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オタク、線をまたぐ  作者: 物理試す


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アラスオート-8

シューシューと到底考えられない量の蒸気が魔獣の・・・魔獣に付着した魔石から噴出していた。

「おいおい、そんなもんは知らないぞ。しかもなんて量出しているんだ。」

体中から発生している蒸気は辺りに立ち込め、霧が立ち込めるほどの蒸気だ。

まさかその蒸気の噴出で底なし沼の中で活動していたのか!?

真相は確かめようがないが、とにかくただの炎や矢は効かないようだ。

だが、まだ試していない物がある。


俺の電撃が残っている。

電撃はしっかりと効いていたが、あの蒸気がどれ程、雷撃を減衰させるか分からない。

それでも一つずつ確かめていくだけだ。幸いにも足かせはまだ残っている。外れかかってはいるが、まだ何かに使えるかもしれない。


「まだだ!ヤツの動きはまだ鈍い。この隙に毒矢を打ち込め。」

誰かの掛け声と共に隠れていた傭兵集団が、大量の毒矢を打ち込み始める。

降り注ぐ矢を見た魔獣は続けて蒸気を吹き出した。

あまりの蒸気量に矢の軌道が変わり、魔獣に当たることなく地面に落ちる。

更に矢を打ち込み、油の入った小樽なんかも投的機を使って投げ込まれるがやはり軌道が変わり、爆発すら、その形を変えて自らを守った。

発生する蒸気は留まることを知らず、その姿を隠すほどだ。このままではいけない!魔獣を見失ってしまう。

地面に落ちていた矢を拾い、風の魔石を使って全力で打ち込む。ギリギリ、その皮膚に到達した矢は魔獣の皮膚を鋭く切りつける。

この程度の傷では倒すことはできないが問題ない。この矢に塗っている毒は少しでも入り込めばしっかりと効くものだ。これの効果で少しでも蒸気が弱まってくれるとありがたいのだが・・・

一瞬魔獣は片足をついたかのように見えたが、すぐに起き上がりものすごい力で足かせを外し突進を繰り出してきた。

腰の風魔石を発動し、高速かつ大きく避ける。

どうして毒が効いていないんだ?


突進は続く。蒸気量が増え、辺りに靄が立ちこめ始めた。

突進してくる魔獣を避けながら、観察を続ける。

見てみると魔獣の体表に汗のようなものが見て取れる。

まさか、劇薬を代謝で克服したとでもいうのか!? 魔獣、何てでたらめな生物なんだ。

火炎も毒も効かない。

正直、この場で撃てる手があまり残されていない。後は的確に弱点に向かって、俺が持つ電撃を与えなければいけない。

周りには何も効かない現実に恐怖が伝播している。少しでも鼓舞しないと。

「大丈夫だ!まだ手はある。諦めるな!」

いつの間にか現場に来ていた騎士団の団長も同じ事を考えていたようだ。

しかし、魔獣は拘束を解かれ自由に動き回るようになり、体から発生する蒸気で遠距離攻撃を弱められるヤツにどうやって攻撃を当てるのか・・・

そんなことをごちゃごちゃと考えている暇は与えないと言わんばかりに、激しく突進を繰り出す。

反応が遅れ、風の魔石を発動する間もなかったが、何とかギリギリ自分の力だけで躱すことができた。

・・・ん?どうして躱せたんだ?

今までなら掠ったり、風の魔石を使わないと回避できなかったはずだ。


牛の魔獣を見ると荒い鼻息を上げている。明らかに以前見た状態とは違う。どうやら今までの行動は無駄ではなかったようだ。少なからず疲労やダメージは溜まっている。

あきらめてはいけない、まだまだだ。


蒸気は濃くなり遠くを見ることはできなくなりつつあった。

このままではこっちが先にやられてしまう。と言っても電撃のためにクロスボウの矢を当てる方法は限られている

あの蒸気を押しのけて矢を届かせるには、風の魔石を用いて蒸気を吹き飛ばすぐらいしかない。そうと決まれば実行あるのみだ。

俺は背部に装備した風の魔道具に魔素を流す。狙い目はカウンターだ。

突進してきたところを躱して至近距離から打ち込む。

覚悟を決めて牛の魔獣へ走り出す。呼応するように魔獣もまた走り出す。

両者が接触するその瞬間、背部の魔石をより強く発動した。


自然には考えられないような軌道で体を回転させた。不思議と、意識がはっきりし物の動きがゆっくりとなる。

魔獣と目が合い、その視線が交差した。

僅かに残された片角が動いたように見えたが、それよりも早く俺が飛翔軌道を変える。

体に強い力がかかり、自分の身体能力以上に体が沈み込む。

見事に魔獣の体の側面に回り込む。

すかさず、特殊矢を弱点に打ち込んだ。続けて杖に装備した風の魔石で矢を加速する。

見事に矢は深く刺さり、それだけで大きな効果を出す。

魔獣は今までに聞いたことが無い声を上げる。

矢が刺さった部分から紫電が走り、魔獣の胴体を駆け巡る。どうやら体を痺れさせることに成功したようだ。

明らかに二回目の突進は速度が遅く、躱すのが容易だった。

そして忘れずに、追加の特殊矢を打ち込む。

これを繰り返すこと数回。

矢は魔素の収束点に合計で4本刺さっていた。

牛の魔獣は完全に動きが鈍っていた。やはり魔素の収束点を攻撃するのはかなり効くのだろう。リスクをとった価値はあった。

これなら念入りに最大火力の雷撃を打つための準備ができる。

そう思い、一瞬だけ気を抜いた時だった。やはりまだまだ俺は戦闘経験が少ないのだろう。

魔獣は本能から、その一瞬を見逃さなかった。魔獣の体から噴出した蒸気の向きが突如として変わった。まるでジェット噴射のようだ。

羽のように生えていた部分を地面について六足となって、高速の突進を繰り出してきた。

一瞬の判断で後方に飛べるように風の魔道具を発動し、自分を吹き飛ばす。しかし魔獣の速度のほうが早く、俺は正面から受け止めるようにぶつかってしまう。


全身から強制的に力が抜けていくような感覚になる。いやとてつもない慣性を受けて、足や腕が重く動かせないのだ。

遅れて、言い表せない痛みと力が戻ってくる。

杖を離さなかったのは自分で自分をほめてあげたいところだ。

薄っすらと残った意識を頼りに杖に仕込んでいた回復の魔石を起動する。


緑白色の光が、体中を包み込む。吸い込まれるように消えていく。

痛みは消え、ようやく周りの情報が飛び込んでくる。もうすぐ地面だ!咄嗟に背部の風の魔石を再度発動し、わざと自ら飛ぶ。

後方に川があった事を思い出したからだ。

柔らかいような、硬いような感覚を背中に受け、冷たさを感じる。

いくばくか衝撃を吸収できたはずだ。続けてさらに回復を行う。


何とか持ち直し立ち上がる。膝上まである水が、川の冷たさを物語る。

明らかに川の流れとは別の流れが発生し体に水の力を感じる。その方向を見ると魔獣も水の中にいた。

どうやら完全に狙われているようだ。お前を倒すと言わんばかりに・・・

そう物語るように魔獣は鋭い眼光でこちらを睨んでくる。

魔獣は間違いなく水の中でもかなり動けるだろう。この場所ではこっちの分が悪いか・・・急いでここから脱出しないと!


しかし・・・まるで俺の思考でも読んだかのように魔獣は次の行動をとる。

魔獣は川の水を利用し、噴出した蒸気は、その量を増し今まででは考えられない勢いで周囲を覆いつくす。

濃霧が発生したのだ。視界が1メートルもない。このままでは魔獣が何処から来るか分からない。

また不意に水の流れが変わり、いちかばちか適当な所に飛び込んだ。瞬間、真横を魔獣のような物が通り過ぎる。


こんな方法をとっていたら、すぐにやられてしまう。回復だって無限じゃない。さっきの回復でかなりの魔素を消費してしまったと思う。

居場所が分からない。目に頼っていてはじり貧だ。すぐに探査魔術に切り替える。

「大丈夫かー、魔術使い?」

不意に近くに潜んでいた傭兵が声をかけてくる。あちらから、こちらは見えていないだろう。

「大丈夫だ!視界が悪い。お前たちでは対応しきれない!、こっちに来るな!」

「お前ひとりでどうにかできるわけないだろ!」

そんなことは、ここに追い込まれた時点で分かり切っていることだ。それでも、どうやっても生き残ってやる。

「なんとかする! そっちはそっちで戦闘用意しておいてくれ」

死ぬなよーっと掛け声が遠くなっていくのを聞きながら探査魔術の反応を確認する。

すぐに魔獣の反応を捉え、その方向をみる。こちらに移動していることを察知し、風の魔道具を使って回避行動をとる。


一体どうやって魔獣はこちらを感知しているんだ。いや、そんなこと気にしている暇はない。

ここら辺一体の地形は予め頭の中に叩きこんでいたので。何とか川岸に上がることができた。その間にも2回ほど突進を繰り返されたがギリギリで躱し続けた。

しかし、魔素の限界が近いことを、ぐっと重くなった足が伝える。もう最大の魔術は撃てない。圧倒的に魔素が足りない。

急いで決着をつけなくては!

川岸に上がっても霧は晴れていないので、ちょっとやそっとで晴れる霧ではないのだろう。

さらに相手がどこから突進してくるか分からない。

ほんのりと冷えた霧が頬に触れた。


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