くなったみたいだな・・・」

「そのようですね。どうして、この折れた剣だけがギルドの地下に厳重に保管されているのですか?」

「理由は二つある。一つは歴史的な価値が高いが高いからだな。そこに書かれている言語はワシには読めんが、お前さんのように博識な者ならば解読できる。

もう一つは、その剣はいまだに力を持っていると言われている。私に定かではないがな・・・」

「これがまだ力を持っているだって?」

とてもそうは見えない。剣は錆びているし、刃に描かれた模様もところどころ欠損しているし、ボロボロとひび割れている箇所もある。

「良ければ、触れてみても?」

俺はロールさんに向き直り、確認を取る。ロールさんは無言でうなずき返した。


俺は柄の部分を優しく握る。特に何も起こらない。

今度は軽く、魔素を流し込んでみる。結果は・・・・・何も起こらない。

やはり、魔道具としては完全に破綻していた。

「どうだ?」

「安心してください・・・であってるかは分かりませんが、この剣自体は完全に機能を停止しています。」

「そうか・・・良かったような、残念のような気分だな。」

見た感じは落胆の方が大きそうだが・・・おそらく力が残っているという噂を流すことで、宗教的な支柱にでもしたかったのではないだろうか?


それにしてもこの劣化具合。今となっては確かめる手段が無いが、過去の戦闘の結果、相当魔素を消費したみたいだ。

その後もしばらく調査して、スケッチに起こす。それが終わった後は、紹介状をにぎりしめ国立図書館に向かった。

図書館は非常に新しい建物で、ロールさんの話や館長の話によると、昔の書物はあまり残っていないらしい。それでも残っている数少ない資料を集めて読み込んでいく。

過去に行われた戦闘記録や、人口統計、あまりこだわりを持たず、調べていく。

やはりというべきか、当然というべきか。有力な情報は探すことができない。




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